手相占い師藍さんと お花畑の天使たち☆〜1〜
「はあ……!?」
私は、思わず目を疑った。1年と3ヶ月あまり、毎日のようにYou Tubeとにらめっこして、わくわくし、楽しみにし、コメント欄にまめまめしく、ほぼ毎回書き込んでいた「手相占い藍のmagicalチャンネル」が、突然の休止広告を出していたのである。目を疑いながら 私は、広告の字を追った……。
内容を要約すると、一部のファンから 何度か感情的なメール等が送られてきて、今 藍さんが、情緒不安定になっているらしい。
藍さんを監督しているT社長によると、藍さんは、皆からすれば 毎日顔を見られる、親しげな存在だが、メール等を送られてくる藍さんにしてみれば、ニックネームや コメントでしか知らない、顔も知らない相手から、感情をぶつけられる恐怖を分かってくれ、と、………いま、藍は、とても配信ができる状態ではない、と、…………。私は、休日の 夏に入りかけた郊外の 緑に映えた街並みを窓から見つめていた……
それまで、私は コメント欄で知り合って、LINEのIDまで交換した「みっちゃん」こと、みつよさんと、藍さんのオンライン講座に登録できる方法をめぐって格闘していた。みっちゃんは、自分でも言っているが、そうとうな機械音痴である。
2時間ほど、二人でLINEなどを使って(彼女との距離はかなりな遠距離)格闘した挙げ句「どうせ、オンライン講座に登録できても、今日の講座の補習には出られないよ?藍ちゃん、休みだもん」の、私の一言で、みっちゃんは観念したらしい、藍さんの休止宣言の広告を見ると、
「あ、ほんとだ…。なんでぇ?」
と、オンライン講座登録を諦めた。そして
「私、藍さんを怖がらせてしまったのかなぁ…!」
と、間違った方向へ心配し始めた。
「いや、それはないよ!」
私は、あわてて否定する。それを言うなら、毎日配信のあと、真っ先にコメントし、インスタのライブにも必ずと言ってもいい程参加する、私だって、ストーカーっぽい。
「私だって、それっぽい」
「いや、えみちゃんは、大丈夫だよ?だって、よく藍ちゃんも配信でえみちゃんのこと、話してるじゃん」
お互い、疑いを打ち消しあった。
藍さんの 休止の知らせが生んだ、心の中の翳りとともに 私たちは、そのまま口数も少なく、その場は通信をやめることにした。
「またね」
「またね」
私は、外を眺めながら考えた。
(藍さん、どうしちゃった?大丈夫?)
それから、数日が過ぎた。
藍さんは、相変わらず 配信をストップしたままだ。
「藍さん、どうするんだろうね?『まほらま』は、藍さんが一番稼いでもってる感じでしょ?」
「まほらま」とは、藍さんが「手相占い」の居を構えている小さな建物(店)のことで、喫茶店、古着屋、ギター店、ネイルサロンの合計5つの店とのシェアショップだ。
その中の一人がやっている喫茶店も、この夏 店長が店を閉めて、イギリスへと渡ることになっている。
「大変だなぁ……」
以前、一緒にその「まほらま」へ、行ったことのある主人は(占いをしてもらいに行った)呟いた。私は、去年の今頃のことを思い出す。
藍さんの、手相占いの通常配信が軌道に乗り、もうすぐ3万人のフォロワーがつきそうな頃のYou Tube生配信だった。
私も参加していた。
私たちは、チャット欄ではしゃぎまわり、しゃべりまわり、あそびまわっていた。
後に、藍さんが知り合いにこう話したそうだが
「まるで、お花畑を 無邪気な天使たちがはしゃいでいるようだったよ」
それほどに、私たちははしゃぎまわっていた。
藍さんのウリはトーク力で そのライブは楽しく、その配信では、特に無邪気な子供たちが わらわらいるような そんな印象だった…
いつか、皆で 船に乗って 繰り出そうね……
そんな、実現するのかしないのか 分からないような言葉も出た。夢だった…
皆、藍さんが好きだった。
やたら、体力のある藍さん、
実行力があって、エネルギッシュな藍さん、
夢を実現するのが好きな藍さん、
「エデュケーション(教育)は、『引き出す』って言うのが語源よ」って言うのが口癖な藍さん、
「レッツ イマジン!」
知的な藍さん、
お茶目な藍さん、
皆に 自信をつけてくれた…
この春は、埼玉から弟子を引っ張り出して、藍チャンネルの新入社員にして、教育中だった…
もうすぐ、7月がやって来る……
梅雨の晴れ間、陽が傾いて、街を紅紫色に染める………
とても、美しかった。
以前、藍さんのワークショップや 占いをしてもらった時のことを書いてくれ、と、弟子のさゆりさんに頼まれていた事を思い出した。
筆を執ることにした…
つづく