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転生後くらい違った秋夕の風景

以前、自分と同じく韓国人と結婚した日本人友達が言った話が印象的だった。「義母さんに毛皮を買ってあげようと思って一緒に百貨店行ったのに逆に買ってもらっちゃった」義母さんとそんな関係になれるのは素敵だと思った。けど百貨店にも毛皮にもまるで縁のないうちの義母との間ではそういうの難しそうだと思った。そしてうちの義母は夏前に永眠なさった。



義母の49日も真夏に全部終わって一区切りがつき、先日初めての秋夕(お盆のようなもの)がやって来た。我が家の名節はソウルにいる2番目の兄嫁が一手に引き受けてやってくれている。(コロナ前までは田舎でやってた)伝統的には韓国の家庭行事は長男家庭が責任を持つ。我が家にも長男家庭は存在するけど、訳あってずっと「はみだしっこ」状態だ。名節にも来ない。



なのでうちではこの2番目の兄嫁さんが、実質的「長男の嫁」。夫と結婚して以来、4人の兄嫁達の中で一番深く関わりお世話になった。日本での結婚式にも義母を連れて家族で参席してくれた。当時30代だった兄嫁は彫りの深い綺麗な人で結婚式の仲居さん達に「もしや元ミスコリアか?」と噂されてたのも懐かしい笑。



20年以上前の初めての秋夕で「韓国料理はこの兄嫁に習うべし!」と思った。その後数日おうちに弟子入りさせてもらい料理の基本の味付けを習った。習ったからって同じ事出来るわけじゃないけど。皿や盛り付けにも気を遣う人なので味も見た目もいい。お洒落に関してもTPOのポイントをきっちり押さえる人なので、この人にチェックしてもらえれば、大体韓国社会どこにいっても恥ずかしくない。私にとっては「韓国嫁のお手本」の頼もしい兄嫁で、義母にとっても一番お気に入りの孝行嫁だった。



色々区切りがついたので、この秋夕は兄嫁の手伝いにソウルに上がる事にした。ここ数年、秋夕は地元で夫と墓参りするだけで気楽に終わらせていたのだけど。それでも「トンソ、名節の時はソウルにおいで」と優しく呼びつづけてくれた兄嫁だった。「トンソ」というのは兄嫁が妹嫁を呼ぶ呼称。私の方は兄嫁を「ヒョン二ム」と呼ぶ。



腕立ちの兄嫁に料理の手伝いなんて要らないのは百も承知で。ただヒョン二ムは長年ソウルに住みながらも若者に人気のホンデとか梨泰院には行ったことがないという。看護師の仕事と家事に忙しく、かつ世代的にもご主人は手が掛かる男で。なので私は今回秋夕に行ったら、ソウルのホットプレイスに兄嫁を連れ出そう!と思ってた。真面目にお膳つくってる兄嫁には共有しがたい考え方だろうけど。きっと先祖達もヒョン二ムに美味しいものや珍しいものを食べてほしいと思ってる。自分一人じゃ行かないだろうから、私と一緒に行こうよ!って。義兄の昼食はそこら辺にあるもの食べといてよ!と。それしか考えずこの秋夕、ソウルに向かった。



秋夕前日のソウル行方向の高速道路はえらく空いていてスイスイと進んだ。かといって下り方面が混んでいたわけでもなかった。名節前日にソウル行くのは初めてだったので、行き慣れた道も新鮮だった。予想通りソウルでは兄嫁の料理はほぼ終わっていて、手伝ったのは里芋の面取り位かも、それもほーんのちょっと。痒み防止のゴム手袋の着脱の方が時間かかった笑



程良く家中にクーラーの効いた兄嫁の家には、LGのスタイラーというお洋服の冷蔵庫みたいな家電があり、 足元にはルンバが踊る。壁にはスティック式クリーナー。二か所に置かれたヘアドライヤーもダイソンのドーナツ形。数年前のリモデリングで壁紙はまっ白、家具をはじめ食器も全て買い換えたという家の中は新しく清潔だった。綺麗な猫が二匹キャットウォークを歩く。韓ドラに出てきそう~!家電はほぼコードレスなのでシンプルでザ・近未来!。好きでそうしているとはいえ、やたら家電の線が多くて狭い私の家とは、、30年位色々違う~。おかしいな、場所移動しただけなのに、タイムスリップしたようだ笑




ちなみに「オンニの産地直送」という人気のバラエティ番組がある。「スカイキャッスル」主演女優のヨム・ジョンアが出てる。丁度秋夕前に私の住む町「コチャン」の回が秋夕前に放送されたので皆でワイワイと鑑賞した。名節に渋滞でヘトヘトになって到着するコチャンはさびれた田舎町だけど、高級アパートでテレビ画面を通してみたコチャンは自然豊かな素敵な町にみえた。実際私の住んでる所はいい所!


 


カルビにクルビの豪華な夕食が終わった後、兄嫁が言った。「さあ!今から映画に行こう!トンソが来るっていうから映画を予約しといた!」兄嫁のアパートの側に大きな複合施設がある。もうすぐ結婚するその家の娘と兄嫁と私の三人は食後の散歩がてらゆっくり歩いて映画館に向かった。そんな近所に大きな映画館があっても兄嫁自ら行くことはないという。



映画の始まる前はショッピングして、コーラと焼きイカを手に席に着く。大きなスクリーンに映し出された映画はファン'ジョンミン主演の「ベテラン2」だった。前作を見てなくても十分楽しめる話だった。警察が知恵の回る極悪犯を追い詰める話で、マ・ドンソクとはまた違う熱血刑事の話。数年前までの秋夕では、田舎の古い狭い暑い家でこの兄嫁さんとせっせと大量の料理を作っていたのに。今はさっさと料理を終わらせて涼しく映画をみてる。なんかもう転生した位秋夕を巡る全てが違ってた。


↑こちらベテラン2の予告


「私がヒョン二ムを楽しませてあげたい!」という思いでソウルに来たのに、兄嫁の方が「私がトンソを楽しませてあげたい」という思いにぶつかって、結局は愛されたというのが、冒頭に書いた「義母に毛皮買ってあげようと」の話と重なった。そういう風でありたいと願ったことが、いつしか自分の人生にも優しく実現してた。じんわり嬉しい思いだった。




昔、韓国では(日本もそうだった)兄弟の年が離れすぎていて、兄さんが父親がわり、姉さんが母親がわりみたいな事がよくあった。義母は私にはかなり遠い人だったけれど、気の利いた兄嫁がまるで義母代わりのようによくしてくれる。私が兄嫁の所に行けば兄嫁が遊べるのなら、私がせっせと行かないとね。私の仕事は「愛されること」だな笑



翌朝,兄嫁と名節膳を整えた。兄嫁の真心がこもった料理が輝いてたので「ヒョン二ム、義母さんが本当に喜んでますね。うちの義母さんにヒョン二ムみたいな腕も心もある嫁がいて本当に良かったです。」超特急で片づけを終わらせ兄嫁の家からほど近い聖水洞に向かった。兄嫁と娘と私の女三人で。聖水は昔は大型倉庫や修理工場の多い町だったが、今や外国人観光客が溢れるイマドキのホットスポットの一つだ。コロナ期以降ぐっと注目度が上がった。




こんな風にお洒落になった聖水に来たのは初めてで面白い、と兄嫁が喜んでくれた。ふらりと入ったブランチのお店も美味しかった。最後に寄った人気のベーカリーで、ヒョン二ムはさらに土産のパンを持たせてくれた。もう既にトランクは名節料理でパンパン!大きな梨が三つも入ってて重い!どこまでも行き届いたヒョン二ム。韓国の姉妹愛はずっしり重くかつ大きく食べ応えがある。人によっては胸やけだろうが、大丈夫!私の胃は消化力が高い、かみ砕いて味わって美味しい!




田舎の秋夕でも早めに料理が終わる日もあった。ちょっと車で行ける映画館があったのでいつも兄嫁を誘った。でも兄嫁は義母が生きているうちは絶対にそうしようとはしなかった。「オモニの手前、、」がヒョン二ムの中では大きかった。末っ子嫁で外国人の私には手前もへったくれもなかったけど。兄嫁には義母が逝かれたから出来る事もあるのだと思う。



前は祭祀を正しくやらないとと思ってた。だから祭祀の決まりをせっせと覚えた。外国人なのに涙ぐましいと我ながら思う。紅東白西(赤いものは東で白いものが西)や棗栗梨柿(お供えを並べる順番)とか色々ある。けど韓国人自らがもう名節なんてやらなくなってるこのご時世、お供え正しくなくていい。家族が笑って集まれるならそれでいい。左右どっちでもいいやと思えて心穏やかだった。お膳変でも問題無し!



うちの兄嫁さんはトータル素敵な人だけど、腕が立つだけに口が立つ部分もあり、過去には「ひどい事言うなあ」と思ったこともあった。関わりが多い分良い事ばかりではなかった。そういう事をやたら細々と覚えているのは、自分の長所なんだか短所なんだか。しかし今や「ヒョン二ム、私傷ついたんだけどあれ覚えてますか?」と聞いても、兄嫁はきれいさっぱり忘れている。私がジクジクと後生大事に覚えていても、私のメモリーが喰われるだけなのでまとめて消去!次行こう!。こちらも加齢で忘却が得意になって来た。「あんだっけ?」



田舎で終わらない料理にうんざりしてた頃の自分と今の自分は大分違う。兄嫁さんだって違ってる。そして嫁ぎ先の重要人物だった義母は、夏前にこの世の舞台から退場なさった。変わらないと思ってたことが、気が付いたら色々変わってた。あっ、聖水洞なんてまさにそう。気が付いたらめちゃくちゃ変わってた場所笑 義姉とも新しい章を開いて一緒に新しい事を書き込んでいきたいと思う。まだまだ兄嫁とは梨泰院にも弘大にも行ってない! 始まったばかりだ!


そんな新しくも楽しい秋夕となりました。ありがとうございました。




















































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