【短編】Scabiosa
空っぽのガラス瓶に
花を指して
水を注いで
いっぱい注いだら
溢れてしまって
あ、溢れちゃったねなんて
笑いながら
君がが拭ってくれて。
ザラメのついた梅キャンディ
おいしいねって舐めながら
口の中は鉄の味。
滲む鉄塔、咳き込む。
右手のウィンストン
灰の落とし方も
知らないままで。
磨りガラスの中
ベットの上
秘密の言葉と秘密の暗号
誰も解けない方程式
鍵なんてかけないままで
ほっぽりだしてる。
24時間って何分だっけ
365日って何時間だっけ
生まれてから今日まで
何日だっけ
数えることもしないままで
もう、いいかい?
って何度目だろう
なんてことを考えながら
ボロボロのスニーカー
踵に穴が開いていて
雨が滲むから
滲むから
滲んでも滲んでも
ガラスを踏んでも
泥に塗れても
ずっとずっと
変えもないまま
ずっとずっと
変えがないから。
窓際で黄昏れる
いつかの花は
変わり果てた姿で
首を擡げて
どんな色かも
思い出せぬままで。
空っぽの風船に
空気をたくさん読んで
吸って、吸って、吸って
吐くことも忘れて
全部、吸って。
まだ大丈夫だよって
君が笑うから。
まだ大丈夫だと
君は笑うから。
冗談半分で。
君の口に
最後の息を吹き込んだ。
fin.