金融市場とは何か
生活が保証され、自然価格が市場メカニズムによって純粋に需給を反映して定まるようになった時、一体金融市場とは何を意味するのだろうか。
生活が保障された中での金融の意味
生活が保証された状態では、あえて人と関わる必要もなく必要最小限の関わりで生きてゆくことができるようになる。そんな状態で、それでも資金を借りて何かをしたいという状態はいったい何を意味するのだろうか。それは、まず、自分のやりたいということが他者、特にお金のプロフェッショナルである金融機関によって融資をしても良いという承認を受けられるという承認欲求の表れであると言える。そして、融資、すなわち金を借りてでも何か仕事をしたいのだ、というリスクテイクの証明となり、新しい他者との関わりを求める時に一つの信用の保障となると言える。つまり、どこどこの金融機関がこのやりたいと言っていることに金を出しているから、その範囲を外れない限りにおいてはとりあえず信用できるのではないか、という一つの目安となるということだ。
新たな関係性需要を示す金融
これはつまり、金融の需要とは、特に貨幣が交換メディアとしての役割に特化すれば、新たなネットワークを求める需要を反映すると言えそうで、金融需要の旺盛な社会は、まず、金を借りても返せる見通しが高まっているということで、まさに信用状態を反映し、そしてそれぞれのやりたいことがオープンになっているということを示し、社会の交通整理がうまくいっている状態であるとも言えそうだ。
財の先行指標としての金融
金融の需要に対して金融機関が供給で応えるということは、やりたいことのマッチングに関わって、その資金の返済の目処がある程度見えるということを意味する。それは、分業の噛み合わせがうまくいき、そして金融供給の元である預金者の状況などから財市場の需要の見通しもそれなりに立つということにもなり、つまり、金融が財の需給の先行指標としてある程度機能している状態になっているとも言える。それによって生産力がまだ発展途上の市場財についての指標価格形成の役にも立つことになり、リカード的市場価格の形成を機能させる財市場の市場メカニズムもうまく機能するようになるのだと言えそう。
未来への投資残高を示すケイパビリティ金融
金融が短期的鞘取りではなく、長期的なケイパビリティ需給の調整として役割を果たすようになれば、財市場と金融市場の対象時空の違いが明らかとなり、それによって時空の違う座標軸での需給調整がうまく表現されるようになると言えるのかもしれない。つまり、財の生産から販売までは当然ある程度の時間軸を想定する必要があり、投資から回収までは時間差があるので、ケイパビリティの財市場への展開についてはその時間差を埋める資金需要が必ず発生する、ということであり、ケイパビリティ金融はその意味において未来への投資残高を示すものになりそうだということが言える。
財需給との連動性
そんな中で、消費者需要の旺盛なものについては、あちこちで競合の資金需給が発生するかもしれず、需要見通しの範囲内での適度な競争原理は働くのかもしれない。一方で競合の資金需要が旺盛な時、金融機関の融資姿勢は慎重になるわけで、それによって供給力の調整もなされてゆくかもしれない。その意味で過当競争を金融レベルで防ぐ作用も出てきそうだ。つまり、財市場メカニズムを投資段階で機能させるのがケイパビリティ金融となりそうだ、ということが言える。
コール市場について
ここで、金融市場を「近代化」させたとも言える短期のコール市場というものをどうみるか、という問題が発生する。スポット的、オーバーナイト資金というのは、財市場と金融市場の時空を一致させるようなものだともいえ、それは金融市場が財市場の先行指標として機能していない、あるいは生活必需品の需給がマッチしていない状況であるとも言える。むしろ、貨幣市場の均衡を作り出すために、その先行性を無理矢理に現時点での需給バランスの中に閉じ込めようとするのがコール市場であるとも言え、コール資金需要があること自体市場全体が日々の資金のやりくりに追われているという状態を作り出しているとも言えるのではないか。
金融政策
金融政策のテクニカルな部分はあまりよくわからないので間違いがある可能性は十分だが、今の時点での考えを少し表現しておきたい。資金需要は長期金利だけを目処に調整し、コール市場が機能しなければならないような金融政策は止めることが必要ではないか。とはいっても現状すでにコール市場はマイナス金利が続いているわけで、そこはうまく機能しているというべきなのだろう。そしてCPの金利が0を挟んでのスプレッドとなるような調整となっているようで、金融政策でできることはまさに全てなされていると言えるのかもしれない。あえて言えば、CPの買取に上乗せ金利をすることで、民間の信用創造を後押しするということか。これについてはまた別に考察してみたい。
金融の曲がり角
いずれにしても、コール市場は出現からこの超緩和局面に至るまでは財市場を金融市場に従属させるような役割を果たしてきたと言えるが、もはやその役割も終え、そしてコール市場をどれだけ緩和しても実体経済は元には戻らないというポイントオブノーリターンを超えてしまっているようにも見受けられる。つまり、かつては短期金利調整でそれなりに実体経済への影響を及ぼせたものが、もはや長短両金利とも直接実体経済に影響を及ぼすような金融調整機能は利かなくなっており、財市場と金融市場の独立性が強まっているのではないか。むしろ、その間に情報が入り込み、情報によって財市場、金融市場がそれぞれ影響を受けるということになっているようで、金融市場から直接財市場に影響を与える仕組みは想像しづらくなっているように見受けられる。つまり、ケインズ的なIS-LM分析というのが限界に差し掛かり、その間に情報市場が横たわるようになっているが、現在の経済学ではそれをゲーム理論的に解釈しているので、その論理的帰結として情報による需給マッチングがうまくなされず、市場自体の機能不全が起きているのだと言えそうだ。それは、金融市場を貨幣という一つの財市場に貶めている状態であるとも言え、金融政策が今後も有効であり続けるのか、というのは大きな曲がり角を迎えているのだと言えそうだ。