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自己紹介とこのnoteの方向性
なんとなくわかってもらえるとうれしいです。
Updated:2024/12/30
1.自己紹介ときっかけ
はじめまして、Emina(えみな)といいます。北海道在住で、旭山動物園のペンギンたちを毎週のように見守り、観察しています。ペンギンに入れ込み始めたきっかけは、2022年に旭山動物園で見た巨大な茶色いモフモフです。最近ではメルボルン動物園の「ペスト」が大人気となっていますが、私は「51番」という同じように大きいキングペンギンヒナに惹かれました。51番は旭山にとっては8年ぶりの人工育雛で育てられたそうで、ペストと同じように成鳥よりもずっと大きな体をしているのに、お節介な成鳥たちに追いかけられ、近づこうとするたびにメンチを切りまくるヒナでした。でも、どこか表情に哀愁や憂いがあり、時に麗しかった。そこから、キングペンギンはいったいどういう生き物なのか、このヒナ(亜成鳥)は他のペンギンと何が同じで、何が違うのか、野生と動物園では違いがあるのかなども知りたくなり、ずぶずぶとペンギン沼にはまっていきました。
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2.私の変わったハマり方
私のハマり方はちょっとネジが飛んでいて、マクロレンズで拡大するように物を見たり、360度あらゆる方向から見たり、陰で支えたりしているものを見つめる傾向があります。音楽も表に立つ側にも興味はあったけど、作るまでの過程とか、プロデューサーとか、エンジニアとか、曲の作り方とか、そういう職人技にまで興味を持つタイプだったし、音楽が人に与える心地よさとか絶妙な違和感とかも、曲を分解してああこういう構成だからこう聞こえるんだー、みたいなことを一人で納得して知的好奇心を満たしていました。もうひと世代前に生まれていたら、トランジスタラジオを分解していたでしょう。
3.音とは切り離せない人生
そんな私はいま、キングペンギンの鳴き声を収集しています。
その背景には、私が子どもの頃から「音」とは切っても切り離せない人生を送ってきたことも関係しています。子どもの頃はファミコンなどのゲーム機は一切与えられず、NECのPC-9821CanBeというデスクトップPCを親と共有していました。その中に入っていたのが『Musical Instruments』という手元に楽器がなくても様々な楽器の音色を聞くことができるソフト。楽しくてガシャガシャ鳴らしていただけですが、おかげで民族楽器からオーケストラの音までほとんど聞き分けられようになりました。その後YAMAHAのソフトシンセサイザーS-YG20を手に入れてからは、DTMで音楽を作ることに熱中しました。
音楽の簡単な耳コピも得意で、その昔PHSの3和音の着信メロディ(着メロ)が流行った時代に、誰よりも早く(というか田舎でやるヤツすらいない)着メロを作り上げる子どもに。大人になってからも、友達と多録アカペラで遊んだりして、音の加工とか音響分析のスペクトログラム(音の周波数や強さなどを可視化したもの)も独学である程度読めるようになっていきました。プロとして役に立つほどのものはないのですが、巷で流れる音楽は意識すればドレミで思い浮かべられるし、巷で流れる音楽を聴いて、機材特有の音色でもない限りはだいたい何の楽器が入っているかだいたい答えられるので、それはそれでマニアックな世界(?)を生きてきました。
4.あのけたたましい鳴き声はなんだ
そんなふうに音に人一倍反応する私なので、キングペンギンに出会ってまず驚いたのがあのけたたましい「鳴き声」です。ヒナの親と思われるペンギンだけではなく、明らかに部外者のペンギンまで空を見上げて「ア"ァーーーア"ァア"ァア"ァ!」と鳴くのです。しかもなかなかの爆音で。これが何事なのか、動物に全く親しんでこなかった私は全く見当もつかず…アマゾンで見つけて初めて買ったペンギン本がこれ。
たしか図書館の書庫にあって「これでペンギンが何を言っていたのかきっとわかるー!!!」なんて、嬉々として開いたら、それはそれは恐ろしいほどのガチ論文…。私の知りたいことは論文の中なんですか…わたし文学部出身でs…理科は地学しかできませn…それでも買ってしまったのが運命の分かれ道!
5.ちょっとだけ読めてしまった
自分の興味のある所だけでも…!と、ペンギンの鳴き声のページだけを読み始めると、まず、キングペンギンのあの上向きの鳴き声は業界では「ディスプレーソング」や「歌」と表現されることが分かりました。
(現実のけたたましさとはかけ離れたシャレオツな呼び名だぞ研究者!)
と思いながらも、先に触れたスペクトログラムや周波数(Hz)での解析をした結果がまとめられていました。それを読んでいる時の私(再現)。
すごい!これは繁殖期だけの鳴き声なんだ!しかも相手を識別する??いやいや匂いとか見た目とかさぁいろいろあんじゃん…?え、鼻ふさいで実験したの?顔とか姿じゃなくて声で判別…???ああまぁ見た目全部同じに見えるしな…(急に雑)へぇースペクトログラムってこんな風にも使われるんだ。鳴いてるリズムの違いは確かに個体差あるなあ、それを覚えてるのかー。記憶力あるんだなあ。んん?キングは雌雄で声のトーンが違うんだ?500Hz差って人間でも分かりそう、人間の男女も500Hz差って聞いたことがある。ほー!おもしろー!こんど聴いてみよう。ああでもつがいになると歌わなくなるのか…でもたまごを受け渡す時にはチャンスと…(略)
「読める…!読めるぞぉ…!!」と興奮したムスカ(by.ラピュタ)が私に降りてきたかのような体験は後にも先にもこれくらいかも。他の章節は何のことが書いてあるかサッパリ分からんかったけど、すでに動物園で見たしぐさや鳴き声のことだけはうんうん確かに、と読めました。観察していれば、この本はもっと読めるようになるのかもしれない。自分の知識経験を応用して分かる世界があるかもしれない…!と勘違いが始まり、興味が爆発しました。
キンペの鳴き声は雌雄で平均537Hz差があるらしい!88鍵でいう一番低いラからドど真ん中のレくらいって結構だなあ、気づかなかった。
— E *m i n a/えみな (@em1nalize) June 12, 2022
6.ペンギンの聴き方が変わったら
「雌の歌は雄より高音である(主要周波数の平均は雌で2937ヘルツ、雄で2400ヘルツ、最大周波数の平均は雌で6781ヘルツ、雄で6400ヘルツ)」
『ペンギンは何を語り合っているか 彼らの行動と進化の研究』1996年、どうぶつ社、P83
雌で2937Hz、雄で2400Hz。あ、でも旭山のキンペで良く聞く音はレくらいだな~と思って調べたらいいとこだった(何の能力)https://t.co/7crFkRnKsN pic.twitter.com/nftURlHOip
— E *m i n a/えみな (@em1nalize) June 12, 2022
その後、私はキングペンギンの鳴き声や求愛行動その他のしぐさなどをたくさん撮りためました。また、雌雄差について話している人がいないか調べたりしました。名古屋港水族館のSNSでエンペラーペンギンについては雌雄差があることはわかりましたが、ペンギンの鳴き声に雌雄差はない、もしくは言及がないサイトがほとんどで、AIさえも分かっていないと答えました(*1)。図鑑などの書物にもほとんど記載がなく、唯一記載があったのはやはり『ペンギンは何を語り合っているか 彼らの行動と進化の研究』だけでした。最初からドンピシャの書籍を引いたと同時に、おそらくこの分野はペンギン研究の主流ではないことを悟りました…(*2)。そういうの俄然燃えるタイプ。目の前で見聴きしてるのに、本に書いてないなんて。
(*1)飼育しているペンギンに限って言ってるつもりが、ペンギン全体を指してしまっている場合を含む。
(*2)ペンギン研究者の上田一生先生にお伺いしたところ、その分野の研究者は非常に少ないとのこと。のちにピエール・ジュバンタンのお弟子さんであるステファン・ドブソンがまとめたという『The Penguins - Why penguins communicate?』を薦めていただき、さらに沼へ。
撮りためた歌をある程度並べました。やはり、キングペンギンの歌には明らかな雌雄差と個体差(個ペン差…?)があります。なんと雌雄識別率100%。旭山動物園ではフリッパーと呼ばれる翼の根元にカラーバンドがついています。それが見えればいいのですが、旭山では左右どちらかにバンドをつけている上、肝心のビーズがフリッパーの下に隠れていることもあったり、紫外線で色味が変わったりしてしまうので、バンドでの識別が難しいこともあります。でもやはり私はキングの求愛行動が知りたいので、求愛しているときの鳴き声で個体識別できるようにするのがとても重要に思えました。求愛行動は何度も行われますので、一度分かればその後はバンドが見えなくてもだいたいの当てを付けられますし、鳴き声が違えば相手が変わったとすぐに認識できます。おかげで最近では、春先の相手探しやアピール行動は前の年の秋ごろからすでに始まっているらしいことも少しずつ見えてきました。もちろん、結局元サヤに戻ることもあります。こうして、キングペンギンの鳴き声収集は、キングペンギンの個体識別につながり、決められた飼育スペース内での求愛行動や相手の変遷を知るにはとても良い判別方法になると確信しました。
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この動作でペアとなるかどうかが決まるという。しかしごらんの通り、バンドの色が見えないとこのペアが誰と誰なのかは知ることができない。この動作に進むには前週までに鳴き声を交わしている可能性が高いので、さかのぼって調べると46番と48番であることが分かった。
7.このnoteの方向性
アカウントを取得したものの、使い方をずっと模索していました。インスタは旭山ペンギンの最新情報とデータの蓄積がメイン。Threadsはメモ帳。私の一番の興味はキングペンギンが繁殖相手をどう選ぶのかであり、中でも一番最初の入り口である「鳴き声」のことを強烈に知りたいと思っていました。野生のコロニーで決まった個体がどのように相手を見つけ、繁殖行動を起こすのかを研究するのは識別子があれば行えるかもしれませんが、複数シーズン観察し続けるのは非常に難しいのではないかと思います。その点、旭山のキングは屋外でも暮らしていますし、室内で鳴いていても爆音が轟いて外まで聞こえるので、簡単に生の音声データがたくさん録音できます。また、ヒナから亜成鳥になった個体の鳴き声もこれまで3羽(♂2、♀1)収録しました。
この収録がしやすい環境を活かして、こちらのnoteではキングペンギン(時には他の種類のペンギンも)の鳴き声の研究をはじめ、求愛行動するに関するハテナや分かったこと、分かりそうなことを興味の向くままに共有してみたいと思います。日本はどうしても言語の壁が厚いので、時には間違っていることもあるかもしれませんが、こうしたプロセスを公開することによって、どのように調べたらよいのかとか、どんな視点で見たらよいのかとか、言語の問題でひとりではたどり着けない情報にアクセスできたりだとか、ふと気になった方の謎が解けて理解が深まったりとか、そういう縦にも横にも広いペンギンネットワークが拡がるといいなと思っています。また、疑問に思っていることも正直に書くのがいいかなと思っています。まずは、興味の赴くままに。
8.個体識別の注意点
最後に、ペンギンは個体で愛でられやすいタイプの生き物だと思います。二足歩行で、陸ではペチペチ歩いていて、キングペンギンはうんうん頷くし、巣を持つ種はペアの絆が強く、人間が「こうありたい」と思うことを実現しているさまを平和に見ることができる。こんなことも無意識のうちにあるのではないかと思います。なので、あまり「推し」とか「個」でペット的に見るのではなく、「動物の向こう側で起きていることに思いを向けてほしい」という園の考えは私も分かっているつもりです。現に、動物園での情報発信をきっかけに英語の記事や文献にも触れるようになりましたし、ペンギンだけを見るのではなく様々な動物の暮らし方を知る大切さこそ旭山に教わっています。
ただ、何度も言う通り私のテーマは「キングペンギンの求愛行動」です。こればかりは個体識別ができないと始まりません。実際の野生調査でも、必要な場合にはなるべく無害な形で印をつけるなどして個体識別が行われてきたそうです(*3)。また、観察しているうちにペンギンにも個性があることが分かってきました(これは他のペンギン好きさんでも共通認識だと思います)。とはいえ飼育に関わったことのない素人である以上、目の前の動作がペンギン共通なのか、個性からくるものなのかを判別する必要もあります。このnoteで出てくる個体情報は、あくまで観察のための個体識別情報ですので、ここで公開する内容はペット的に愛でる目的で利用することのないようご理解いただいた上で、特に発信にはご配慮いただければと思います。そしてなるべく「ペンギンの向こう側で起きていること」にも触れていけるように、私も今後学びを深めて共有していきたいと思っています。
(*3)上田一生著『ペンギンのしらべかた』では、行動記録装置(データロガー)を付けた野生のペンギンを捕獲する目印として、人間用の(無害な)白髪染めを使用する旨の記載がある。また、名古屋港水族館の公式ブログ(https://nagoyaaqua.jp/study/column/14340/)では、ジェンツーペンギンのつがい外交尾の調査のため、腹部に数字をペイントしている様子が残っている。
9.広告や有料記事について
Updated:2024/12/30
書籍へのアクセスをよくするため、アフィリエイト広告経由のリンクを張る場合や、ちょっと労力がかかった記事などは有料記事とすることを検討しています。仮に収益が発生した場合は、少額でも旭山動物園の『もっと夢基金』の募金箱に寄付する予定です。
最後まで読んでくださりありがとうございます。ここまで読んでいただければ、なんとなく私が好奇心のまま深みに入っていく部類の人間であることがお判りいただけたと思います(笑)さあさあどうぞ、深みにはまっていってください…!