私の考えるついたて将棋上達法③(補足とまとめ)
(2024年12月28日追記)
タイトルを変更しました。
シリーズ最終回です。
今回は、前回までに書き切れなかった内容を書いていきたいと思います。
抽象的な内容が多めですが、なるべくかみ砕いてお伝えできたらと思います。
※前回までの内容はこちら
形勢判断において重要な指標
始めたてのころ、居飛車で攻めて▲23歩成△同?となった局面で、▲27歩と打つことがよくありました。
・▲23同飛成→相手が飛車を取れない場合、一番戦果が上がる。しかし、取られると駒損する。
・▲27歩→駒は取れないが、飛車を取られることはない。
という理由からです。
駒の損得の尺度だけでナッシュ均衡(違うのだけれど)を目指していたんですね。
ただ、この考えは以下の指標を考慮していない点で疑問でした。
(1)速度
まず、「速度」です。
△23同?に▲27歩と打つと、▲26歩~▲23歩成までの4手分を損することになります。
いわゆる「手損」であり、速度で相手に劣っています。駒の損得と違って一見目に見えないので気づきにくいですが、潜在的に損をしてます。
最序盤の駒損を過度に恐れるのは、とくに可視将棋のプレイヤーにありがちな傾向だと思います。
ただよく考えると、可視将棋でも、手元にたくさんの駒を持った状態(とりわけ終盤戦)では、「速度」が1つの形勢判断基準になります。
「終盤は駒の損得より速度」「玉の早逃げ8手の得あり」といった格言の存在がその証左です。
ついたて将棋では、相手の駒が見えない分、予期せず駒を多く手にする可能性が可視将棋より高まります。
だからこそ、終盤戦に用いられがちな「速度」という指標を、可視将棋よりも早い段階から意識する必要があるのではないかと考えています。
(2)情報
次に、「情報」です。
先の例で言うと、▲23歩成の時点で「先手が2筋の歩を4手分動かしたこと」はお互いの知りうる共有情報になっています。
ここで大事なのが、「先手の4手分の駒の動き」が共有されているということです。
一方、後手の動かした駒・手数は、少なくとも▲23同飛成と取るまでわかりません。
▲27歩と打つとどうでしょう。
後手の「謎の駒」2手分、先手の「歩」4手分の交換になり、情報量で先手が損していることがわかります。
また、▲27歩と打つと初形に戻るため、次の情報収集に向けて時間を要します。
「情報」と「駒の損得」、どちらを優先するかは難しいところですが、▲23同飛成と▲27歩との比較においては、駒損リスクより情報獲得が優先され、▲23同飛成が優るのではないか、というのが私の考えです。
おそらく、上位プレイヤーの認識も概ね一致するところだろうと思います。
*「情報」について補足
ついたて将棋は、一方が相手よりも情報を多く持つゲームです。
いわば、ついたて将棋は、情報の非対称性のあるゲームです。
情報の非対称性を前提としたとき、いかに情報を持っている側(情報優位側)になるかが問題となります。
ついたて将棋において考え得るアプローチは、大きく分けて
①相手の情報を攪乱すること
②自分の情報を収集すること
の2つです。
まず①の具体例として、後述する「照れ隠し」や「エッシャー合」などのブラフ・偽装が考えられます。これらは高度な手段です。
次に②の具体的を見ていきます。こちらの方がベーシックです。
例えば、「77歩・88角の配置から、▲76歩と突いて王手がかかった(駒は何も取れていない)」という状況があるとします。
これだけ見ると、玉位置を特定しやすく、一見先手が得しているように見えます。
しかし、玉は75にいると即断すると、先手の索敵効率は著しく落ちます。
角のライン上に玉がいる可能性もあるからです。
一方後手は、うまく合駒ができれば、角による王手だとわかります。
ただし、単に玉が逃げると何の駒による王手かわかりません。
もし仮に、先手が後手の玉位置を75と誤認し、かつ後手も角の王手だとわからなければ、このやり取りの結果はイーブンと言えるでしょう。
逆にどちらか一方が正確な情報をつかめれば、その点において優位に立つことができます。
とはいえ状況は絶えず変化しますから、その都度情報も更新しなければなりません。そのためには、短期記憶の力が欠かせないと感じます。
まとめると、ついたて将棋では情報優位側に立つための振る舞いが大切であり、その手段として短期記憶の力が求められます。
(3)小括
拾える情報を拾っておかないと不利になります。
ただ、駒の損得や制限時間(クエストなら5分+フィッシャー)という制約があるのが難しいところです。
実生活に例えると、世間の様々な出来事に対峙するためには、知識を涵養し経験を積むことが求められる。けれど時間や金銭は有限、という感じでしょうか。
ついたては人生。
ともあれ、可視将棋と違った物差しを持っているかどうかで、取り得る戦略が増える、という事実は確かです。
ついたて将棋においては、「速度」ひいては「情報」が重要な指標になる。
これを体得するのに時間がかかりました。
※脇道に逸れますが、駒の損得については、タダで取られるくらいなら何かと交換した方が良いと私は思います。
可視将棋に「二枚替えなら歩ともせよ」という格言があります。
これは誇張つよめの格言ですが、ついたて将棋では「駒交換なら歩ともせよ」くらい言っても大袈裟ではないと思います。
守備面におけるミニマックス法
ミニマックス法とは、想定される最大の損害が最小になるように決断を行う戦略のことです。
上位者の指し手には、ミニマックス法が意識されたものが多いと感じます。
(↓ミニマックス法について書かれたコラム)
ミニマックス法の適用場面について、よくあるケースを言語化しておくと、指すときの助けになると思います。
攻撃面では、
・自分から2択攻撃に飛び込まない
・王手をかけた後に1番逃げられたら困る地点を潰す
・入玉ケアをする
などが頻出場面。
攻撃において、ミニマックス法を意識しているプレイヤーは多いのではないでしょうか。
一方、守備におけるミニマックス法は攻撃におけるそれよりも難易度が高いと思います。
以下に一例を示します。
・各種速攻への対応
前回のnoteを参照のこと。
・速攻された後の駒回収
攻める前に自陣の駒を一掃する。
・最下段への大駒の侵入阻止
基本前方への利きの方が多いため、裏を取られると状況が悪化する。
対応として、
・厚みを築く
・角道遮断 など。
私自身、レートが上がっていく過程で、守備意識の高まりを感じました。
その他いろいろ
いろいろと雑記しました。おまけ程度に読んでいただければ幸いです。
・偶数金理論(仮説)
ついたて将棋の駒組で、「縦のマス目+横のマス目=偶数」の位置に金を配置すると安定しやすいのでは?という仮説。正しいかは不明。
・3手の読み
可視将棋と同じで、3手の読みが大事そうです。
・1手にたくさんの想いを乗せる
1手に2つ以上の意味を込められるとつよそう。1ターンで2手以上の価値のある手を指せるのが理想かも。
・歩の利く筋の意識
結構大事そうです。
歩以外の駒で自陣の歩を取られたときに、うっかりしやすいです。
・持ち駒把握
基本は「自分が持っていない駒」ですが、一旦交換した駒は別途覚えておかないとパニックになります。。。
・大駒の王手への対応
大駒の王手に、条件反射で移動合しないのが大事そうです。
・棋風の垣根を越えて見られる手筋
上位者の指し回しは十人十色、千差万別ですが、棋風の垣根を越えて見られる手筋も結構あります。
いくつかご紹介します。
勝手に命名してるものもかなりありますが、ご容赦ください(笑)
〔フック(勝手に命名)〕:相手の駒のいそうなポジションへの駒打ち。
〔影移し(勝手に命名)〕:王手ラッシュをかける中での玉位置調整。
〔アクセルジャンプ(勝手に命名)〕:相手の角を66や55で取った後に、22に空成りすること。
〔照れ隠し〕:同玉反則など相手に把握されると不利に働く反則を他の反則に偽装する行為。
〔エッシャー合(勝手に命名)〕:大駒の空き王手に対し、あえて1反則消費して同玉反則を偽装する行為。
〔玉ポケット理論(hamuchanさんが勝手に命名)〕:駒を歩で取られたあとに、歩の裏に玉を移動すること。相手の盲点に入りやすい。
最後に。
・楽しんでなんぼ!
これが一番大事かも。
おわりに
「推し」の下積み時代を知るのが好きです。
いま表舞台で日の目を浴びているあの俳優さんにも、メジャーになったあのバンドにも、あまねく下積み時代はあります。
成功の裏にはこんな過去があったんだ!
そんな足跡を辿るのが好きです。
世間で人気が出る前の若手も好きです。
インディーズバンドや小規模な劇団の、ギラギラした感じが刺激をくれるからです。
また、コアなファンだけに良さが伝わっているのを感じられるから、という何とも痛々しい理由もあります。
男の子が小さいころ、自分たちだけの秘密基地を作って胸を高鳴らせたあの日の感覚に近いのかもしれなせん。
そしてやがて彼らが巣立っていく時に、身勝手な親心と一抹の寂寥感を胸に秘めながら、「売れる前からファンだったんだよ」なんて決して言わずに、ひそやかに応援し続けるのです。
余は如何にしてついたて将棋の虜となりし乎。
純粋にゲームとしての面白さもありますが、それ以上に、ついたて将棋は、私にとっての秘密基地の1つだったのかもしれません。
今はまだ決してメジャーとは言えないこのゲームが、あの頃の隠れ家のように魅力的に映ったのでしょう。
ただ、いずれは今よりもっともっとたくさんの人に指される日が来ると良いな、と思っています。
その暁には、「有名になる前から指してたんだよ」って思わず零してしまうかもしれないけれど。
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総文字数1万字超、全3回にわたる長文をお読みいただき、ありがとうございました。
記事を通して、ついたて将棋の面白さを少しでも感じていただければ、幸甚の極みです。
このnoteが、現在、そして未来のついたてプレイヤーの上達の一助となることを願っています。
1年後のあとがき
このシリーズを書いてから1年が経ちました。
初めて書いたnoteということもあり粗削りな印象は否めませんが、当時の熱量を感じられるため内容の多くを投稿時のままで残しています。
シリーズ投稿時は三段(最高R1920点)だった私は、現在R2050点を超えるまでに棋力を伸ばすことができました。
色々な要因が考えられますが、やはりnoteを通じて思考の言語化を怠らなかったのが大きいのではないかと分析しています。
現在のついたて将棋に対するモチベーションは以前ほどはないのですが、いずれは、再びこの当時の熱量で取り組める日が来ると良いなと思っています。
2025年節分