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今日は二人で帰る

 いつもと変わらない帰り道。いつもと同じ夕焼け雲が、僕の凝った目を優しく温めている。この瞬間に、良くも悪くも、生きていることを想う。夕日に背中を押されながら、まっすぐな道を柔らかく歩いている。影はいつも、夕日に押された勢いで先に行ってしまって、僕の少し前を歩いている。なんだろう、少し、あつい。

 今日も何もないまま過ぎるはずの日だった。でも、今日、影が二つある。君は帰り際「一緒に帰ろう」と僕を誘った。ちょっと、びっくり。

 仲良く二つ並んだ影の一つは、本当に僕のものだろうか。不思議な感じ。僕が生まれてからずっと一緒にいる相棒が、抜け駆けして恋人を作っているみたいだった。そんな相棒の初デートを、物陰からこっそり眺めている気分になる。彼らはどこか初々しく、「付き合ってるならもっと近づけ」ってなんて心の中で思ってしまう。

「エモいね」

 僕のすぐ右隣で声がした。それが突然だったから「不思議だね」と僕は返してしまった。君は「え?」とクスクス笑った。視界の隅で白い肩が細かく揺れる。

「ね、理想の身長差ってある?」
「ううん、ない」
「私はね、こんくらいかな」
君はそう言うと少し後ろに下がった。視界の隅から君が消える。どうしたのかと思い、僕もスピードを落として再び隣に並ぶ。
「だめよ、普通に歩いていて」
小さく僕の背中を押す。後ろから「影よ」と声がした。見ると、僕の影の肩より少し下に、君の影の頂点が来ていた。

 そしてゆったりと、君の影の身長が伸びてきて、元通りに並んだ。そういえば、君は背が高かった。さすがに全長を追い越される心配はないが、正直、脚の長さは負けている気がする。

「じゃあさ」今度はさっきとは反対に、君は前方へと歩を進める。僕の影の身長が小さくなっていく。僕と君、一メートルくらい離れた。こうなると、理想の身長差どうこうの話ではなくなってくる。恋人というより、親子のそれだった。二メートルくらい離れた。巻いたポニーテールと青リンゴのピアスが揺れていて、それに初めて気が付いた。薄い香水の香りも、青リンゴなのかと思えてくる。

 君が足を止めた。僕もなぜかほぼ同時に止まれた。君が振り返る。僕は少しだけ緊張する。夕日のせいで顔が火照って見える。眩しいのかな、目も少し充血してるみたいだ。


「・・・・・・・・・また一緒に帰ろう」

「うん」


 君が去ったあと、僕の影はなんだか寂しそうな形をして道路に立っていた。

なんだろう、少し、あつい。

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