架空エッセイ「泥濘む軍場」
「女性の権利のために女性が声を上げるのなら男性の権利のために男性が声を上げてもいいんですよ」と彼は私を説き伏せた。
そんなのひどい。これほどまでの男尊女卑社会なんだから男の権利なんて主張せずに黙っててよと思うのだ。この社会で男の権利を主張する人間は自転車のサドルが盗まれちゃえ。
私の登録した就活サイトは特典で日経BPが毎週送られてくる。それを読めばこの国がジェンダーギャップ指数で何位かなんてだいたい予想がつく。私が生計を立て、暮らしを営むために出陣する戦場には既に見えない壁が泥のように張られているのだ。
私は外車を買いたいとも六本木で遊びたいとも思わない。この不安定な世界で生活を成り立たせ、少しばかり資産を持ち、たまに自分へのご褒美としてキレイなアクセサリーや煌びやかな服を買いたい。ただそれだけだ。けれどそれをあと40年続けるための道標がない。
私は出世レースに参戦し、部長にでもなろうとすればよいのだろうか。男臭い内輪ノリを乗りこなし、お前らの引き立て役ではなく私も一人のライバルなのですよと喧嘩を売りながらも上手く協調し、仕事で結果を残す必要があるのか。
第一講堂から出て自転車に乗ろうと鍵を探す。次の瞬間、サドルが盗まれていることに気がついた。大学でサドル盗むなよ。しっかし、女のチャリからしかサドルを盗めないのか、この国の泥棒は…なんてね。
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