地獄はよいとこ、わたしはここだ。 『ルイーズ・ブルジョワ展』感想①
「このサブタイトル、いかにもあなたが言いそう」
友人からのLINEメッセージと共に、
美術展のポスター画像が送られてきた。
六本木駅にある蜘蛛のようなオブジェの写真横に展覧会の名前とサブタイトルが書いてあった。
『ルイーズ・ブルジョワ展
地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』
ルイーズ・ブルジョワ。
知らない作家さんだ。
そう思うと同時に
「結構に思われるようになったな、私」
と、思った。
ここ一年、私は周囲の友人たちにことあるごとに
「怨霊になってみたいんだよ、怨霊に」と言っていた。
理由はそんなに今は詳しく書こうと思わないが、簡潔に言うと
去年、私は、弁護士からは刑事訴訟しても大方勝てちゃう、
と言われる程のことをされた。
が、実際裁判を起こすには金銭的にも精神的にもハードルが高すぎる。
そんな自分と社会の現状を心底憎しみきった私は、
エヴァンゲリヲンのアスカのごとく
「きらいきらい、みんなだいっきらい」
と、心の中で大癇癪を起こした末に、
「お金もかからない、二次被害を受けることもないような、
でも復讐が果たせる。
それってもう呪いしか方法がないじゃん。
生きてるうちは難しいけど、いつか死んだら出来るんじゃないかな」
という結論に至っていた。
この結論をいたく気に入った私は友人と会話をするたびに、嬉々として
「私の最終ゴールは怨霊ね、日本四大怨霊。4人目になるの。
平将門公や崇徳天皇の後輩になって、恨みの雷をめっちゃ落とすの」
と話していた。
それが功を奏したのか、
去年末に車に轢かれそうになった際には、直後友人二人から
「あんた死ななくてよかったわ!
だってこれであんたが死んでごらんなさいよ、絶対にあんた相手を末代まで祟るでしょう。
子孫とか関係なく呪いに呪いを重ねて、簡単には死なせないで地獄を味あわせるにきまってるもの。
ここまでくると逆に相手が気の毒になってくる」
と大笑いまでされるようになっていた。
そんな私だったので、友人から「あなたが言いそう」と言われた
「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」
の言葉を見て、心底嬉しく思った。
なにより気持ちのいい言葉だ、と言葉自体もすぐに気に入っていた。
だって、なんだかすごくかっこいい。
作家さんが髪をなびかせながら、ふふん、とこの世をあざ笑うような麗しい笑顔で地獄から華麗に帰還する―。
そんな妄想まで一瞬にしてしまっていた。
こんな気持ちに一瞬でなってしまったのだから、当然、私は友人に
「絶対行く」
と、すぐに返事をした。
こうして、私は『ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』
へ行くことになった。
続く