H病院厨房の1番長い日〈体育会系調理補助〉
非番の朝に起きると、スマホに着信履歴が1件あった。
「か、会社からだ。な、……何があった!?」
すぐさま、折返し掛けると、どうやら昼番に欠員が出た模様。
「はい!すぐ行きます!」
私は、キャリアの長さで、病院職員の給仕以外のすべてのパートがこなせる。
職場までの所要時間、約4分。
家が極端に近い。
何かあると呼び出される典型的な距離にあり、
雪が降ろうと台風が来ようと、這ってでも行かれる距離。
それだから、雪の予報が出たりしたときにも、私は予め心得ておくようにいわれたりしている。
もっとも、今回は、欠員で、雪は降ってない、台風でもないけど。
「山田さん、早いわね」
3階食堂で職員給仕に入るサクラさんが、(今日出番の自分より早く来た)と、呆れていう。
「素早い対応感謝する!」
と、チーフ。所要時間は、約20分。
その日は、七夕。
行事の為の食事が出され、ちらし寿司、冬瓜の煮物、天ぷら、冷やしそうめん汁、スイカ等の凝った料理。
あたふたと、私たちメンバーは働く。
汗びっしょり……。
ところが、次々に新しい患者さんが入ってきて、たちまち昼までに追加が5人程入る。
それまでに、チーフの指示で多めに作っていた予備が消えていく。
「なんで、こんな凝った料理のときに、急患が多いんだー!」
「しかも、欠員がいるんだぞー!」
と、それぞれが叫んだ。(いえ、患者さんは好き好んではね……!?)
「常食、一口大、1名入ります!」
と、栄養士さんの声!
チーフの顔色が変わった。
調理士のシズさんも。
私は、冬瓜の煮物の盛り付け担当だったのだが、チーフの指示では、一口大の予備の盛り付けは、予め増やしてはいない。ハサミを入れるだけに手間がかかるが、人数分しか揃えてないのだ。
「だいじょうぶです!あります!」
……と、いうことも私は読んでました。一口大具材の小鉢、軽く急に入る類のリクエスト。一昨年来たチーフより、ここでは、私は経験豊富。5年やってます。私は、一口大小鉢を1つ余計に造っておりました!
汁を取っての提供のものも、他のものも、なんとかフォローできた。
そして、午後、食べ終わった食器を洗浄して昼番救援の1日は終わった……。
と、思ったら、
次の日……。
「山田さん、今日は 昼まで延長お願いします!」
(やっばり……)
さらに、チーフは、
「オレ、その後残業するから」
(は?)
私は、続けて思った!
(午後の洗浄(昼番の後半)までやる気だ!無茶無茶無茶!チーフ普段、休みの日にも奥さんの介護してるじゃないですかっ!)
時々、寝不足で目が爛々としているチーフである。
「無理です!チーフ!私がやります!」
「は!?でも、山田くん!次の日も、早番じゃないか!」
※(早番は、朝、6時半からで、私は4時に起きます)
「いえ!チーフこそ無理しないでください!私が、やります!」
と、いう訳で 連続4日間任務は無事完了し、H病院厨房の長い1日(いえ、2日?)は終わった。
けど、お読みの方、安心なさってください。労基法はちゃんと守ってます。
2023.7.10.山田えみこ