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あの世界では彼だけが自由だった


中学生の時
Tくんという男の子がいた。


授業中に奇声をあげたりする
いわゆる「普通」とは違う子だ。


特別学級ではなく
普通のクラスで授業を受けており


普通は言わないようなこと
普通はしないようなことをする

彼はたびたび話題に上がった。


普通の中学生が分からないなりに
みんなに合わせて生きていた私は
彼のような存在が信じられなかった。


と同時にすごく気になる存在だった。


ある日、彼はみんなが授業をしている中
体育の授業でもないのに体操着を来て
渡り廊下で気持ちよさそうに昼寝をはじめた。


ぽっちゃりした体型に
だらしなく体操着を着た彼は
まるでゆるキャラのようだった。


そういえば
いつも素足にスリッパだった。


退屈な授業を紛らわすために
窓の外ばかり見てた私は



とてもいいお天気だったあの日
青い空の下で昼寝する彼の姿を見て
心底羨ましくなったことがある。


もしかしたら
この場所で自由なのは彼だけかもしれない…



全体からはみ出すことを恐れず
同級生の目も、先生の目も気にせず
彼は彼らしく存在していた。


全体からはみ出すのが怖くて
普通を演じ続けていた私は


彼の自由なあり方を見て
心が癒されているのが分かった。


どうして私は彼のように
生きてはいけないのだろうか…

そう思えてならなかった。


Tくんは結局先生に連れ戻されたけど
私には連れ戻す方が理不尽に思えた。


彼を全体の檻の中に入れることが
本当に彼の幸せなのだろうかと思った。


あのまま昼寝をさせてあげたかった
そう思えてならなかったのだ。


この世界は何かがおかしいと
子供ながらに小さな違和感を覚えた。


理不尽な学生生活に嫌気がさし
目が死んだ大人たちに囲まれていた中
あの日、私は絶望の中に希望を見た。


彼は光だった。


普通ではない彼こそが光だった。


私も自由になりたい…


本当はこんな授業受けたくない
本当はこんなこと言いたくない
本当はこんなことしたくない


本当はこんな風に生きたいわけじゃない…


当時の感情が言語化できるのであれば
あの時、本当はそう思ったんだと思う。



あの学校で唯一光っていた彼は
今どこで何をしているのだろう。


卒業してもう何年も経つけど
晴天の青空の下、渡り廊下で昼寝する
Tくんの姿を時々思い出しては
心がほっこりしている。


あの光景を見た時
学校という檻の中で


鬱屈していた私の心が
解放された感覚を思い出す。


あの瞬間だけは
本当に幸せだったと言える。


最後までお読みいただき、ありがとうございます♡