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【漫画】胚培養士ミズイロを読んだ感想と解説(4)
どうも!ぶらす室長です。
お待たせ致しました。
お待たせしすぎたかもしれません。
漫画「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」について胚培養士目線の感想と解説をしていきたいと思います。
この記事を書いている時点では、第5巻まで刊行されています。
私の記事は、第4弾となります。
第1弾、第2弾、第3弾の解説を読んでいない方は下記の記事を先に読んでもらえると嬉しいです。
「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」は週刊ビッグコミックスピリッツで連載中のおかざき真里先生の作品です。
胚培養士を主人公とした漫画で、現代の不妊治療の現状や課題、患者さんの葛藤などを描いた医療漫画となっています。
前回から、単行本単位ではなく、まとめやすい話数単位で感想と解説をしています。
今回は第13話〜第16話の内容となります。
※ネタバレを含みます。
第13話 背負うもの①
今回の物語は、歌舞伎役者に嫁いだ女性、香奈子さんが主役となります。
いわゆる「梨園の妻」ですね。
特に歌舞伎に詳しくはない私のような人間でも、何となく想像できるのは
「お世継ぎ問題大変そう」
というイメージです。
そのイメージ通りに、妊娠できない事に苦しむ香奈子さんが描写されます。
今回のエピソードでは、体外受精治療中の方は読むのも辛いような自己注射や治療の副作用、流産などの描写が多く、香奈子さんの感情の浮き沈みが表現されています。
患者さんの感情面と治療の技術面がうまく融合された素晴らしいお話ですが、私は胚培養士ですので、感情面の解説は他の方にお譲りして技術面メインで解説していきます。
まず、我らがスーパー胚培養士の水沢さんが、クリニックに飛び込んで来た香奈子さんから
「人殺し」
と言われるシーンから始まります。
(正確には12話のラストシーン)
どんな状況やねん。
と思いますが、そこは漫画やドラマなので。。。
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香奈子さんの治療歴について胚培養士がお話しています。(これも第14話の内容)
まさに、原因不明不妊(機能性不妊)。
胚盤胞へ発育しない事や、初期流産の既往などから考えるに、受精卵に問題がある可能性が考えられます。
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水沢さんと共に、受精卵の解説が入ります。
漫画家さんが受精卵を描くとこんな感じになるんだぁ
という私の個人的な感想。
余談ですが、ヒトやマウスの卵子と受精卵は色素の濃いものが細胞質にないので、顕微鏡の光をよく通して透明に見えます。
周りを保護している透明帯もその名の通り透明ですし、細胞の中身が透けて見えて奥側の細胞の輪郭も良く見えます。
その儚さと美しさが見事に二次元に落とし込まれています。素晴らしい。
ちなみに、リプロダクション アースクリニックが使用している受精卵を培養するための機器(インキュベーター)ですが、メルク社のGeriというタイムラプスインキュベーターです。
タイムラプスインキュベーターの中で唯一?、加湿型インキュベーターとして使用できるモデルです。
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香奈子さんへ、何度も何度も胚盤胞へ発育しなかった事を電話でお伝えする水沢さん。
お互いにしんどさが蓄積していきます。
余談ですが、胚培養士が直接患者さんにお電話などで培養の結果を説明するクリニックと胚培養士は全く説明しないクリニックと様々です。
私調べによると、半々くらいじゃないかと思います。
第14話 背負うもの②
さて、「人殺し」と言われてしまった水沢さん。
我らが室長、一色さんに諭されてしまいます。
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一色さんの必殺技!
「正論×しょうがない」
のコンボです!
しかし、水沢さんには効かないどころか
「うるさい」
と言われてしまいます。笑
おいおい。俺、室長だよね?
上司だよね?って声が聞こえてきました。笑
一色さんの台詞にツッコミどころはなく、私も質問箱で
「何が原因なのか教えて欲しい」
と言われる事が多々あります。
わかればもちろん教えてあげたいですし、有効な治療法があれば真っ先に提案したいですが
わからない事がほとんど。
仮に、わかったとしても治療法がないのがほとんどです。
それが現実です。
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諦めたくない水沢さんは、昼の休憩中に患者さんのタイムラプス動画を見て何か原因がないかを調べます。
一色室長から「馬鹿か?」
と言われる。笑
水沢さんに「うるさい」と言われたさっきの仕返しか??笑
そもそも、タイムラプスインキュベーターってなに??って方は、良記事があるのでこちらの記事をご参照ください。
一色室長は、「とんでもなく大変な作業」のように説明していますが、実は1個の胚のタイムラプス動画を見るのは、ぶっちゃけそこまで大変じゃありません。
1つの胚の6日目までの培養経過は、早送りになっているので数十秒で見れます。
5回の採卵×10個の胚、つまり50個の胚のタイムラプス動画を見返すのには、30分〜60分くらいあれば全て見切れちゃいます。
まぁ、それはそれとして。笑
タイムラプス動画を見返していた水沢さんは、あることに気づき
「方法があるかもしれない」
と言って第14話が幕を閉じます。
第15話 背負うもの③
透明帯除去培養法
を水沢さんが、提案します。
透明帯除去培養法??
聞いたこともないって方に、関西弁の胚培養士さんが解説します。
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これ以上わかりやすい解説はなさそうなので、補足とちょっと盛ってあるなぁと思うところをいくつか指摘しますね。
まず、透明帯と卵子の細胞質の間で癒着が起きている場合、細胞分裂する時に細胞が透明帯に引っ張られます。
そうすることで、透明帯に引っ張られた細胞が本家の細胞から切り離されてツブツブした断片化したものになってしまいます。
これが、フラグメントと呼ばれるものです。
初期胚のグレードの指標となるもので
フラグメントが多いほど、悪いグレードと評価されます。
もともと細胞の一部だったものが減ってしまうので、本家の細胞の中身も減ってしまいます。
細胞質は、鶏卵で言えば「卵黄」、植物で言えば「土」のようなものです。
枯れた少ない土では、植物が育ちにくいのと一緒ですね。
この中には、細胞が発育していく上で重要なタンパク質や細胞小器官が入っています。
それが受精卵を構成する細胞から減ってしまうので、発育が悪くなるのだと私は考えています。
また、透明帯の中に蓄積するフラグメントは物理的にも邪魔なので、胚盤胞の拡張の邪魔をしたりもします。
とにかく、ない方が良い邪魔者です。
フラグメントの発生機序は透明帯との癒着だけではないのですが
「透明帯を除去する事でフラグメントの発生が防げるなら取っちゃおう」
というコンセプトが透明帯除去培養です。
ちょっと盛ってるなぁと思う点ですが、タイムアタックというところ。
確かに、上記のコンセプトでわかる通り、分割の時にフラグメント発生が起きるので、最初の分割前に除去しないと意味がないです。
ただ、受精卵によって差があるものの、前核が消失して分割が始まる時間はそこそこ決まっており、採卵日の媒精時間を調整すれば、1時間以内に終わらせなきゃいけないという事はあまりないのではないか?と思います。
それぞれの施設のタイムスケジュールがあるので、一概には言えないですけどね。
「普通の胚培養士がいちばんやりたない手技やで」
と胚培養士パイセンが言ってる通り、やりたくない手技です。
手技をミスして細胞を傷つけてしまうと、死んでしまいます。
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もともと、ミオファティリティクリニックが報告、提唱した技術です。
新しい技術の開発できるのは、本当に素晴らしい事ですね。
おそらくアースクリニックでは初めて実施する治療だったのでしょう。
一色室長と水沢さんが、もめています。笑
ほとんどの施設の胚培養士は、保守派だと思います。
これは、新しい過ぎる技術を試してみて、何かあってからでは遅いからです。
「何かある」というのは
「産まれてきた胎児に何かある」
というのも含まれます。
実施した事で逆効果になったり、受精卵が死んでしまったりする事も怖いですし、「実はこの治療法は胎児に影響がありました」となった時は最悪です。
なので、新しい治療を行う時、本来は臨床研究ベースとするべきなのです。
通常、院内の倫理委員会だったり、学会の承認など得てから実施します。(そこらへんの事務作業は、省略しているとしましょう)
今回の技術は、水沢さんの言う通り、今までルーチンで行っている技術を組み合わせたものなので、この手技によって大きな影響があるとは考えにくいです。
また、「この技術を行わないと妊娠できない方」にとっては「希望」となります。
でも、システム構築やリスク回避、インフォームドコンセントも含めて新しい治療を始める時には慎重になるべきだと思います。
革新派がカッコよく見えますが、正しいのは、一色室長と思います。
第16話 背負うもの④
香奈子さんの6回目にして最後の採卵が行われます。
受精卵は10個、透明帯除去を行うのはDay 1なので採卵の次の日です。
我らがスーパー胚培養士の水沢さんが気合いを入れ、透明帯除去を始めます。
胚培養士パイセンが
「ゆりかごから出た。タイムアタックスタート」
と言って透明帯除去が開始されます。
今回は、60分以内に全ての受精卵の透明帯除去を行わなければいけないという設定です。
(実際はもっと余裕ある)
これは、臨場感を出すための演出ですね。
あと、個人的にインキュベーターの事を「ゆりかご」というのは好きじゃないです。
揺れないし、まだ赤ちゃんじゃないし。
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透明帯除去の難易度がよく伝わる表現です。
これは全然盛ってる表現ではなくて、下手すると細胞を壊してせっかく受精した受精卵が死んでしまいます。
ようやらんです。
そこは、我らがスーパー胚培養士の水沢さん。
めちゃくちゃ器用にどんどん透明帯から受精卵の中身をプリプリ剥いていきます。
時間的に厳しくなってきたところで、あんなに反対していた一色室長がサポートに入ります。
実は、コソ練をしていたという。。。
ツンデレかよ。笑
現実主義者でありながら、やるからには卵子や受精卵に負担をかける事が許せないタチなんですね。
これこれ。
胚培養士の鏡ですよ。
(個人の感想です)
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「天才って言われる人ほど努力してる」
これは、本当やで!!
天才じゃない私からすると、天才の3倍は努力する必要があるんやで!!
胚培養士は技術職やからな。
できないなら練習するしかないんや!
そして、無事に全ての受精卵の透明帯除去を終えた水沢さんと一色室長。
ひと安心です。
その後、業務が落ち着いた時間に、一色室長が水沢さんに苦言を呈します。
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「今回は提案が良い方に転んだからよかったものの・・・・」
本当にその通りですね。
悪い方に転ぶ事もあります。
前より成績が悪化したり、逆効果になったりする事もあります。
やはり水沢さんのやり方や言動は、胚培養士の領域を逸脱している
と言わざるを得ませんね。
「こういうやり方を続けていると、いつか潰れるぞ」
クリニックがな!
訴訟とかのトラブルに巻き込まれて、潰れそう!!笑
と思うぶらす室長でした。
まとめ
今回は、透明帯除去培養法のお話でした。
最新の技術が出てくるのは、胚培養士としても勉強になります。
でも、まだまだ普及していない技術のため顕微受精のように「どこの施設でも実施できる」とは思わないで頂きたいですね。
また、国内での出産例はあるものの、国際誌で論文化されたものはミオからの1報で、3PNの廃棄卵を使った研究のみです。
まだまだ新しく、データの少ない技術です。
移植後の妊娠報告は、おそらく執筆中でしょう。
これからどんどん報告は増えていくと思いますし、様々な施設で実施されると思います。
今回は、技術面の解説をメインにお話しました。
原作では、もっと患者さんの心理描写や、水沢さんの感情的な描写が多数出てきます。
それにしても。
水沢さんはかなり暴れん坊な胚培養士ですね。
「私たちのせいにしていいですよ」
と患者さんに言うシーン。
これは、無責任な発言と言って良いでしょう。
体外受精は、上手くいかずに治療を終了する場合も少なくありません。
本当に胚培養士のせいにされたらどうするのでしょうか??
治療費を肩代わりしてくれるのですかね?
そんな事も考えてしまいます。
まぁ、漫画なんでね!
キャラ立ち大事 !!
型破りな◯◯が医療業界に切り込む!
みたいなドラマの方が面白いですから。
キムタクがよく主演をやるやつ。
そして、水沢さんは手技が上手いから許されると思います。
胚培養士という職業は、人間性や性格が破綻していても
「技術が高い事が正義」
私は、そう思います。
でも、私が上司なら、水沢さんに患者さんへの説明は、させないですけど。笑
次回は学会編!!!
私の好きなパートです!!
次回もお楽しみに!
ではまた!