見出し画像

【手記】そんな世界もあるものよ

 若い頃、今から三十年ほど前のことである。
 私は、就職氷河期にひっかかり、就職浪人を避けて、大学の後、ハローワーク直結の職業訓練校に通っていた。
 その頃に出会ったクラスメイトとの話で、今でも印象に残る面白い話があったので、ここに書いておこうかと思う。

 それぞれの価値観の話である。あまりに私の価値観から離れたことを聞いて、私は、面食らってしまっていた。お金に対してこんな考え方、やり方、接し方があるのか。それに対してのクラスメイトの言葉だった。

 その職業訓練校の卒業間近のことだった。
 私は、いち早く、近くの保険会社の外交(保険営業)の仕事に滑り込み、職業訓練校は仕事と共に並行して通っていた。仕事がある時には、仕事に通い、学校には単位を取るために、そのすきま時間だけ通っていたのだと思う。
 何せ、せっかく一年近く、簿記だの、職業マナーだの、コンピューターだの、ワープロ(懐かしい)だのと、色々習わせていただいたので、せっかくだから、卒業の証書だけは欲しかったのである。

 卒業狙いの私は、冬の後期、職業訓練校へ行って、普段の仕事の様々な不満をぼやいていた。ノルマが全然達成できない。自分の持ち範囲の会社の社員となかなか時間が合わない。保険の話になかなかいきつかず、果てには自分の会社の部長に「君は面白い話、仕事の話しをあちこちから見つけてプリントしてくるし(チラシにして配っていた)、漫画も描くから作家の方に向いてそう(笑)」など言われたよ……、と。
 そんな不平のようなものを、面白おかしいエピソードと友に級友と話した。その中で特に……

 ある日のことだ。職場の支部で、記念撮影をしよう、と言うことになった。なんだったのだろう。とにかく、誰かたちが上手い仕事をして、大きな契約を取ったのである。その支部全体の記念写真撮影の場所で、私のチームの上司(と言っても、私とその上司の二人しかいないチームだったが)が「札束を持って写真に写ろう! 」と、言ったのだ。
 私は、一瞬、思考がぶっ飛んだ。(札束!? 札束を持って写真に写るの!? )お金に対して、あまりアグレッシブな感情を持っていない私は、正直怯んだ。写真の時も、札束は持って写らなかったと思う。はしたない、とも正直思った。
 それについて、級友と話したのだが、級友は、
「そういう世界の人なんでしょ? 」
と、一言。
(は? )
 その友人は、私より年上で、一旦社会に出てこの職業訓練校に訓練受講手当などを受けながら通い直している元社会人だった。社会のことを私よりずっと知っている。その友人が、
「そういう世界なのよ」
と嫌悪の色、全くなしに言う。
(……)
 そ、「そういう世界」もあるのか……。
 これは、ひとの価値観に関わる話なので、人によって諸説でて来ると思う。
 私は、その頃初めて、自分の世界の常識よりも大きく外れた……いえ、大きく異なる世界があるのだな、と実感したのだと思う。少なくとも、それは凄く衝撃的で、これからの人生、いろんな職業に就くか、触れるにつけ、このような謂わゆる「カルチャーショック」のようなことはあるのだろう、と思った。

 色々な世界があり、その色々な世界で、そこで過ごている人たちにとっては当然のことも、私には面食らうようなことであり、想像もつかないことがあるのだ……と。

 「そういう世界の人なんでしょ? 」と、

 これは、そういう色んな世界がある、という話。



            むすび🎀

トップ画像は、亀井かな さんの、
   (フォトギャラリー用)より
    ありがとうございました😊 



いいなと思ったら応援しよう!