PCOS症例に適した胚移植のための内膜管理法は?
【質問原文】
ぶらす室長様へ。
noteがとても興味深い話題ばかりで、ここ最近少しずつ読ませていただいています。
今月採卵を終え、次回(順調にいけば11月頃)
胚盤胞移植に進む者です。(採卵も移植も初)
PCOS(AMH8.7)ぎみなのですが、移植をホルモン補充・自然周期どちらにするか決めかねておりご意見をいただけますと幸いです。
※ホルモン補充の妊娠後リスクについてのnote記事読ませていただきました
生理周期は長め(30〜38日)ですが、毎月排卵はしているようです。排卵していれば、PCOSでも自然周期で進めることはできると言われています。(通っている病院はホルモン補充が多いようですが、どちらも対応可)
その他、内膜やホルモン値は一応基準値範囲内です。
ネットでも色々と調べたところ、PCOSの場合はホルモン補充の方が自然周期よりも流産率が高くなるという文献を目にしました。(非PCOSでは逆の結果) PCOSでは前胞状卵胞が多数存在していることが、関係しているのではという推測をされていました。(とある不妊治療クリニック内での統計データのようです)
ぶらす室長さんはこのような統計を目にされたことはありますでしょうか。
また、肌感覚でも構いませんのでPCOSの場合はこちらが合っているのでは等・ご存知のことがございましたら、ご意見頂けませんでしょうか。
年齢は28歳で、3ABの胚盤胞を移植する予定をしております。長くなり申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
【回答】
ご質問ありがとうございます。
また、notを読んで頂きありがとうございます。
該当のnoteはこちらですね。
私も勉強不足で、PCOS症例がどの周期管理が適しているのかがわかりませんでしたので、論文を調べてみました。
PCOS症例の論文は非常に多く、エビデンスは多い方だと思います。
その中から、今回のご質問に関連していそうな論文をレビューしていきます。
では、行ってみましょう!
PCOS症例とは?
まずは、PCOS症例について簡単に解説しましょう。
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syn-drome:PCOS)は、生殖年齢女性の8~13%にみられる、排卵障害,多嚢胞卵巣,高アンドロゲン血症などを呈する症候群です。
月経異常。多毛、肥満、両側卵巣腫大などの特徴的な症状を呈した症例が報告され、その後、高アンドロゲン血症や高LH血症などの内分泌異常が高頻度にみられることが明らかとなり、現在ではこれらの内分泌異常がPCOSの中心的な所見として認識されています。
排卵障害になる事が不妊の原因となり、排卵させるための薬剤治療が行われる事が多いです。
PCOS症例に関連する記事は下記の通りです。
気になる方はこちらも読んでみてください。
では、本題に入りましょう!!
排卵周期法 vs. ホルモン補充周期法のメタ解析論文
まずは、PCOS症例における胚移植のための周期管理法を比較したシステマティックレビュー&メタ解析論文をレビューしていきます。
この報告では、ホルモン補充周期と対になる方法(コントロール)として比較されている周期管理は「卵巣刺激法」です。
おそらく、薬剤を全く使わない方法では、PCOS症例は排卵することが難しいため、FSH製剤+hCGなどで卵巣刺激を行って、排卵を促進した上で胚移植を行う方法の方が、ホルモン補充周期との比較をクリアにできるからだと考えられます。
以前の記事でも書きましたが、胚移植における自然周期とは「薬剤を全く使わない」という事ではなくて「排卵させて、排卵後黄体が体内にあるか?」という基準で考えます。
今回はわかりやすいように
「卵巣刺激周期→排卵周期」と置き換えて説明します。
今回のメタ解析論文では、レトロゾール、hMG、rFSHを使用して排卵を促しています。
では、結果を見ていきましょう。
メタ解析した論文は9報で合計で8327症例を対象としました。
◯ 出産率(Live birth rate)
排卵周期: 50.6%(904/1786)
ホルモン補充周期: 46.4%(1660/3581)
リスク比は1.11で、排卵周期移植が有意に高い結果となりました。
◯ 流産率(miscarriage rate)
排卵周期: 10.1%(109/1083)
ホルモン補充周期: 17.5%(375/2139)
リスク比は0.60で、排卵周期移植が有意に低い結果となりました。
◯ 妊娠合併症と転帰
排卵周期による胚移植において、早産率と子癇前症率が有意に低下していました。
◯ その他変わらなかった成績
継続妊娠率、臨床妊娠率、着床率、hCG陽性率、キャンセル周期率、子宮外妊娠率に有意な差はありませんでした。
レトロゾール周期法 vs. ホルモン補充周期法の観察研究
続いて、レトロゾールを使用して排卵を促した周期法とホルモン補充周期法で胚移植した時の観察研究をレビューします。
PCOS症例に対する排卵誘発(ARTじゃなくて自然妊娠を目指した時)として国内の第一選択としては、クロミフェン療法とされているそうですが、海外ではレトロゾールが第一選択としているところもあるそう。
レトロゾールは、複数の卵胞発育させずに主席卵胞の発育を促して排卵を目指せるので、胚移植周期に併用する事もできるようです。
最初のメタ解析論文では、rFSHやhMGによる排卵刺激も含まれており、今回の論文はレトロゾール使用のみに限定した比較となります。
では、結果を見ていきましょう!
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