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【漫画】胚培養士ミズイロを読んだ感想と解説(2)

どうも!ぶらす室長です。

前回に引き続き、漫画「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」について胚培養士目線の感想と解説をしていきたいと思います。

第1弾の感想と解説を読んでいない方は下記の記事を先に読んでもらえると嬉しいです。

「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」は週刊ビッグコミックスピリッツで連載中のおかざき真里先生の作品です。

胚培養士を主人公とした漫画で、現代の不妊治療の現状や課題、患者さんの葛藤などを描いた医療漫画となっています。

今回は第6話〜第8話の内容となります。
※ネタバレを含みます。


では、いってみましょう!

第6話 タイムカプセル①

第6話では、アースクリニックの院長が高校生に向けて「生殖医療に関する授業をする」という仕事を一色室長水沢さんに依頼するところから始まります。

ちなみに、こういった高校や大学に生殖医療分野の医師や胚培養士が講義するという事は現実でも行われています。

プレコンセプションケアの一環ですね。
最近では、企業向けにお話するケースもあります。

余談終了。本編に戻ります。

一色室長が高校生にからかわれながらも、日本の少子化女性の卵子の数は年齢と共に減少する事男性も年齢が上がると精子のDNA損傷が上昇する事無精子症は100人に1人である事等を講義します。

これは、普段から患者さんに説明している内容と近しいものがあるので、一色室長クラスなら朝飯前ですね。

続いて、本作の主人公である胚培養士の水沢さんに講師が移ります。

出典 「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」
第6話

「少子化とかどうでもいいです」

「望んだ時に、望んだ相手と望んだ形で。そのために知識が生きると嬉しいです」

「ただ、卵子凍結という手段もあって、私の友人も卵子凍結をしています」

「今は不可能でも数年後には実を結ぶかもしれない。彼女の治療は未来へ繋ぐものだと信じたい。そういう仕事をしているんだと思っています」

はい!やってますね!水沢さん!笑

前回の解説で

感情と感覚の胚培養士 水沢

システムと効率の胚培養士 一色

の対立構図が面白いと書きましたが、まさに今回もその構図が見事に描かれています。

不妊治療は少子化対策という側面もあると思います。

しかし、治療をしている人は
「ただ、自分の子供を持ちたいだけ」という人がほとんどです。

「未来の日本のために、私は不妊治療をしている」なんて方はほぼいないでしょう。

つまり、不妊治療と少子化は、患者さん側からすると本来関係ないのです。

感情の胚培養士である水沢さんは、感情が先行して、いきなり卵子凍結の話までしてしまいました。笑

そして、全、生殖補助医療関係者が思った事を、一色室長が代弁します。

「容易に卵子凍結を美化しないほうがいい」

もはや、優しい言い方過ぎる。

むしろ「しない方がいい」じゃなくて「するな!」と言って欲しかった!笑

でも、この水沢さんと一色室長の掛け合いはわざとですよ。わざと

卵子凍結の期待と問題点をわかりやすく1話にまとめるための(漫画の)技術の賜物だと私は思います。

タイトルの「タイムカプセル」「卵子凍結」の事でした。タイトル回収。

第7話 タイムカプセル②

第6話の講義を聞いていた女子高生の中に、急性リンパ性白血病を患う女の子がいました。

その女の子は、水沢さんのお話を聞いて
「この人に私の卵子を凍結して欲しい」と考えます。

今回は、ただの卵子凍結のお話ではなくて、がん生殖医療のお話でした。

はい!解説入ります!

なぜ、急性リンパ性白血病など若年性の癌があると卵子凍結が必要になるかというと、治療に用いる抗がん剤や放射線治療は卵巣にとんでもないダメージを与えてしまうからです。

薬剤や放射線の度合いによっては、一度受けた卵巣のダメージが2度と回復する事がない場合もあります。

つまり、治療によって子供を持つという選択肢が完全に絶たれてしまう可能性もあるという事ですね。

そこで、治療の前に卵子や卵巣を凍結保存して妊孕性を温存しておく技術が研究され、臨床応用されたのが「医学的適応の卵子・卵巣凍結」です。

これは、今では普通となった「社会的適応の卵子凍結」とは患者背景が異なります。

以前はこの医学的適応の卵子凍結のみしか、国内の暗黙のルールで実施が認められていませんでした。

解説終了。本編に戻ります。

卵子凍結をすることを決めた女子高生の香織さんですが、幼馴染で彼氏候補の雄太くんは、香織さんがさらに辛い治療が増えると思って憤り、一色室長に「少子化野郎!」と暴言を吐いてしまいます。

大人の対応を貫く一色室長ですが、それを見ていた水沢さんが

「見に来てみる?卵」

と、雄太くんを生殖補助医療の現場に誘います。

第8話 タイムカプセル③

さて、この話では実際に採卵〜卵子凍結をする作業工程について描かれています。

香織さんも不妊治療の体外受精の患者さんと同様に、卵巣刺激法を用いて複数の卵胞を育てるために薬剤投与を行なっています。

水沢さんが卵子操作を行うためのガラス管を作成するシーンが描かれます。

これは、実際の現場でもよく行われる光景ですね。クリニックによって使用デバイスが違うので、準備の仕方も様々です。

今回は、ガスバーナーを使ってガラス管(パスツール)を熱して柔らかくしてから細〜〜く引き伸ばし、先端がフラットになるように折ることで、卵子の大きさに合った細さのガラス管を作っています。

本編では「直径120μmほど」と書かれていますが、個人的には細すぎると思いますね!(細かい)

「胚培養士の仕事の大部分は下準備で決まる」

これは、良いフレーズかつ完全同意ですね。

突発的なイレギュラーへの対応や些細な変化に気づくためにも、私も使用する消耗品や機器にはこだわり、常に一定で最高の状態であるべきと思っています。

雄太くんの見守る中、香織さんの採卵が行われます。

検卵(採卵で採取した卵胞液中にある卵子を探す操作)のシーンが描かれ、その後、水沢さんが取れた卵子を運ぶシーンが描かれます。

ここから、「水沢さんが操作しているところを一色室長が解説する」という描写になります。

実際の見学でも、操作しながら説明をするのは相当ベテランではないと難しく、別の人が解説した方が作業に集中できます。

見られるのは見られるで緊張するんですけどね。水沢さんは全然ヘッチャラですね。

「今、運ばれて来たのが卵だ」

「ストレスを減らすため、容器を両手で大事に覆って運ぶ」

「採取した卵子は卵丘細胞に覆われているので、優しくマウスピースを使って洗ってあげる」

出典「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」
第7話

はい!解説入ります!

ストレスというのは、培養庫外のあらゆるストレスです。第1巻でも描写がありました。

基本的には、温度、光などのストレスからできるだけ卵子や受精卵を守ります。

また、両手で覆うにはもう一つ理由があります。

培養室内は他のスタッフもたくさんいます。

胚培養士は、卵を運んでいるスタッフに近づかないように教育されていますが、交通事故のように注意していても、ぶつかりそうになる事はあります。

また、突然大きな音が鳴ったり、ふいにびっくりさせられる事もあります。

そんな突然のアクシデントが起きても、卵の入ったディッシュを「死んでもひっくり返さないように」大事に大事に両手で持って運びます。

続いて、卵丘細胞のお話が出てきています。

卵丘細胞は卵子が作られる時から卵子の細胞質とパイプのようなもので繋がっており、外部からのホルモンや栄養素を卵子に送る役割があります。

卵子が成熟し、受精すると卵丘細胞は不要になります。

また、凍結する時に卵丘細胞は邪魔になるので顕微授精や卵子凍結する時に卵子から卵丘細胞を人為的に剥がしてしまいます。(裸化と言います)

おそらく前日に準備をしていたであろうパスツールを使って、水沢さんが熟練の技術でサクサク裸化を行っているシーンが描かれていますね。

ちなみに、ふりかけ法では精子はこの卵丘細胞を目標に泳いでいくと言われています。

そのため、凍結融解卵子では顕微授精が推奨されているのです。(他にも理由はあります)

解説終了。本編に戻ります。

「卵をそのまま凍らせると、細胞内の水が結晶化し、水が膨張する時、卵が中から傷つく」

「なので卵を凍結保護剤を含む液に浸け、完全に脱水させる」

「さらに、ガラス化した卵子を細い棒状のフィルムに載せ、液体窒素に入れて瞬時に凍らせる」

「凍結卵子はIDの付いたバーコードで管理され、ゴブレットに収納し、タンクの中に保管します」

解説入ります!

一色室長がかなりわかりやすく詳細を話して頂いていますので、補足として解説します。

氷の結晶ってギザギザしていますよね。
お腹の中であんなギザギザしたものがいきなり発生したらとても痛そうです。
細胞も一緒で、水が凍って結晶化すると細胞が破壊されてしまいます。

そのため、細胞内の水を脱水して、凍らない液体に入れ替えてあげます。

それがガラス化凍結法です。

細かいですが、ガラス化は液体窒素に入れた時におきます。そのため、「ガラス化した卵子を細い棒状のフィルムに載せ」というのはちょっと違いますね。細かいですが。

水沢さんが卵子凍結を行っている描写で、デバイスに3つのドロップを立てて凍結しています。

卵子凍結では、1つのデバイスに複数の卵子を載せる事があります。

これは、体外受精とは異なります。
基本的には、体外受精の受精卵凍結ではデバイスに1個ずつ載せます。

なぜなら、使う時(移植する時)がほとんど1個ずつだからです。

ガラス化凍結をした卵子や胚を溶かす時(融解)は、このデバイスを液体窒素から温めた培養液に一気に入れる必要があります。

この話でツッコみたいところが1つだけあって、3個の卵子のドロップの位置が離れすぎていて、3個目のドロップがデバイスのかなり上に来てしまっていた事です。

実際にはこんなに卵子と卵子の間を離す必要はなく、できるだけ先端にすべての卵子が個別に載るように意識してドロップを作り、凍結します。
(融解の時に楽なんで)

出典 胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜
第8話

水沢さんがやっているように、卵を乗せたデバイスを液体窒素の中にジューーと突っ込んで凍結をします。

勢い余って指まで液体窒素に入れちゃうと低温火傷するので注意です。

凍結デバイスの管理はバーコードで行っている施設もあれば、手書きで記名している施設もあります。タンクはどこの施設もほぼ共通だと思います。

一色さんの言うようにこのガラス化凍結法は熟練の技術を要します。

胚培養士の技術の中でも、ガラス化凍結ができるかできないかはプロとしての指標や自身となる技術の1つです。

まとめ

いやー今回もとても長い記事になってしまいました。。。。面白すぎて。。。

今回のメインは「卵子凍結」でした。

卵子凍結については、最近かなり話題となっているので時世がしっかり反映されています。

今回は、技術解説がメインとなりました。

・プレコンセプションケア
・卵子凍結
・LDBG
・シングルファザー(まさかの一色室長)

などなど、時代のトピックスや社会問題を盛り込みつつ、胚培養士の業務をわかりやすく説明してくれる漫画「胚培養士ミズイロ」からますます目が離せません!

次回も乞うご期待!
ではまた!

引用: 胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜第二巻

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