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2270年 南極五輪 フィギュアスケート 実況 書き起こし

4年に一度の祭典、冬季オリンピック。その数ある種目の中でも唯一無二の人気を誇るスポーツといえば、やはりこのフィギュアスケートでありましょう。世界が注目する一戦が、今まさに始まろうとしています!

2146年のワルシャワ五輪からジャンプの回数や回転数が無制限になり、2202年 2度目のワルシャワ五輪で初めて あらゆるドーピングが解禁されて以降、選手達のパフォーマンスは爆発的な向上を続け、フィギュアスケートへの注目はますます高まっています。

そして今年のオリンピックは初の南極開催。温暖化によって人間の居住が可能になってから約80年、南極自治会が初めて開催権をつかみとりました。昭和基地からも近い臨海部の平地に設けられた特設会場。南極の天然氷をそのまま使用した上質なリンクは、滑りやすいと選手からも評判です。

ペンギンの乱入を防ぐため段差がつけられ、リンクは周囲よりやや高くなっています。

2270年 南極五輪 フィギュアスケート会場
「ザ・グレート・アンタークティカ」

さて、最初の演技は優勝候補、開催地の南極代表 ブタ・キムチ!親日家の彼が今回使用する楽曲は20世紀日本の巨匠、細川たかしのメドレー。演歌の独特のテンポとリズム感をパフォーマンスにどう活かせるかが大きなポイントとなるでしょう。

1曲目は北酒場。滑り出しは順調だ。イントロに合わせて華麗なステップを披露します。9回転アクセルや12回転フリップも軽く決めてゆく......本題はここからと言ったところか。

続いてコンビネーションジャンプ!

38回転ルッツ、51回転トウループ、29回転アクセル!決まったァァァ!!!

次も確実に決めたいところ......

おっと、ここはミス!
75回転トウループが6回転になってしまった......ク...クヤシイミスダ.....

ジャンプは一段落。続いてはフライングシットスピンからのアップライトスピンです。最速時には1秒間に約130回転という驚異の回転速度。これは常人には不可能な芸当です。ここまでの高速回転となると、遠心力によって体に大きなGがかかります。1秒間のスピン数が60回を超えたあたりからは全身に多大な負荷がかかり、視界がぼやける選手も多いそうです。
しかしブタ・キムチにとっては朝飯前といったところでしょうか。幼少期から広大な南極大陸の氷をリンクとして活用し、昼夜問わず練習に没頭してきたキムチ選手だからこそ為せる技でしょう!

スピンの間に曲が切り替わったようです。続いての曲は「望郷じょんから」。この曲もまた、巨匠 細川たかしの代表曲であります。ダイナミックな曲調を活かし、全身で躍動感を体現してほしいところです。

最初の三味線の独奏部分に合わせ、軽やかな19回転ルッツや12回転フリップを披露します!

後半には前人未到の大技、101回転アクセルが待ち受けています。滞空時間約2.5秒、超ド級の大技。現在の公式最高記録は昨年2269年、カトマンズで開催された世界フィギュアスケート選手権でネイサン・チェン9世が披露して伝説となった100回転。今回成功すればその記録を更新することになります。

さあ、これは3回転バックフリップ。危険な大技であるため長年 大会では唯一禁止されてきましたが、今世紀に入り、この技を安定してこなせる選手が増えたことにより解禁されました。流石の安定感だ!

ここで曲のテンポが落ちます。三味線と尺八は音量を下げ、細川たかしのハリのある歌声だけが会場に響いています。ここからクライマックスに向けて盛り上がりを見せてゆく!
49回転ルッツもお手の物。101回転アクセルのための準備体操と言ったところか。そしてコレオシークエンス、さすがのしなやかさです。磐石の技術だけでなく豊富な表現力も備えているキムチ選手。
再び3回転バックフリップを軽々と決めてゆく。


さあここで一気に曲調が盛り上がる!いよいよ待望の101回転です。さあ、いけるか!決めろ!

ああぁぁっと!

着氷に失敗......!

ドリルのように回転する2枚の刃がリンクの氷を突き破り、シューズが地面に刺さったまま激しく転倒。胴体は氷に叩きつけられました。これは痛そうだ。金属の刃によってえぐり取られた大きな氷の塊が周囲に転がっています。

キムチ選手はなんとか氷からシューズを抜き取りますが、立ち上がることは難しい様子。どこかを痛めたのか。しかしルール上、演技中は選手本人以外がリンクに立ち入ることはできません。キムチ選手は苦悶の表情を浮かべている。続行不可能か?

......おっと今、望郷じょんからがアウトロに差し掛かってしまった!キムチは座り込んでいる!もはや為す術はありません!

そして曲が終わってしまいました......
ブタ・キムチの挑戦は今、終わりを告げました。救護チームに肩を借りながらリンクを後にします。この表情。失意と悔しさ、自分への怒りが入り混じった、そんな表情でしょうか。

ズタズタのリンクが、転倒の激しさを物語っています。

ブタ・キムチ選手の演技終了後のリンク

...しかしよくやった!前半のコンビネーションジャンプは圧巻でした。おつかれさまと言いたい。あとは結果を待つのみ。点数はいかほどか......。

結果が出ました。67.444点、やや悔しい結果か......しかし本命の101回転アクセルを失敗したにしては上出来でしょう!暫定1位。今後の選手の動向に注目が集まります。


続いて2人目は宇野昌磨選手、272歳。最年長選手です。はるか昔、2010年代〜2020年代にかけて活躍した後 一度現役選手を引退しました。しかしその後コーチとして活動を続け 還暦を迎えた頃、自らリンクで滑りたいという意志が再び火を灯し、全身手術を決意。半永久の命を手に入れました。今や頭部と骨盤以外のほぼ全ての部位がシリコンチタンで構成されています。

日本の宇野昌磨選手

持って生まれた運動神経とたゆまぬ努力、最先端の科学技術が驚異のハーモニーを繰り出し、これまで3世紀近くにわたって数々の大会の金賞を総ナメにしてきました。まもなく彼の演技が始まります。奇遇なことに彼の楽曲もまた、細川たかしメドレーです。ただし北酒場はサンバ・リミックス バージョンだそうです。楽しみですね......

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