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十王星南が初星学園に齎したもの

十王星南のコミュ、とても良かったので感想文を。
※ネタバレ注意⚠️

彼女の物語は、学マス作中で初めて初星学園のの現実について触れたという意味で、他のコミュよりも一歩先の話をしているなという印象。
今までとは打って変わって、一般論的にアイドルを目指すことについてリアリスティックな視点で描かれている。

十王星南にかけられた呪い

話の前提として、初星学園生徒達のアイドルとしてのレベルは総じて低めであることに留意(この情報は十王星南のコミュで初めて開示?)。作中序盤でも十王星南が言及していたが、「一番星(プリマステラ)」の彼女でさえ、学園の外に出ればプロのアイドル達と肩を並べることができない。

初星学園の生徒達は皆、十王星南以下のレベルなので、必然的に初星学園生徒全員がプロとして通用しないことになる。考えてみれば当たり前の話である。スカウトされる、もしくは高い競争率を乗り越えてアイドル事務所に入ったプロのアイドルと、アイドルを夢見て「自ら」金を出してアイドル養成所モドキの学校に入る子とではそもそものステージが違う。アイドル事務所に所属しているプロは、既に見出された才能を育てるために手厚いサポートを受け、アイドルとして金を稼ぎ、事務所全体を養うことが期待されている一方で、初星学園の生徒たちは授業(レッスン)料を支払ってサービスを受けるお客様でしかない。

しかし、"学園内においては"彼女の能力はずば抜けているので、本人の意思とは裏腹に、十王星南が今最もプロに近い逸材であると周りからめちゃくちゃ期待されてしまっている。

選ばれたとき複雑な心境だったと思う

以上のことから、学園一のアイドルを指す「一番星(プリマステラ)」の称号は十王星南にとってある種の「呪い」であることが分かる。アイドルとしての能力の成長が止まり、とっくに限界が見えている自分が学園一のアイドルであるという事実は、初星学園そのものの限界を示すことになるからである。彼女がトップアイドルとして咲けるか否かは彼女だけの問題ではなく、初星学園の存在意義を問う話にまで拡大している。

※また大変不運なことに、彼女は他の生徒達を一目見ただけで能力値を見抜ける能力を習得してしまっており、このことは彼女にかけられた呪いを酷く重いものにしている。

知らない方が幸せなこともある

この罪な能力のせいで、自分より能力値が高い生徒達が学園中どこを探してもいないことに確信があり、卒業というタイムリミットが迫る中、学園内に後継がいないという避けようのない事実が突きつけられている。十王星南は、初星学園の未来を憂う責任感のある生徒なので、ここに彼女だけが持つ異様な焦燥感がある。

今年入った新入生だけが唯一の希望。まだスカウター通してないので。

彼女が自分の地位を脅かす存在(ライバル)を欲しているのは、そういった理由から。全力で競い合いたいがために強力なライバルを求める花海・バーサーカー・咲季とは、そこが全く違う。
この程度の能力値の自分が一番星であってはいけないと思っていて、初星学園の外で通用する、自分より相応しい一番星が現れるのを心の底から願っている。そんな存在だけが自分の呪いを解き、救ってくれると思い込んでいるから(しかしこれはかなり他力本願な手段であり、十王星南自身は本当の意味で救われない)。

自分がトップアイドルになることの責務から逃げ、自分を超える誰かに託したい(なすりつけたい)

初星学園は地獄

ここまできたらじゃあ初星学園が悪いんじゃないか、今まで何やってきたの?って話になってくるのだけれど(現実にあったらe-sportsプロ専門学校並みに胡散臭い)

学マスのプレイアブルキャラ達は皆、何かしらの理由で伸び悩んでいるだけで元々ポテンシャルがあり、最後はプロデューサーの力を借りながら報われる流れになるから気付きにくいけど、初星学園というアイドル養成所モドキは、中途半端な才能を持ったその他モブドル達にとっては地獄でしかない

中等部から入ったとしても高等部卒業までに6年しかなく、その間に咲けなければ終わりという我々常人には想像できないプレッシャーがある。
卒業後もアイドル以外で生きていけるように一応気休め程度に中高の授業を受けさせているけれど、アイドルで食っていくことを諦めた瞬間、アイドルとして成功するために費やした膨大な時間と授業料は全く無駄だったことが確定する。当たり前だけど普通に社会人をやる上でダンスや歌のスキルは全くもって潰しが効かず、もちろん今まで全力でアイドルを目指していたのでそれ以外のことは何もしていない。何のスキルもないまま社会に放り込まれることになる。(似たような問題は美大・芸大でも言われている)

色々挫折しまくった我々おっさんにとってみればだからなんだ、なんかしらで一回コケたくらいで人生どうとでもなるわいと言ってみせることは簡単だが、10代半ばくらいの子供にそのマインドは無理である。本当に文字通り人生全てを賭けて初星学園に入学してきたのだから。

藤田ことねのストーリーを読むとその辺が特にリアルだけれど、中等部から入って折り返し地点で伸び悩む、何も掴めてない状態というのは本当に恐怖だと思う。彼女のように、実家が太くなく、人生一発逆転を狙って借金しながら入学した子達は多いはずである(勿論グラデーションはあるにしても)。アイドルになりたいと親に土下座して訳の分からない学校に通った挙句、結局うんともすんとも言いませんでした~てへっとはいかない、そこまで無邪気な年齢じゃない。だから地獄なのである。

また、当たり前だけどその地獄への解像度は卒業が近づくにつれ上がっていくので、卒業まであと1〜2年しかない上級生達の焦りは想像を絶するものである。
姫崎莉波や有村麻央のストーリーからもその辺は描かれていて、自分の能力の限界がだんだん見えてきている中、アイドルを諦める選択肢を頭の中から追いやるためにひたすらルーティンのレッスンをこなして何とか正気を保っている姿は見てられない程不憫である。10代後半の子供が、疲れているはずなのに夜も眠れない日々を過ごし、ふとした瞬間に将来への不安に押しつぶされ、1人静かに布団の中で泣く生活を送っている。一体何をやってるんだこの学園は。

この初星学園の現状が、冒頭で彼女がプロデューサーになって新世代を育てたいと言った理由にも繋がってくる。彼女は少しでも多くの少女達をこの地獄から救いたいと思っているので、埋もれた才能を掬い上げるプロデューサーという仕事への転身を検討している。

しかしこれはあくまでも妥協の道である。彼女自身の「自分がトップアイドルになる」という夢を叶えなければ、十王星南は救われない。トップアイドルにならずしてプロデューサーになったとしても、救われるのは十王星南以外のごく一部だけである。

十王星南が背負った「完全無欠の偶像」という責務


十王星南は自分が初星学園という地獄の中でも最も優れた人間であったからこそ、ついに自分の成長限界が見え始めて絶望した。学園で一番の自分ですら成長が止まり、学園の外で戦うレベルに達していないのであれば、自分より下の子達は??
はっきり言って論外であり、アイドルで食っていくなど夢のまた夢であることは十王星南自身が身をもって知っている。

だからこの事実は初星学園の他の生徒達に決して悟られてはいけない。自分達が通う学園一のアイドルが、プロの足元にも及ばず、成長が止まって絶望しているなんてことを生徒達が知ってしまったら、どうやったって初星学園でトップアイドルを目指すモチベーションを保つことができなくなってしまう。
だから十王星南は仮面を被った。完全無欠な偶像を演じることを受け入れた。それが一番星に選ばれた、学園を代表するアイドルとしての責務だから。(ここまでくると明らかであるが、十王星南の行動指針は徹底的に他の生徒達のためになるかどうかに重きが置かれている)

※時系列を間違えないように。完全無欠だから一番星に選ばれたのではなく、一番星に選ばれたから完全無欠の偶像を演じ始めた。

そして結果的にそれが彼女の足枷となり、アイドルとしての可能性を狭めることになる。

燕は側近のくせに十王星南が完全無欠を演じていたことに、それで悩んでいたことに気付いていない。何故なら結局は熱狂的なファンとしての視点しか持ててないから。理解者には程遠い。
愛しのことねからの救いの言葉。新入生のほうが余程理解者たり得る。

親愛度9で十王星南が涙した理由


彼女が最高のライブをして後輩達に自分を目指しなさいと、胸を張って言えたことに涙を流したのは、自分も含めてこの地獄に生きる生徒達全員を救うことができたからである。
今あなたたちが受けている初星学園のレッスンが、この私を作ったのだと。あなた達が毎日死に物狂いでやっていることは決して無駄ではなく、ちゃんとプロに通用するのだと。「この私を、一番星を目指しなさい」という言葉にはそういった希望を齎す力強いメッセージが込められている。

アイドルとしてなかなか芽が出ない生徒達は、だんだん自分の努力と才能が信じられなくなり、学園のカリキュラムと、厳しいレッスンをしてくれる先生やアドバイスをくれる先輩、果ては自分を採点する試験官にも疑心暗鬼になっていく。私がアイドルになれないのは誰のせいであるか、環境のせいなのか、運のせいなのか、もっと実家に金があれば、コネがあれば、もっと良いアイドル養成所に行けて立派なアイドルになれていたのか。そんなことを考えている自分が益々嫌になってくる。

そんな中、自分と同じ学園に通う先輩が、名だたるプロ達を圧倒するパフォーマンスをしているのを見てどれだけの希望を感じられたか。救われたか。
彼女達は皆、誰よりも努力している十王星南の姿を同じ学園内で見聞きしているため、学園の生徒全員が、彼女が成した偉業を、過程と結果を結びつけて考えることができる卒業後もアイドルとして生きていくことが現実味を帯びてくる。初星学園を信頼する理由ができる。

十王星南は、「一番星(プリマステラ)」という呪いと1人孤独に戦い続け、ようやくこの日、その忌むべき称号を他の生徒達にとっての希望の光に変えることができた。学園一のアイドルとしての責務を果たせた。あの涙は、達成感や喜びから来ている部分もあるだろうが、何よりも彼女が背負っていた責務を果たせたことによる安堵の気持ちが大きい。

トップアイドルのその先

こうして十王星南は、トップアイドルになるという自分の夢を叶えながら、初星学園の生徒達を救うことができたのだが、最終話(10話)ではさらにもう一歩踏み込んだ話をしている。

彼女は"トップアイドルになった上で"、その先のプロデューサーとして後世を育てていく道のビジョンを持っていることを告白するのだが、これまた初星学園の生徒達に希望を与える聖人君子ムーブをしていることが分かる。もうここまできたらとことんである。
アイドルはどうしても現役としての寿命が短い生き物であるので、仮にプロのアイドルとしてデビューしたとしても、その後消費期限が切れたらどうするのか、夢を叶えた先の道が不明瞭であることはアイドルを目指す少女たちが抱えるもう一つの不安の種である。

そういった、アイドルになった後のその先の不安までも彼女は解消しようとしている。
大丈夫、あなたたちが進む道はずっとずっと先まで続いているのだと。アイドルになって終わりじゃないのだと。その先にも可能性はあって、未来は明るいのだと。
十王星南は自分の生き様でこれらを証明し、アイドルを目指す生徒達の道しるべになることを選んだ。自分の残りの人生全てを使って、彼女達に希望を与えることを選んだ。それが十王星南にとってのトップアイドルなのである。


すげえ脚本…
これもしかして他のキャラも自分にとってのトップアイドルが何たるかをそれぞれ解釈してストーリーに持ってくるのかな…毎回泣いちゃうかも…

あとフレンド募集中です。会長専用完凸サポカ置いとくので何卒…
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