INTERVIEWとは、自分が介在して、みんながハッピーな形で場を編集すること / #1:西村創一朗
インタビューの達人のインタビューについての極意を、インタビュー取材の名手・宮本恵理子さんが聴くインタビューイベント、INTERVIEW ABOUT INTERVIEWの第1回目が2020年5月30日に行われました。
第1回目のゲストは、西村創一朗さん。
インタビュイー(話し手)/西村創一朗
複業研究家/HRマーケター。『複業の教科書』の著者。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。コミュニティやメディアを複数運営するほか、BUSINESS INSIDERなどのメディアでインタビュアーを務める。
また、イベントやセミナー、カンファレンスでのモデレーターとして年間50本以上のイベントに登壇するなど、「聴く」ことを生業にしている。
このイベントは、宮本さんが講師・西村さん主催ですでに4期まで実施したインタビュー特化型ライター養成講座 「THE INTERVIEW」のスピンアウトイベントとして位置づけられています。
これまでの講座の受講生から、「実際に宮本さんがインタビューしている現場を見たい!」という要望が出ていたものの、講座の構成上、その時間を組み込むのは難しいという事情がありました。他方で「インタビュー術を聴いてみたい人が何人もいて、私も学びたいと思っていた」と宮本さん。そこで公開インタビューの形でおこない、インタビュー術について一緒に学ぶ時間にしていこうという狙いのイベントとして、立ち上がりました。
1万人以上の方をインタビューされてきた宮本さん。インタビューした方は、普段話されないご自分の物語をみなさんお話ししてくださる。その物語をその方に寄り添って聴き取り、その方がおっしゃったことや伝えたいことが的確に伝わるように表現するのがご自分の役目だと、インタビュー力養成講座 「THE INTERVIEW」の中でもお話しされています。その宮本さんが"インタビューの名手”として注目する西村さんの聴く極意とは?
モデレーターは天職
--私は西村さんの最初の本である「複業の教科書」の文章構成をさせていただいたり、パラレルキャリアについての対談などの現場もご一緒する機会に恵まれました。記事化するためのインタビューだけではなく、イベントのモデレーターとしても鮮やかに場をまとめる西村さんですが、インタビュー術に特化して取材されるのは今回が初めてだとか。
複業研究家・HRマーケターの傍ら、ライフワークに近い形でインタビューやイベントのモデレーターをやるのが好きで、モデレーターが天職と言えるほど。
インタビューナレッジを公の場で話すのは今日が初めてです。ひとつでもお役に立てることがお伝え出来たら嬉しいです。
--現在ご自身が主催する「U-29ドットコム」というメディアのユニーク大学というコミュニティで、毎朝8時から9時に100日連続インタビューをなさっている西村さん。イベントのモデレーターはどんな時にされていますか?
自分が主催するイベントのモデレーターもあれば、他社さんが主催するイベントにゲストモデレーターとしてお邪魔する場合もあります。複業や人事系のテーマが多いですね。ペースとしては、イベントのモデレーターが週1回から3回ほどです。
--西村さんがモデレーターをお願いされるときの相手の期待ポイントは?
まずモデレーターをお願いされるきっかけから言うと、イベントに参加した人がイベントで僕がモデレーターをしているのを直接見て、ぜひ自分の主催イベントでもモデレーターをお願いしたいとお声掛けいただけるケースが一つ。もう一つは、僕が「モデレーターをやりました」「モデレーターをするのが好きです」と発信しているのを見た方からお願いされるケースです。
声をかけていただける理由としては、パネラーと対等の業界知識を持って話せそうだということ。それに加えて、安心して場をまかせられる最低限のモデレーター力を期待して、ご依頼いただけているのかなと思っています。
--西村さんのモデレーションを拝見していて感じるのが、スピーカーが前提の部分を省略して話している場合に、そこを解釈・補足したうえで会場に戻すことを意識されていらっしゃるということです。
はい、それはとても意識しています。
--「今おっしゃったのは、こういう背景に基づく、こういう意味ですね」と補足説明を副音声のように入れられていますよね?
そうですね。それは必ずワンクッション入れるようにしています。その道に詳しいプロは何の悪気もなく、前提の情報なしに話を進めてしまい、聴いている人を置いてきぼりにすることがあります。アマである聞き手が理解しやすいよう、前提をすり合わせるワンクッションを置くようにしています。
--会場でのオーディエンスの理解度は、どうやって感じていますか?
2種類の人格を使い分ける感じです。人格Aの僕は、その領域について熟知まではいかないが理解しているプロ。人格Bの僕は、その領域について全くわからない、あるいは一部の理解しかないアマチュア。
自分の中でプロの人格Aとアマの人格Bの対話が成立しない時がある。そういう時に「おそらくオーディエンスが置いていかれているな」と判断して、ワンクッションはさむようにしています。
--私もインタビュイーには気持ちよくお話してもらい、読者にもわかりやすく伝えられるよう、「インタビュイーと読者の間を寄り添い・離れ、ニュートラルに行き来する」と講座で説明しているのですが、その感覚に近い感じでしょうか?
まさにそうですね。
--ここのところオンラインでのインタビューやモデレーションの機会が増えていると思いますが、オンラインならではの注意ポイントはありますか?
オンラインもオフラインも、基本的には変わらないものの、2点違うと思っています。
一つはオフラインだと情報が多いので、なんとなく阿吽の呼吸で進めることができるのに対し、オンラインだとそれが難しくなります。オンラインの場合は、1テンポか2テンポ待って沈黙を受け入れることが大事。話を途中で切ってしまうことを避けるためにも、間を意識的にとるようにしています。
--最後まで話を聴き切るということですね。
はい。もう一つ、これがオンライン・オフラインの大きな差だと思いますが、オンラインではどうしてもオーディエンスの表情・反応が見えにくい。
--会場の理解度を肌感覚でつかむのが難しいということですよね。
はい。チャット機能をうまく使ってリアクションを促すなど、オーディエンスの反応を探る努力が必要ですね。オンラインイベントならではの課題だと思います。
事前準備のポイントは?
--西村さんはメモを見ずにその人の経歴が言えるくらい、事前にすごく調べられているのがわかりますが、現場にたどり着くまでの準備は何をポイントにしていますか?
僕は調べるタイミングと時間を決めています。タイミングは、インタビュー前日までと直前との2回。必ず最低でも1時間はリサーチの時間をとって、その人のことを調べます。
情報ソースは主に3つです。
まず、過去記事やnoteです。
過去にインタビューされた記事やnoteなどご自身で自分で書かれた記事を一通り読みます。その記事が沢山ある方については、最近半年くらいの記事と過去にさかのぼって世に出始めた時期の記事を対比して読みます。
次に、著書。
本を出されている場合は、前日までに1時間おさえてリサーチするのとは別に、最低1冊は読みます。その方に話を聞く予定が決まると、著書を購入して、その方の本を持ち歩いて、一緒に行動するようにしています。普段本はkindleで買っていますが、この場合はあえて紙の本にしています。その人の思想や思考が詰まった本を持ち歩くことで、その人の考えていることをおまじないのように自分になじませるようにします。
--その本を現場に持参することで、当日の話のとっかかりになったりしますしね。
そうなんですよ。さらには、SNSも情報収集に欠かせません。
FacebookやTwitterをアクティブに使われている方をインタビューするケースが多いので、細かいところまでチェックします。「今朝はこんなことを話されていましたね」とアイスブレイク的に使うことが多いです。
また、もともと知り合いでない場合、Facebookの共通の友人などで、その人と過去にインタビューなどでご一緒している人にヒアリングすることもあります。
--初対面でも事前につながりを確認できるとだいぶ安心感がありますよね。お知り合いの方の名前も出せますし。
インタビュアーとは「航海士」である
--時間が限られた中で、何を質問するかはインタビュアーのこだわりが現れると思っていますが、西村さんの質問運びのこだわりを教えてください。
僕は予定調和が嫌いで、結果的に用意した質問を半分くらいしか聞かなかったりします。
1時間で行う場合、切り口として用意する質問は5個から10個くらい。話を進めていく中で、キーワードが出てきて、そこを深堀りしたほうが面白いと思える時は、事前に用意した質問にこだわらず、躊躇なく進路変更します。
--以前、西村さんが「インタビュアーは航海士のようなもの」とお話されたことが印象的だったのですが、この点について詳しく教えていただけますか?
目的地にいくまでの燃料や食料を補給する中継地点、つまり、イベントの主催者側がこれは絶対聞いてほしいという点(インタビューならメディアとしておさえるべき点)を最低3つくらいはおさえつつも、その3点をどう通過するかはフレキシブルに。次の通過点にいくプラン をa b c と3つくらい用意しながらも、全然違うプラン dでいくこともあるし、風向きを見ながら進めることが多いです。この感覚が「航海士」に近いんじゃないかという持論です。
--たしかに西村さんのインタビューやモデレーションでは「すごい!」という感嘆の言葉がよく出てきて、西村さんの感じ取った感嘆のままに航路が変わっている印象です。その場の感覚を大切にされているんですね。
そうですね。それはとても大切にしています。
--質問を聞く順番について、黄金ルールはありますか?
個人のライフストーリーについてのインタビューでいうと、こういうパターンをとることが多いです。
まず現在やられていることをお話いただいた上で、その取り組みをはじめたきっかけをききます。1段階だけ深ぼって、一旦そこで止めます。そのあと一気にさかのぼって、人生一番最初のターニングポイントに行きます。それは小学生の頃だったりとかもっと幼い時になったりとか中高生のときだったりとか、それは人によってさまざまです。そのあとは、そこから順に現在に向かって登っていく感じです。
基本的には時系列に聴いていくのですが、たまに僕はもう一度さかのぼって「あのときの経験はこの話にどんな風につながっているんですか?」と聴くことがありますね。これを僕は「伏線を回収する」と呼んでいます。
あの時話されたことが、今や過去のどこかにつながっているはずなのに、伏線が張られたまま回収されていないケースがあります。きっと、読者やオーディエンスもそこが気になっているはずなので、それを回収するために戻るのです。
モデレーター術の先生は、「とくダネ!」(フジテレビ系)のキャスター、小倉智昭さん!
--複数の話し手がいる場のモデレーションのコツは?
僕は1対1のインタビューよりも、パネラーが複数人いるモデレーターのほうが好きで得意です。特に気を付けているポイントは、"マイク回し"です。
僕は大学3年の時に初めてモデレーターを経験しましたが、モデレーターをするために参考にしたのは、「とくダネ!」のキャスターの小倉智昭さんです。
ただマイクをAさん・Bさん・Cさんと順番に回していくだけだと、話す側も聞く側にとっても単調で面白くないのですが、小倉さんはそこが巧みです。
ここは深ぼった方が良いなと感じたポイントで、グーっと深掘る。今までの流れだとBさんの順番のところを、この話はCさんの方が面白そうだなと思ったら、Cさんに行く。その次はBさんに戻らずにAさんに行く。トータルでは時間の尺も考えていて、次のトピックではBさんに長めに話してもらう。そういうのを見ながら、マイク回しの緩急をつけることが面白い話を引き出すためには大切なことだと気がつきました。
また小倉さんは、「宮本さん、ぜひこれをききたいんだけど・・・○○についてはどうですか?」とはじめに相手の名前を言ってから質問をするんです。質問される側も、名前を呼ばれていると、質問を聞き逃すこともなく、答えやすくなるので親切だなと気づいて、僕もマネさせてもらっています。
参考記事:
http://fullvirtue.com/「とくダネ%EF%BC%81」の小倉さんに学ぶ――発言が活発/
初モデレーター秘話
--ところで西村さんの初めてのモデレーターは大学3年生だったとか。とっても早いデビューですね。どういうきっかけだったのですか?
大学2年生の3月に、今も理事を務めているNPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)でインターンをしていて、「通学している大学で、父親の子育てをテーマにしたイベントを主催しなさい」というミッションを授かりました。
当時、首都大学東京(現在の東京都立大学)の宮台真司教授が、パパになってまもなくだった頃で、子育て論を語られるようになっていたこともあり、大学の名物教授とFJ代表の安藤哲也さんの対談イベントを企画しました。安藤さんを単独で呼ぶよりも、首都大の学生になじみのある宮台先生と安藤さんの対談にしたほうが面白いのではないかと考えたのです。そのイベントのモデレーターが初モデレーターで、200人くらいの参加者を集めました。
--初めてのモデレーターを、ご自分の企画した面白い内容のイベントでつとめられて、大きな成功体験となられたのですね。
そうですね。このイベントでのモデレーターを見に来ていた大学の教授が「とても良かった」と褒めてくださって、大学4年の時、就活に関するイベントのモデレーターにも指名して下さいました。伊藤忠商事の常務だった田尻邦夫さんとオリエンタルランド元社長の福島祥郎さんをお迎えしたトークイベントでした。お金はいただかなかったものの、仕事として初めてモデレーターを依頼された初めての経験で、嬉しかったです。
--その教授は西村さんのモデレーターのどこが良かったとおっしゃっていましたか?
「質問が的確である。」「オーディエンスが聴きたいと思っていることをきちんと質問している。」「答えやすいように付け加えて質問しているので、結果的にいいトークを引き出しているのがよかった。」とのことでした。
「インタビューのやりがい・魅力とは」
--最後に西村さんにとってのインタビューのやりがいや魅力を、一言で教えてください。
僕にとっては、インタビューもモデレーターも"場の編集"だと思っています。
インタビューもイベントも登場人物が必ず四者います。
1. イベントの主催者・メディア(場のオーナー)
2. ゲスト・スピーカー・インタビュイー
3. 読者・オーディエンス
4. 自分自身
自分も含めて四方よしになった時に初めていい場だったとみんな納得してくれる。
四者の期待を満たして、ハッピーにできたときの喜びは何にも代えられません。これはいわば職人芸で、自分の介在価値があったと思えるか。自分だからこそできたと思えたり、自分だからできたと言われた時は、大きな活力になります。ゲストが複数だと全員に満足してもらわないといけない分、より難易度は高くなりますが、難易度が高くなれば高くなるほど、達成した時の喜びは大きいです。こういったチャレンジに興味のある方には、ぜひ一緒にこの道を究めていただけたらなと思います。
--これからお話を伺ってみたいと思っている方はいらっしゃいますか?
いっぱいいます。編集力に長けた方。実際にモデレーターは編集長の方が務めることが多いですね。僕がパネラーとして登壇して、一番感動したモデレーターは浜田敬子さん(ビジネスインサイダージャパン統括編集長)です。その時はAERA編集長で、パネリストに竹中平蔵さんもいらっしゃいました。浜田さんは時間内にぴったりおさめながらも、必要な話題はすべて回収していました。一人ひとりが話した時間は多くないものの、みんながしゃべり切った感があり、聴衆も満足しているのが感じられました。浜田さんの引き出す力とまとめる力が本当に素晴らしいと感動したのを覚えています。これからも先輩方に学びながら、僕なりのインタビュー術・モデレーション術を磨いていきたいと思います。
*INTERVIEW ABOUT INTERVIEWは豪華ゲストを招いて随時開催。
第2回は6/20開催予定です!ぜひこちらからお申し込みください。
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*インタビュー特化型ライター養成講座 「THE INTERVIEW」の詳細はこちらをご覧ください。
登壇者プロフィール
インタビュアー(聞き手)/宮本恵理子
1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」や新雑誌開発などを担当。2009年末にフリーランスとして独立。
主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。一般のビジネスパーソン、文化人、経営者、女優・アーティストなど、18年間で1万人超を取材。ブックライティング実績は年間10冊以上。経営者の社内外向け執筆のサポートも行う。
主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』『新しい子育て』など。担当するインタビューシリーズに、「僕らの子育て」(日経ビジネス)、「夫婦ふたり道」(日経ARIA)、「ミライノツクリテ」(Business insider)、「シゴテツ(仕事の哲人)」(NewsPicks)など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。
文:宮崎恵美子