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手拍子の話

 私は手拍子ができない。上手くリズムに乗って叩けないのだ。ズレる。すぐにズレる。3叩き目くらいでズレる。ズレてることに気付いても修正できない。なぜかって?……わからない。頭がリズムとズレてるよって教え、心が修正しなきゃと思い、手がわかった修正するよって試みるものの、永遠にズレたままなのだ。何でリズムとズレるのかって?それはわかっている。私には絶望的にリズム感がないからだ。

 大嫌いな体育の授業に彗星のごとく現れたダンス。中学生の私はそれに絶望する。ただでさえギリギリを攻めている体育にダンスなんか組み込まれたら、成績が下がるという結末しか訪れないではないか。しかも何で長くてお馴染み2学期に登場させたのか。こんな残酷な学習指導要領を決めた担当者をビンタしたい。……そう思わざるを得ないほどできなかった。ダンスが。まず、音楽に合わせて体が動かない。体が思った通りに動かない。本当に本当に悲惨だった。しかもテストは創作ダンス。こんなにも踊れない私にどんな創作ができよう。創作ダンステストにしようぜ!って言った担当者にラリアットをかましたい。……それほどできなかった。私にはできることが限られている。少ないカードで組んだ結果、ダサいステップに横に進みながら手を広げて、たまにしゃがんでみたり。仮にノーミスだったとしてもダサい。くそダサい。で、しかもちゃんとリズムとズレてる。この年の2学期は地獄だった。

 今思えば「全然できなかったなぁ笑」程度のことだけど、中学生の私にはとてつもなく大きな憂鬱な出来事だったのだ。そりゃあ、学校と家しかない世界では大きなことだったし、あれからどれくらい経ってんだよって話で。時間が経てばどうでもよくなることだっていっぱいある。世界が狭ければ一つしんどくなったら、憂鬱が占める割合だって大きくなる。だから、くそダサいダンスを披露したことも、ズレ続けたことも、さして問題のないことだ。今の私にとっては。

 もちろん今だって手拍子ができないくらいなのだから、ダンスもできないままだ。手拍子が必要な場面では体を揺らしてノッてる風を装ってごまかす。手拍子をしないで乗り切るのだ。どうしても手拍子ができないのだから、しないで乗り切る方法を考えた方が早い。私はもう踊らないし、手拍子もしません。アンコールのときしか手拍子はしません。幸せだなぁ、と思うことがあっても手は叩かないし、態度でも示さない。そんなときは空でもぼんやり眺めてます。私は上手くリズムに乗れない。だから生活リズムも崩してしまったりする。まぁ、それはそれで別にいいのだけれど。

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えみ
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