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【短編】ミヤマノカタバミ


四つ葉のクローバーを見つけたら
幸せになれるよって
笑った君と日が暮れるまで
靴を汚して遊んだ日

ハートのクローバー
半分にちぎった

アスファルトの乾いた風に
慣れてしまったせいで
貰った手紙もなくしてしまった

はなせなかった
はなさなかった
後悔することも忘れて
ただ、1人
名前を忘れたなんて
嘘をついたよ

無人駅を降りれば
一回り小さくなった景色が
出迎えてくれるから。
あしひきの深山の裾野に踏みいれば
あの長い長い夜を思い出し
ひとり、ひとり、眠れずに。

噎せ返る緑の匂い
苦手になった蜘蛛の巣と
足元に転がるクローバー

頭を垂れた小さな白い花が
僕を正確に呪うから

あの日、天井を眺めていた僕と
いつまでも立ち尽くした君と
追いかけた影と
かけ離れた君は
もう交わらないけれど

深山のカタバミを探したあの頃を
今も思い出しては
ひとり、寝るのだろうかな。

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