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体育会系調理補助ー森を抱えたような人ー

調理士のシズさんは、森を抱えたような人だった。

私には、そう見えた。
新しいシステムになって、シズさんがやってきた頃、私は新しい手順に慣れるのが精一杯で、いつ頃シズさんが配属されてきたかにも気づかなかった。私は、失礼な奴だったが、そんな空白の時期を超えて、

「あ、新しい調理士さんてこの人か・・・・・・」

と、思った時には、シズさんは「森を抱えたような人」に見えた。

近くの学校で、一番レベルが高い学校は、丁度こんな雰囲気を抱えている。
多分、シズさんもかなり頭がいいはず。私が、出会った頭のいい人は、みんなこんな風に「静かに森を抱えているような」雰囲気を醸し出している。私は、そう直感が働いた。

朝、作業をしている時に、
「なんか、シズさんて すごく頭のいい学校を出ているような雰囲気がしますね」
と、お世辞をくっつけて言ってみた。そうするとシズさんは、
「そう?」
と、静かに笑って言った。

しばらくして、偶然、Facebookにシズさんのプロフィールが入ってきた。
そうすると、案の定、かなり有名な大学の出身者だった。

けれど、森と一緒に、闇も抱えていそう。
この仕事に就く前に、政治家団体の手伝いにも行っていたらしく、その先生方の裏も見ていたと本人はいう。学校も、エリートの私立大学への附属から行っていたので、競争も小競り合いもあるらしい。いちいち、陰謀の中で生きていた匂いを匂わせる。

他の専門学校上がりの調理士に比べ、暗闇を抱えていて「人は裏切るもの」みたいな顔をしてクールに澄ましている。調理士のマサさんや、ベテラン調理補助のM坂さんが、人情味あふれて温かいのに比べて。

そして、人一倍、独立心や責任感がある。
決して、影の努力を人に見せない。
腰が痛かろうが、頭が痛かろうが。
今まで、やけどをした時以外は皆勤賞だ。

かつて、今のチーフのもとで、シズさんの修行が 全くの素人から始まった時、
シズさんは「焼き鳥」しかできなかったらしく、
チーフは「こいつは、モノにならない」と、思ったらしい。
ところが、2年後・・・・・・。

この事業所に、その頃のチーフとして配属され、一騎当千のチーフとして大活躍する。

ひとの何倍もの速さで仕事をし、知識と、常識と、判断力は、かなりのもの。

その頃のスタッフには「弟」のような扱いを受けるが・・・・・・、
冗談がうまく、優しいので、全体から好かれていた。

しかし、・・・・・・。

なんか、色々抱えている人らしい、とお茶を濁しておく。



トップ画像は、メイプル楓さんの
   「みんなのフォトギャラリー」より
    いつもお世話になっております🍀


©2023.6.24.山田えみこ
                     

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