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イヤな奴もひまわりは似合う

「ひまわりが似合う人って素敵だよ」


 こんなコメントを目にした。インフルエンサーと名乗れるくらいには十分なフォロワーを抱える女性の投稿に、そのコメントは寄せられていた。ひまわり畑で四方を花に囲われながら、ジト目というか、モデル特有の半目というか、睨んでいる目というか、で、口元は軽く「への字」に結んでいるような(これで伝わるだろうか)、とにかく笑顔ではないが、格好いい表情の写真が連なる投稿である。写真からは、ひまわりの、あの溌溂とした中に、一輪だけ黒いチューリップが咲いているような不思議な印象を受ける。

 確かに、その投稿は魅力的でもあった。カメラを向けられるような状況になると、決まって、事前に用意した「僕の表情リスト」からいつもと同じ笑顔を引っ張り出して、顔の各筋肉を指定された位置へとぎこちなく操作する僕なんかとは違い、ひまわりの中でこちらを睨む(褒めている)その女性は、自身の表情筋を自由自在に操っているようだった。眼差しや、口元の形が、一枚一枚で絶妙に違っている。それは、意図的に変化をつけていることが分かるくらい上手い。表情作りは普段、表立って注目されないが、一種の特技であり、素人が簡単にできることではない。なるほど、所詮インフルエンサーなんて、顔面偏差値がたまたま高かっただけの人だというわけでないようだ。自分の顔面の魅力を倍増させられる表情の魅せ方を心得ているように、必要な技能を適切に備えている人物でもあるのだ。それなりの結果にはそれなりに納得のいく理由がある。

 それにしても、その投稿はひまわりがよく映えているなと思う。写真の主人公はもちろん女性なのだが、ひまわりと一緒に撮るか撮らないかで、写真から受ける印象は大きく変わる。「ひまわりが似合う人って素敵だよ」。その通りだな、とコメントを眺めた。


 僕のバイト先(個別指導学習塾)に、なかなか厄介な先輩がいる。年齢もバイト歴も共に僕の二年上であり、塾の中ではいわゆるバイトリーダー的な位置にいる。その先輩がどう厄介なのかを一言で表すならば、「プライドが高い世話好き」だろう。まず、やけにプライドが高い「自分のやり方が絶対主義者」で、周りの意見を受け入れることはない。それだけならまだ、勝手にやっといてくださいと、こちらから距離を置くこともできるのだが、「世話好き」という要素があることによって非常に面倒なことになってしまう。


「(僕の名前)くんさぁ、君がちゃんと生徒にやらせなきゃダメなんだよ~。わかってんの?」
―「はい、わかってます。」

「じゃあ、毎回単語テストとかやってる?」
―「いえ。」

「なんでやんないかなぁ。(ため息)」
―「(生徒の名前)さんは、単語力がないというよりも、長文の読解の練習を積んだ方がいいと考えられるので、単語は長文の練習の中で分からないものがあった場合にその都度、確認するようにしています。」

「で?それで点数上がってるの?単語テストもやるべきじゃない?」
―「・・・わかりました。(小声)」

はあ、何というか。伝わるだろうか、この厄介さ。単語テストの実施どうこうの話ではなく、その先輩には塾講師ごとに認められるべき指導観の多様さが微塵も頭にない部分が厄介であり、さらに善意のつもり(?)で他人に積極的に関わろうとしてくる世話好きさが厄介さを助長しているのだ。こんな人、きっと読者の周りにも一定数いるタイプなのではないだろうか。

 普段あまり人を疎ましく思ったり、イライラしたりすることのない僕には珍しく、「イヤな奴」として分類してしまった。


 そして想像してみる。「この先輩は、ひまわりの似合う人なのだろうか」。頭の中で、先輩を切り抜き、ひまわり畑に張り付けてみる。うーん。


「・・・・・・・似合う。」

僕の頭の中のひまわり畑でほほ笑む先輩は、見事に「いい写真」になった。ときたま、普段の先輩の様子が過って、一瞬「いや、本当にいい写真か?」とも思うが、客観的にひまわり畑に似合うかどうかだけで落ち着いて判断した場合、間違いなくいい笑顔で写っている。悔しいが。是非一度、身の周りにいる「イヤな奴」をひまわり畑に立たせてみてほしい(想像で)。そいつの人間性云々を一旦ゼロにして、写真としてその様子を眺めた時、なんだかいい写真に見える気がしてこないだろうか。


 こうなってくると、すごいのはひまわりだということになる。例のコメントも「ひまわりが似合う人って素敵だよ」(※全人類がそうである)。となる。あのインフルエンサーの女性は、ひまわりの誰でも魅力的に映えさせる力を見抜いた上で、ロケーションを選んだのだろうか。僕もひまわり畑で写真を撮ってもらいたいなと思った。厄介な先輩と一緒に行って、写真を撮り合ってみようか。ひまわり畑に行けば、先輩が「イヤな奴」から外れるかもしれない。

うーむ、それは絶対にない!

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