ヒントは知らない世界にある

病院では「うつ」とは診断されず「心身疲労状態」と診断された。これは「うつ」が数回の受診で診断できるものではないこと、また、落涙や嘔吐があったものの、睡眠障害やパニック障害など、生命活動に明らかに支障が出るほどの重度性がないことも関係しているのだと思う。私自身も、記事に #うつ というタグをつけておきながら、一般的に言われる「うつ」や「新型うつ」とも違うのではないか、という感じはしている。

最初は「新型うつ」ではないかと思った。会社のことを考えると辛い、でも自宅ではテレビを見て笑えるし、家族とも変わりなく会話することができるし、食欲にも問題がないので、料理もやろうと思えばできる。マスクをしていれば、車を運転して外出することもできる。「仕事以外のことはできる」という一般的な認識からすると、私は「新型うつ」のようにも見えるのだが、実際の心の内は、一緒に暮らしている家族であっても「そう考えてるとは思わなかった」と目を丸くしたほど、社会から弾き出されるとか、職歴に傷がつくとか、この地域では生きていけないんじゃないかとか、いつも何かしらの不安が渦を巻いていた。ひどいときには求人情報と1日中にらめっこして、かつての自分のイメージのまま働くの想像していたし、その様子を後で振り返ると、「焦り」というには言葉が足りない、ノイローゼのような感じで、いずれにしても、どの本で読む「新型うつ」でも言葉から読み取れる像と自分との乖離は大きいように感じた。

分からないことは聞いてみよう。
通っている心療内科医にありのままを話した。そうすると、返ってきた答えは、こんな感じだった。
「一般に言われる「新型うつ」とは考えにくいですね、おそらくもともとEminaさんはノイローゼ気質ではあると思うんです。でもそういう気質であること自体を否定する必要はありませんよ。それを自覚していて、冷静にコントロールしようという気持ちが芽生えているのは良い傾向です。それに、人生なんて長いんですから、今の休みなんてあとで振り返ったらちっぽけです。焦らず、ゆっくり休みましょう。」

この先生とお話をするのは、これで4回目だったと思う。だけど、思ったよりも私のもともとの気質を感じ取ってくれていたことに驚いた。初診の時から、なるべく薬は出したくないと言ってくれる先生で、傾聴も上手だったのでホッとしていたのだけど、なんというか、すーっと「分かってくれてる」と感じさせてくれたことが嬉しかった。

最近は、社会不安障害の患者向けのうっすい本を時々開いている。社会不安障害と診断されたわけではないが、医療現場でも使うというチェックシートで不安傾向が非常に強く表れていたので、ヒントがここにあるかもしれない、と思い手に取ったものだった。その中で認知行動療法として「自己主張」のトレーニングが私の中では大きく響いた。

私はもともと、自分の言いたいことを言うまでにいくつものハードルを越えてから言葉にする癖があった。ただそれは言いたいことの1割未満の話で、残りの9割以上はハードルを越えられずにぐっと飲み込んでおり、そのことを時々苦痛に感じていた。その本には、言いたいことを言わず飲み込んでしまう理由の一つとして「根拠のない強い思い込みがある」とあり、例えば「相手に愚策だと馬鹿にされる」とか「反抗的なヤツだと思われる」とか、過去にその相手に言われたわけでもないのに、”豊かすぎる”想像力で自ら自己主張の芽を摘んでいるというわけだ。

結構あり得ない例えが出てきて、いろんな意味で面白い。
例えば、長電話が多い友人が「ケータイ貸して!」と自分に言ってきた時、タイプ別にどんな返事をするか?
①自己主張が苦手な人:「いいよ、でも長電話しないでね」←効果あるわけない忠告
②ヒステリーな人:「図々しいな。だれがアンタになんか貸すか!」←関係を保てない
③自己主張を心得ている人:「いつも長電話するのを見ているから、できれば貸したくないな。別に○○のことが嫌いだって言ってるんじゃなくて、今は無料通話アプリもあるからそっちを使うようにしたら?」←代替案ですり替え

そもそも、ケータイ貸して!と言うようなシチュエーションもそんなにないだろうけど、まーそれなりに理不尽なこともあるということで。こういうのを客観的に見たら「③がいいよな」とは思うんだけど、自分のこれまでのことを振り返ると、結構無意識に①をやっている。しかも、心のどこかで議論をしたくないから他人の主張をすっと受け入れることが「我慢強い」とか「相手にとって使いやすい存在でいられる」とか自己正当化していて、思考停止に陥っているような気がした。

「そうか。次の一歩を確実に踏み出すには、ここを越えないとだめだな」
と、確信めいたものを感じた。これは大事な気づきだと思っている。

医師の言葉しかり、書物しかり、結局、打開のヒントは私の知らない世界にあって、私が踏み出すための心身の充電ができれば、私の知らない世界がきっと何かを教えてくれてどこかしら前へ進めるだろう、という気がしている。

余談だが、これまで言いたいことをぐっと口元で堪えていたため、唇のすぐ下の顎の筋肉と奥歯付近の頬の筋肉の凝りが尋常ではなく、軽く押すだけでも痛かった。休職後3か月がたった今、凝りは知らぬうちに改善され、フェイスラインまですっきりした。
「お前そういうとこは随分わかりやすいヤツだな」と、素直なところを一応褒めておこうと思う。

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