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THE NEUTRALというバンドのはなし

 THE NEUTRALは同郷の先輩バンドとでも言えようか。ちょっとしたご縁もあり、何かとお世話になりつつ今に至るまで非常にゆるく長いお付き合いをさせてもらっている。

 20年近く前になると思う。姫路の某ライブハウスを消防法スレスレの満員にする彼らの人気はそれはそれは凄いものだった。当時は今よりもずっと若いバンドマンがたくさんいて、オリジナル曲を演奏するアマチュアバンドもたくさんあって、ライブハウスのスケジュールはそんなバンドや他県からのツアーバンドのライブで賑わっていたと記憶している。そんな中で突出したエネルギーでパフォーマンスを展開していたのがこのTHE NEUTRALだ。後に上京、テレビの全国放送での露出もあった。スマッシュヒットもあった。長く音楽のフィールドにいると、これだけでもなかなかに凄いことだとわかるのだが、しかし、今のところ社会一般的に想像される「売れてるロックバンド」の姿には及ばないまま長い年月が経っている。彼らがそれを望んでいるかどうかは別として、ではあるが。地元では「まだやってたんや」「そういえばそんなバンドあったな」という声ももちろん聞く。だが、20年もの間ほとんどメンバーチェンジをすることなく、プロとしてオリジナル曲を発表し、ライブ活動をコンスタントに継続することがどれほど困難なことかは、特にバンド活動経験のある人にはよくわかると思う。

だからみんなTHE NEUTRALのニューアルバム、聴いてみてね。

ということが言いたいわけではない。そんなことどうでもいい。私が言いたいことは一つだけだ。

「とにかくTHE NEUTRALのライブを観て欲しい」

この一言しか言いたいことはない。

 とあるプロミュージシャンとの話の中で「バンドサウンドは何物にも代え難い」という言葉を聞く機会があった。その一体感の素晴らしさはかけがえのないものだと。意外だった。この人はいわゆるバンドマンという印象がかなり薄い、明らかに長年ジャズ・フュージョン系のフィールドで喰ってる人だからだ。私はそのときなんだか腑に落ちない思いで「へぇ、そうなんですね・・・」くらいの反応をしたように思う。そしてこの些細な会話の内容が、魚の小骨が喉にひっかかるかの如く頭の隅から離れなかった。

 話をTHE NEUTRALに戻そう。このバンドの音楽性は本当に本当に「ど」の付くストレートなロックで、凝った技巧も構成もない。サウンド自体も流行りに乗るようなものではない。演奏中に超絶技巧とか、もちろんない。普通。今度会ったら殴られそうなこと書いてるな、私。
 しかし直近に観たライブで私は「バンドサウンドは何物にも代え難い」の意味に触れることとなった。平均したら2年に1度観るか観ないかのペースではあっても、20年軌跡を見てきたこのロックバンドのサウンドは、ここへきて劇的に進化している。演奏自体が上手いとかどうとかの進化ではなく、それは明らかにグルーヴの進化だ。私は4人が紡ぎ出すin the grooveの猛烈なうねりに完全に圧倒された。これがブレることなく長い年月をかけて積み上げてきたこのバンドのサウンドなのだ。一心同体で迫り来る音の渦に正直ちょっと震えた。そして嫉妬した。このグルーヴの中で演奏することがどれほどの快感なのだろうかと嫉妬した。

 だからライブを観て欲しい。CDが悪いと言っっているわけではない。計り知れないほどにライブのエネルギーが勝るのだ、このバンドは。そして歌われる言葉は力強い。

魂があるかどうか、想いがあるかどうか

 音楽は上手い、下手じゃないという。もちろん上手いに越したことはない。超絶技巧をくさす人もいるが、それはとても尊いことだと思うし、多くの人を感嘆させ、感動させるのも事実だ。だけどきっと感動を生む超絶技巧にはそこに懸ける演者の魂が入っていると思う。逆も然り、技術的に稚拙でも人の心を揺さぶる音楽はいくらでもある。何か伝えたいことがあって表現をしようとする姿、自己を解放しようともがく姿、ただただ頑張る姿・・・。完全に言い古されていて、こんなことをわざわざ全世界発信するのもアホみたいだが、そこにはやっぱり魂が、想いが、あるんだと思う。思いたい。ポジティブなもの、ネガティブなもの、どちらでもないもの、なんでもいい。でも何らかのかたちで「魂」が入っている表現に揺さぶられている。私はそうなんだと思う。素直にそう思う。

 そしてTHE NEUTRALはひたすらに、愚直にTHE NEUTRALワールドに魂を込めて突き進んでいるように見える。時間の流れに抗うことなく、極々自然に今の自分たちを表現し続けている。そしてその音楽のパワーは衰えるどころか増している。「まだやってたんだ」と思った人、「昔はライブ行ってたな」という人には是非とも彼らのグルーヴの進化を目の当たりにして欲しい。「グルーヴって何なん?」とか言ってる若いバンドマンにも観て欲しい。何物にも代え難いバンドサウンドと一体感がここにはあるのだ。



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