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【書評】『英語化は愚民化』…英語学習強化の前に考えたいこと
皆さん、こんにちは。えむ@非常勤講師&大学受験アドバイザーです。
今週から土日はもっと肩の力の抜けたものを発信していこうかなと思います。土曜日は書評、日曜日は時事ネタや身辺雑記とか。
そんなわけで、今日はさっそく書評です。
末端ではありますが、教育業界に関わる者としてこの本は本当に勉強になりました。
大学受験だけに限らず、いまの日本社会はどこをみても「英語ができなければいけない」、「さらにグローバル化を推し進めていくべきだ」、「日本は世界から遅れている」…そんな意見ばかりです。
大学に限って言えば、「グローバル」と名のついた学部がもてはやされたり、すべて英語で講義を行うことを売りにしたりする大学もありますね。
たしかにこのご時世、英語をしっかり学び、国際社会の動向をしっかり理解しすることは大事です。英語を学ぶことで視野が広がったり、ビジネスの幅を広げたり、自国語をさらに深く理解できたりします。私も大学院まで英語の勉強をした経験から、その重要性はある程度分かります。
小学校3年生から英語が必修化され、英語幼稚園も人気があるとのこと。でもですね、大学受験の現場を担当している者として日々痛感しているのは、「英語はペラペラしゃべれても、その話す中身がまるでない生徒」が増えているということです。
友人とのくだけた英会話はできても、抽象的・論理的会話は英語はもちろん母語であるはずの日本語でもできない。そもそも日本語の語彙も表現力もまだまだ乏しい…。そんな未熟な母語領域しかもたない発展途上の子供たちに、幼き頃から英語・英語・英語と言い続けてその先に何があるのだろうと、近年ずっと考えていたのです。何かおかしい、何か変。その疑念や不安に明確な答えを示す貴重な一冊が本書でした。
著者は九州大学比較社会文化研究院教授の施 光恒氏。大学教育の第一線にいるからこそ、このなんでもかんでも英語!グローバル!な現状に強い危機感を抱いたのだろうと思います。
本書で特徴的なのは、むやみやたらな英語化推進への問題提起だけにとどまらないところです。筆者は「日本人にとって憂うべき未来」を避けるために、我々は今後どうすべきかを真摯に考察し、提案しています。
英語化に盲目的に邁進するのではなく、私たち日本人の良さを活かし、私たち自身が安心して楽しく生き生きと生活できる未来を作る。教育はそのためにあるのだと私は考えています。
繰り返しになりますが、本書は英語学習を否定するものでは決してありません。私も英語を学ぶことは重要だと考えます。
しかしそれは、英語帝国主義の一員になるのではなく、英語を学び、その背景を知ることで、私たちの社会をさらに豊かにし、発展させるように用いて行くことが大事だという意味です。
『英語化は愚民化』という少々ショッキングな書名ですが、本書は読み手にやみくもな英語至上主義の問題点を提示し、母語の大切さを様々な角度から丁寧に説明します。
本書は2015年に刊行されたものですが、8年たったいまでもこの危機的状況は変わっておらず、さらに深刻さを増していると言っても過言ではないと思います。
ちなみに本書は埼玉大学をはじめ、多くの大学の入試問題に用いられています。
大変読みやすい文章ですので、お正月休みの一冊としてオススメです(^_-)