胚移植時に効果があるオプションや手技
どうも!ぶらす室長です!
今回、面白そうなシステマティックレビュー&メタ解析論文を見つけたので、紹介したいと思います。
日本語にすると「ARTによって妊娠した女性の胚移植を最適化するための介入について: 包括的なシステマティックレビューとメタ解析」
形式ばった書き方でわかりにくいので、ざっくり意訳すると「胚移植の時に実施するオプションや手技はいろいろあるけど、何が妊娠や出産に効くかを調べましたよ」という論文です。
例えば
・胚移植時のヒアルロン酸含有培養液は効果あるの??
・カテーテルはソフトとハードでどっちが良い?
・経膣エコーと経腹エコーで差はある??
・移植後のベットでの安静時間は必要??
といった疑問に答える内容となっています。
自分としても、大変興味がある内容です。
長い記事になってしまいましたが、割とさっくり読めると思います!
では、いってみましょう!!
調査オプション、手技一覧
今回、様々な胚移植時のオプションや手技についての効果を調べていますが、日本国内でほぼ実施されていない(できていない)介入や手技も解析に含まれています。
それらは解説してもモヤモヤするだけなので、今回の解説からは除外しようと思います。
また、レビューの元となる論文数が1本のような報告が少ない介入についても除外します。
◯解説オプンション・手技
・hCGの子宮内投与
・ヒアルロン酸の子宮内投与
・顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与
・超音波の使用
・Bladder fullness(尿溜め)
・子宮頸管粘液除去
・ETカテーテルの種類
・移植後のベットでの安静
・鍼灸
◯解説除外オプション・手技
・抗生剤の投与
・アトシバン(atoiban)の投与
・ニフェジピン(Nifedipine)の投与
・非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs : NSAIDs)の投与
・ステロイド薬の投与
・大量の培養液注入(RCT=1のため除外)
・精液の投与
・Plasma infusion(血漿注入)
・17-Hydroxyprogesterone caproate(17α-カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン)の投与
※プロゲデポー筋中薬など
・グローブの種類(パウダー有・無)
・Pressure on cervix(子宮頸部への圧)
・Pump regulated transfer(ポンプ調整ET)
・ナース vs. ドクター
解析した論文が何本あるか、どんな成績で有意な差があったかを重点的に見ていきましょう。
hCGの子宮内投与
「胚移植時のhCG子宮内投与」の効果を評価したRCTは17報あった。メタ解析によると、臨床妊娠(n = 17, RR 1.232, 95% CI 1.099–1.382, I2 = 57.76%)はhCG投与で有意に上昇した。
一方、コントロールとして胚培養液の注入と比較した8報のメタ解析では、臨床妊娠率の有意な上昇は観察されなかった。 (n = 8, 1.193, 95% CI 0.996–1.428, I2 = 69.7%)
hCG投与による生児出産 (n = 7, RR 1.132, 95% CI 0.924–1.387, I2 = 73.37%)の有意な上昇は観察されなかった。
hCGの投与量は報告によって100 〜6500 IU の幅があったが、最も一般的な投与量は500 IU(胚培養液に溶かしている)で15報の研究がある。
それらの報告のみのメタ解析によると、臨床妊娠(n = 15, RR 1.275, 95% CI 1.119, 1.4521, I2 = 60.05%)の有意な上昇が観察された。
ヒアルロン酸の子宮内投与
国内でも保険適用となっている「胚移植時のヒアルロン酸子宮内投与」の効果に関する調査で、プラセボ(偽薬)または対象区なしで比較した9報のRCTでは、ヒアルロン酸投与はプラセボと比較して臨床妊娠(RR 1.457, 95% CI 1.197–1.261, I2 = 46.48%)の有意な上昇が観察された。
対象区なしでヒアルロン酸投与のみの効果を調べた4報のメタ解析では、生児出産(n = 4, RR 1.471, 95% CI 1.092–1.982, I2 = 4.89%)の有意な上昇が観察された。
20報のRCTでは、投与するヒアルロン酸濃度を高濃度と低濃度で比較している。
それらのメタ解析によると、臨床妊娠が緩かに上昇する事が観察されたが、(RR 1.097, 95% CI 1.028–1.169, I2 = 0.00%)、継続妊娠 (n = 2, RR 0.918, 95% CI 0.714–1.179, I2 = 3.63%)、生児出産 (n = 6, RR 1.134, 95% CI 1.000–1.285, I2 = 22.17%)に有意な差はなかった。
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与
移植時の「顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor : G-CSF) 子宮内投与」の効果に関するRCTは4報あった。
プラセボとの比較では、G-CSF投与により臨床妊娠(RR 1.774, 95% CI 1.252–2.512, I2 = 0)の有意な上昇が観察された。
生児出産(RR 1.518、95%CI 0.769-2.997)、流産(RR 1.272、95%CI 0.123-13.177)、継続妊娠(RR 2.473、95%CI 1.131-5.405)について報告したRCTは1件のみで、エビデンスの質が低く、G-CSFの効果は明らかにできていない。
超音波の使用
移植時の超音波(エコー)の使用の有無(超音波使用vs. 医学的触診)を比較したRCTは24報あり、超音波使用において、臨床妊娠(n = 24, RR1.265, 95% CI 1.151–1.391, I2 = 8.53%)、継続妊娠 (n = 8, RR 1.369, 95% CI 1.144–1.639, I2 = 51.34%)、化学妊娠 (n = 2, RR 1.496, 95 CI: 1.174–1.906)、生児出産 (n = 2, RR 1.744, 95% CI 1.163–2.706, I2 = 79.97%) の有意な上昇が観察された。
経腹エコーと経膣エコーによる移植成績を比較した7報のRCTでは、臨床妊娠 (n = 7, RR 1.004, 95% CI 0.924–1.090, I2 = 0%)、継続妊娠 (n = 5, RR 1.029, 95% CI 0.922–1.148, I2 = 0.01%), 化学妊娠(n = 2, RR 0.977, 95% CI 0.712–1.341), 流産 (n = 3, RR 0.835, 95% CI 0.575–1.211, I2 = 0%)、出産 (n = 1, RR 0.789, 95% CI 0.444–1.403)に有意な差はなかった。
また、3Dエコーと2Dエコーを比較した1報の報告では、臨床妊娠 (RR 0.981, 95% CI 0.800–1.202) に有意な差はなかった。
Bladder fullness(尿溜め)
膀胱への尿溜め〔アリ(full)vs. ナシ(empty)〕を比較した3報のRCTでは、臨床妊娠 (n = 3, RR 1.266, 95% CI 0.884–1.813, I2 = 50.68%)、継続妊娠 (n = 2, RR 1.276, 95% CI 0.874–1.863)、流産 (n = 1, RR 1.047, 95% CI 0.467–2.346)に有意な差はなかった。
子宮頚管粘液除去
移植前の頚管粘液の除去に関する報告は6報あり、スタンダードな方法といくつかの異なるツールを用いた方法(綿棒、子宮頸管ブラシ、吸引器、培養液による洗浄、またはそれらの組み合わせ)を比較した。
メタ解析結果では、臨床妊娠(n=5、RR 1.029、95%CI 0.753-1.405、I2 = 5.89%)、化学的妊娠(n=2、RR 0.933、95%CI 0.774-1.125)、妊娠継続(n=2、RR 1.068、95%CI 0.849-1.344)、流産(n=2、RR 0.790、95%CI 0.487-1.282)、生児出産(n=2、RR 1.506、95%CI 0.908-2.499)に有意な差はなかった。
移植カテーテルの違いと手技の違い
ソフトカテーテルとハードカテーテルを比較した27報のRCTをメタ解析した結果、ソフトカテーテルを使用した場合、臨床妊娠 (RR 1.122, 95% CI 1.028–1.224, I2 = 57.66%)の有意な上昇が観察された。一方で、継続妊娠(n = 3, RR 1.138, 95% CI 0.904–1.432, I2 = 32.46%)や出産(n = 2, RR 2.222, 95% CI 0.457–10.806, I2 = 94.13%)に有意な差はなかった。
カテーテル内に含ませる物質(空気 vs. 液体)を比較した3報のRCTによると、両者で臨床妊娠(RR 1.361, 95% CI 0.844–2.195)に有意な差はなかった。
胚移植後にカテーテルを引き抜くタイミング(早期 vs. 遅延)を比較した3報のRCTでは、臨床妊娠(n = 3, RR 1.039, 95% CI 0.868–1.243, I2 = 0%)に有意な差はなかった。
子宮内の胚の移植位置(子宮底から15mm以上 vs. 15mm未満)を比較した3報のRCTによると、臨床妊娠 (n = 3, RR 1.089, 95% CI 0.828–1.431, I2 = 60.99%)、継続妊娠(n = 3, RR 1.191, 95% CI 0.858–1.653, I2 = 65.08%)、流産(n = 2, RR 0.916, 95% CI 0.446–1.881)、出産 (n = 3, RR 1.201, 95% CI 0.855–1.687, I2 = 66.36%)に有意な差はなかった。
移植後のベットでの安静
移植後のベットでの安静(安静ありvs. 即歩行や休憩なし)に関する6報のRCTのメタ解析では、ベット安静グループで臨床妊娠(RR 0.857, 95% CI 0.741–0.991, I2 = 0.01%)が有意に低下した。
一方で、継続妊娠 (n = 4, RR 0.870, 95% CI 0.656–1.153, I2 = 50.53%)、流産 (n = 3, RR 1.076, 95% CI 0.466–2.483, I2 = 61.84%)、生児出産 (n = 3, RR 0.800, 95% CI 0.626–1.022, I2 = 21.93%)に有意な差はなかった。
鍼灸
鍼灸の臨床妊娠に与える影響について比較したRCTは18報あり(対象者数6,437人)あり、そのうち16報は針鍼灸、2報はレーザー鍼灸、2報は経皮的電気経穴刺激(transcutaneous electrical acupoint stimulation : TEAS)を調査した。
8報は偽鍼灸をコントロールとし、12報は治療なしをコントロールとした。
鍼灸治療全体として、臨床妊娠(RR 1.121, 95% CI 0.988–1.273)に有意な差はなかった。
サブグループ分析では、針治療(RR 1.076, 95% CI 0.919–1.260)、レーザー治療(RR 1.193, 95% CI 0.996–1.430)は有意な差がない結果となったが、TEASにおいて臨床妊娠(RR 1.345, 95% CI 1.039–1.741)の有意な上昇が観察された。
しかし、エビデンスレベルは低いとされている。
移植時の音楽の有無を比較した3件のRCTでは、音楽なしと比較しても臨床妊娠(RR 1.052, 95% CI 0.866–1.279)に差はありませんでした。
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