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【短編】泡。


届かない
あと少しだけ
手を伸ばせれば
あなたを。



笑顔で、笑顔で、
泡も吐かずに
堕ちてゆく堕ちてゆく
あなたを。

わたしはわたしは
穴だらけの筏の上
手を伸ばし、差し伸べる
あなたに。

冬先の風は酷く劈き
私のからだに纏わりつき
飛び込む勇気を食い潰し
鎖に繋がれたわたしは


どんな顔で
どんな言葉で
あなたにあなたに
声をかければいいのだろう


笑顔で、笑顔で、
顔色変えずに
沈みゆく沈みゆく
あなたを。

わたしはわたしは
水だらけの筏の上
手を伸ばし、差し伸べる
フリをする。


からっぽの言葉
かわいた笑顔
やさしくありたいと願い
共に歩みたいと願い
そうだったはずなのに

180度の言葉
伸び過ぎたビニール袋
もう、戻らない
もう、戻せない

いまさらなの
もうすべて。
伝えてしまえば
嘘になるから。

嘘なんてひとつもなかった
この距離にこの時間に
嘘なんてひとつもなかった

ただ一つだけ
ただひとつだけ
勇気が無かっただけ
言い訳を並べただけ。

伸ばさなかった手と
静かに弾けた泡と
壊れてしまった私と
また、陽は昇り

世界にたった一人残されて
目の前に広がる
七色の朝焼けに
私を殺してと叫んだ。

あなたに哭いて欲しかった。




fin.

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