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かたはれどきのたわごと

原作版の『神様のカルテ』の世界観がとても好きです。なんというか、物語の中で起こるできごとは極めてふつうのことなのだけど、毎日の時間がゆっくり、確かに流れていく中で、過ごしてきた時間と、いまと、これから過ごすちょっと先の未来を、雪の道をずっしりと踏みしめて歩くように生きてゆく。そんな感じがするからです。

きょうは、まだ体調が良くならないので午前中は寝ていたのですが、午後になって、外の空気を吸ったほうが元気になるかもしれないと、近くのカフェに出かけることにしました。バスで30分、金町駅近くのスターバックスです。

金町駅まで乗るバスの中で、いろいろのことを考えたので、ここに書きつけておこうと思います。

わたしは、かたはれどきが好きです。かたはれどきは、太陽が沈んでから夜が来るまでの、外がぼうっと明るい時間です。真上の空の色は暗くなってきているのに、太陽が沈んでいったほうの空はオレンジ色っぽくて、そのグラデーションがなんとも色っぽく思えるのです。商店街の道からみると、まるで電線が空に線を引いているように見えて、それも好きなのですが。きょう、バスを待っている時間帯に見えた空も、とても美しくて嬉しくなりました。

バスに乗ってしばらくいくと、『細田踏切』というバス停があります。バスの中で細田踏切の降車アナウンスが流れると、バスは橋を渡ります。橋の名前はわかりませんが、渡る川は新中川です。バスの中からみる橋と川はとても綺麗です。行きのバスでは、かたはれどきの空と川が見えて、それはたいそう綺麗で、写真を撮るのも忘れて見入ってしまいました。帰りは、橋の上でバスが止まったので写真を撮れたのですが、あたりはもう真っ暗でした。

カフェでは『神様のカルテ』の原作版の第1巻を読みました。物語の終盤に、こんな言葉が出てきます。

「人は生きていると、前へ前へという気持ちばかり急いて、どんどん大切なものを置き去りにしていくものでしょう。本当に正しいことというのは、一番はじめの場所にあるのかもしれませんね。」

主人公のお医者さまの名前が、一に止めると書いて一止(いちと)と読むのですが、縦に書くと『正』という字になります。それに気づいた、病気のおばあさんの言葉です。正しいことというのは、わたしにはよくわかりませんが、前へ前へという気持ちばかりが急いてしまうことは、わたしにも覚えがあります。前へ進み、さまざまなものを勝ち得ていけば、自分が元いた場所からどれほど遠くまで来たのかわかりやすいですし、まわりからも褒めてもらえるかもしれません。でも、いつのまにか、前に進むことそのものや、手にしていないものを手にすることや、まわりから称賛されることが目的になり、はじめに向かおうとした場所や、はじめに感じていた気持ちを、見失ってしまうのかもしれません。

まわりから褒められたい、認められたい、自分が成長したい、という思いが強く行動に現れてる人が得意ではありません。でも、こういった思いは、わたしにもないわけではありません。だからこそ、はじめの気持ちや、はじめの場所を忘れないでいたいものです。


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