コラム:ガンダム入門講座(アナザー編その2)SEED~00
砂塚ユートです。大変長らくお待たせいたしました。
ガンダム入門講座、今回は引き続き宇宙世紀以外の世界観で展開されるシリーズ「アナザーガンダム」について紹介していきます。前回は『機動武闘伝Gガンダム』から『∀ガンダム』までのシリーズを纏めました。
新世紀のアナザーガンダム
一般的にファンの間で「アナザー」と呼ばれているのは『G』『W』『X』『∀』の4作品ですが、非宇宙世紀作品を指す括りとして便利なので、当記事では『SEED』以降の作品もこちらに区分しております。基本的には前回と同様、別タイトルの作品同士に設定的な繋がりはありませんが、例えば『機動戦記ガンダムSEED DESTINY』は『機動戦士ガンダムSEED』の続編として制作されているなど明確に地続きとなる作品も増え始めます。
機動戦士ガンダムSEED
入門オススメ度:★★★★★
全50話。
・21世紀のファーストガンダム。20年以上前の作品ですが、HDリマスター化で作画が新しくなった他、続編となる新作劇場版が公開決定したのも入門編としては高ポイント。
本作の舞台となるのはコズミック・イラ(C.E.)の時代。大戦や疫病、宇宙開発などの困難を乗り越えるべく遺伝子研究が模索され始め、その結果、人類はあらかじめ遺伝子調整を受けて出生し、強靭な肉体と優れた頭脳を有するコーディネイターと呼ばれる人種と、ありのままで生まれるナチュラルとに二分されました。彼らの間では能力差や倫理的な反発、自治権などの問題から差別や分断が加速し、互いへの憎悪を募らせていきます。
C.E.70。主にナチュラルの擁する陣営である地球連合がコーディネイターの居住コロニー「プラント」に対して行った核攻撃を皮切りに、プラント義勇軍「Z.A.F.T.」(ザフト)との間でついに戦端が開かれます。当初は物量で勝る地球軍の勝利が信じられていたものの、ザフトによる核抑止と電波かく乱を兼ね備えた新兵器「ニュートロンジャマー」とモビルスーツの導入によって戦線が膠着し、開戦から11か月の歳月が経ちます。
そんな折、中立であるはずのコロニー「ヘリオポリス」が密かに5機の「G兵器」と呼ばれる地球連合のモビルスーツを開発していたことをザフトに察知され、攻撃を受けます。ヘリオポリスの学生、キラ・ヤマトは友人たちと共に戦火に巻き込まれてやむを得ず、唯一、強奪を免れたG兵器のひとつ「ストライク」に乗り込んでザフトと戦う羽目になります。
当時、「新世紀のファーストガンダム」を志向されただけに本作(特に序盤)の展開は初代ガンダムを踏襲されており、非常に似通ったあらすじとなっています。一方で、従来のような「地球と宇宙の対立構造」に加えてナチュラルvsコーディネイターという人種間の対立を根幹に据えるなどといった新たな試みが見られ、中盤以降は独自の色合いに仕上がっていきます。
主役機(前半):ストライクガンダム
21世紀初の主役ガンダムは、地球軍が開発した「G兵器」のうちで唯一、ザフトの強奪を免れた「ストライク」。主に3種類のストライカーパックを状況に応じて換装する事であらゆる戦局に対応できることが売り。
もっとも初登場時の装備はストライカーなしの頭部バルカン砲とナイフだけであったために、キラをして「武器は!? ……これだけかぁっ!」と嘆かせたのはもっぱらの語り草。
本機というかこの作品序盤のガンダムに共通する弱点が継戦能力の低さ。基本的にこの時代のMSはニュートロンジャマーの影響下にあるため核動力が使えず、大型のバッテリーを積み込むことで稼働しています。特にガンダムタイプは装甲の表面に通電して強度を上げているため、内部電力を消耗しすぎると「フェイズシフトダウン」と呼ばれる現象(バッテリー切れ)によって機体から色が失われ、装甲が脆くなって機能不全に陥ります。
実は本作においては「ガンダム」に明確な定義は存在せず、ストライクの場合、搭載されたOSの頭文字を乗り込んだキラがたまたまもじって呼んだのが命名のきっかけ。そのため劇中ではあまり「ガンダム」という単語が登場しません。ただし作中世界でもメカニックマンの間で身内ネタとして方々に広まり、以降それっぽい機体はガンダムとして定着した模様。(売れ行きに響くためガンプラとして出る場合にはガンダム名義が多い)
主役機(後半):フリーダムガンダム
後半の主役機は「フリーダム」。元は強奪したG兵器のデータを参考にザフトが造った最新鋭機でしたが、ヒロインの一人であるプラント非戦派、ラクス・クラインの手引きによってストライクを失ったキラに託されます。
本機の特徴は核兵器を無力化する「ニュートロンジャマー」をさらに無効化する「ニュートロンジャマーキャンセラー」(以下NJC)の搭載によって核動力エンジンで動いているという点。そのためバッテリー式で動く従来のモビルスーツを遥かに凌駕する性能と継戦能力の高さを見せつけます。(この技術の存在はすなわち、使用不可能になっていた核兵器の封印が再び解かれることを意味しており……)
主人公:キラ・ヤマト
本作の主人公。身を守るために乗り込んだガンダムが重大な軍事機密であったため、否応なくアークエンジェルのパイロットとして戦争に参加する事になってしまいます。ここまではオマージュ元である初代のアムロと似たような境遇ですが、加えて彼はヘリオポリスの学生の中で唯一のコーディネイターであり、咄嗟にストライクを操縦できたのもそれが理由でした。皮肉にもそれがきっかけで構成員の圧倒的多数をナチュラルが占める地球軍に籍を置き、同胞であるコーディネイターを敵に回さなくてはならなくなります。
本来の彼は極めて心優しい青年なのですが、ただでさえ過酷な戦闘の中、『初代』でも描かれた避難民の横暴や「ガンダムで戦えるのは自分だけ」というプレッシャーに加え、人種的にも完全アウェーな雰囲気に晒され続けるという環境のストレスに苦悩した結果、ついにプッツンきて、当時は土曜の夕方6時に親友の婚約者を相手にベッドシーンを展開。
あまつさえ伝説のNTRシーン「やめてよね、本気で喧嘩したら(ナチュラルの)サイが(コーディネイターの)僕に敵うはずないだろ」で当時、お茶の間の空気を氷点下に突き落としました。(※このシーンの真意については誤解が生まれがちなので本編で確認してみてください)
フレイは……優しかったんだ……ずっと付いててくれて……抱き締めてくれて……僕を守るって……!
僕がどんな思いで戦ってきたか! 誰も気にもしないくせに!
アスラン・ザラ
もう一人の主人公。ザフト軍の中でもトップエリートである「クルーゼ隊」のメンバーであり、ヘリオポリスで強奪されたうちの1機「イージス」のパイロット。実はキラとは幼なじみの関係で、戦場で敵味方に分かれてしまった事に苦悩します。
しかし中盤ではお互いに仲間を殺された怒りからキラと本気で憎しみ合って激突し、結果相討ちに。辛くも生き延びてMIA(戦闘時行方不明≒死亡扱い)となった彼は、ヒロインのカガリ・ユラ・アスハとの遭遇を経て、戦争を止めるために自分が成すべき事を見つめ直していきます。
ヒロイン:ラクス・クライン
本作のヒロインのひとり。プラント代表の娘で、巷では「歌姫」として知られる有名人。親同士の政略でアスランとは婚約関係にありますが、慰問中のトラブルで宇宙を遭難していたところをアークエンジェルに拾われた事をきっかけに、キラとの関係を深めていきます。
登場初期はやや頭がふわふわな電波お嬢様っぽい振る舞いが目立った一方、アスランとの死闘で重傷を負ったキラの看病を経てキャラクターの方向性が固まったらしく、フリーダムを含むザフトの最重要軍事機密を根こそぎ横領してプラントを出奔。以降は人類同士による絶滅戦争を食い止めるべく、地球軍にもザフトにも属さない第三勢力「三隻同盟」を率いて自らも戦場に立ちます。
争いを止めるためとはいえ、上記のような比較的野蛮な手法を用いる事が多いため、視聴者からの反感を買いやすいアグレッシブなお人。
ヒロイン:カガリ・ユラ・アスハ
中立国オーブの代表、ウズミの娘。性格はいわゆる男勝りで、父との不和から家出同然にレジスタンスに身を投じるほど。戦闘のあれこれでたまたま流れ着いた無人島でアスランとボーイミーツガールに陥った事がきっかけで、彼と恋人も同然の関係になります。キラと相討ちになったアスランとの「撃たれたから撃って、撃ったから撃たれて、それで最後は平和になるのかよ!」という問答は、お互いの憎悪によって取り返しのつかない所にまで進みつつある作品全体に訴えかけるものがあります。
ガンダム三大悪女(?) フレイ・アルスター
この作品を語る上では外せないヒロイン。土曜の夕方6時にベッドシーンを展開して昼ドラのような修羅場をもたらすなどといった傍若無人な振る舞いから『Vガンダム』のカテジナさんや『0083』のニナ・パープルトンと並び称されるガンダム三大悪女の三人目筆頭候補。(いちおう内定した二人よりは情状酌量の余地もあるけど)
元はキラたちと同じくヘリオポリスの学生で、キラの友人であるサイと許嫁の関係にあります。地球側の事務次官である父に溺愛された箱入り娘であり、性格は天真爛漫なお嬢様タイプ。平時こそその性格が災いすることはありませんでしたが、アークエンジェル乗船後の特殊な環境下では、彼女自身にも降りかかる悲惨な現実と相まってみるみる事態が悪化していきます。
蝶よ花よと育てられてきた彼女にとって戦時のストレスは耐え難く、また反コーディネイター思想を持っていた父の影響から、必死に戦ったキラに対して「あんた、自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!?」などと宣い、差別心から次第に場の空気を悪くする行いが目立ち始めます。
そして戦火の中、眼の前で父親が亡くなるといっそう態度が先鋭化し、彼女なりの復讐として「コーディネイターであるキラになるべく多くの同胞を殺させた上で戦死させる」事を思いつきます。そのための手段として心身ともに疲弊していたキラに付け入り……、
こうしてキラにとって自分を「守るべき存在」として認識させる事で、彼自身に積極的に戦う理由を見出させます。この過程で発生したのが上述の展開。これ以降はこれ以降で、本音のところで捨て切れないサイへの好意をキラに見抜かれ、かと思えば今度は打算抜きで彼の優しさに無意識の内に惹かれていくなど互いにすれ違いを重ねて関係が拗れていきます。
そんな彼女も次第に移り変わる戦争の波に翻弄された挙げ句、終盤には紆余曲折の末、ようやく自らの行いを省みる機会にも恵まれるのですが……。
「青き清浄なる世界のために」
コズミック・イラで蔓延している狂気が端的に表れたスローガン。これはナチュラル側の勢力「地球連合」を実質的に支配している反コーディネイター過激派「ブルーコスモス」のイデオロギーです。要するに「自然に反する存在であるコーディネイターを根絶やしにしてナチュラルの手に在るべき地球を取り戻そう」というヘイトクライムの正当化。その具体的な手段は、
何も知らない味方を囮にしておびき寄せたザフト軍を基地ごと巨大なマイクロ波兵器(電子レンジみたいなもの)で自爆させたり、
通常兵器とまったく同じ感覚でコーディネイターの居住区画に何十発もの核ミサイルを撃ち込むなど、もはや戦争の枠を超えて完全に相手を撃滅するために人道を一切無視した極限の手段を講じていきます。しかもこの時代、既にお互いに撃っては撃ち返しの憎しみの連鎖を極めただけあって、このような蛮行に対して少なくとも連合側には躊躇いを見せる人間がほとんど居ないというのが人心が荒廃しきったSEEDの世界観です。
もちろん、このような事をされてザフト側も黙っているはずはなく。
「ナチュラルどもの野蛮な核」に対して、彼らは彼らで地球に向けて照射すれば地上の全生命の半数以上を確実に死滅させられるγ線バーストを最終兵器として実戦投入する始末。ひいてはナチュラルもコーディネイターもお互いに相手を絶滅させられる兵器を、その明確な意図を以てぶつけ合うという人類滅亡待ったなしの最終戦争に王手をかける事になります。
☆総じて
続編と併せてかなり賛否が分かれましたが、放送から20年を迎えてようやく評価が落ち着いたような気がします。(劇場版の出来次第ではまた一波乱ありそうですが……)
エログロ両面で過激な描写やいわゆるキャラ萌え文化の先駆けとなった事などもあって発表当時から現在に至るまでネットでは散々に叩かれているSEEDシリーズですが、個人的には初代ガンダムをリファインしつつ、戦争を通じて人種差別や遺伝子操作の倫理的問題、核の脅威や虐殺といった人間の根源的な悪意をつぶさに描いた深い意義のある作品だと思います。その情熱は事細かに架空の年表から設定を作り込んでいるほどのこだわりっぷり。
比較的近年行われたHDリマスター処理によって現在のアニメと比べても見劣りしないデジタル作画となっており、絵が古いと受け付けないという人にも薦めやすく、入門向けとしてはかなり最適に近い選択肢のひとつです。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY
入門オススメ度:★★☆☆☆→★★★★☆
全50話。(+スペシャル・エディションによる補完)
・SEEDの続編。通称は「種死」とか「種デス」とか。前作の存在はもとより、脚本や作画などクォリティ面で物議を醸す点が多く、劇場版の公開を加味しても入門としてのオススメ度は低めに設定。→今すぐ全話見て!!
遡ること『SEED』の後半(38-39話)に発生した、地球連合によるオーブに対する侵攻作戦。一家でオーブに在住していた主人公の少年シン・アスカ(コーディネイター)は避難中、戦闘の余波に巻き込まれて家族を失った事で自らの無力さを呪い、ザフトに入隊する事を決めます。
それから2年後のC.E.73年。地球・プラント間は停戦したものの、お互いへの憎しみが消える事はなく、未だ戦争の火種は燻り続けていました。そんな中、プラントのコロニー「アーモリーワン」において、ザフトの開発した新型ガンダムが謎の部隊に強奪される事件が発生。たまたま居合わせたカガリとその護衛役として付き添っていたアスラン達も巻き込まれる中、ザフトのエースパイロットとなっていたシンは最新鋭機「インパルス」でこれに応戦します。
主役機1:インパルスガンダム
前半の主役機は「インパルス」。前作において危うく人類を滅亡させかけたNJCやミラージュコロイド(ステルス技術)などのヤバすぎる兵器の禁止などを盛り込んだ「ユニウス条約」の施工後、ザフトによって新たに開発された「セカンドステージ」の1機。平たく言えば「ザフト版ストライク」とも言うべきガンダムで、状況に応じて装備を換装するなどのコンセプトも概ね一緒。(代表的なフォースシルエットはあまりにエールストライクなため混同を避けるべく、敢えてサムネをソードインパルスにしております)
特筆すべきは、戦闘機コアスプレンダーを核とした合体機能。状況に応じて素早く各種シルエットに換装できる他、実質的なバッテリー交換が成立するために継戦能力が向上するなど多様な戦術が取りやすく、劇中では徹底した対策のもとこの機能を最大限に駆使し、性能で上回るキラのフリーダムを終始翻弄し、ついには撃墜するという前人未到の快挙を成し遂げました。
主役機2:デスティニーガンダム
おそらく後半の主役機であるはず……のガンダムは、作品タイトルと同じ名を冠した「デスティニー」。
本機のコンセプトは「インパルスの各種シルエット機能を換装の手間なく一機で完成させる」という全部盛りプラン。当然そんな事をするとバッテリー電力程度で足りるはずがないため、NJCによる核動力やミラージュコロイドといった条約違反の技術も全部盛り。デュランダル議長半端ねえっす。
詳しくは後述しますが、そもそも主役が誰だかわからなくなる関係上、本機の主役ガンダムとしての活躍もあまり振るわず。顔が顔だけにいっそ悪役にすら見えるとも言われており、スパロボを始めとするクロスオーバー作品でさえ持て余される時期がありました。最近は開き直って漫画版での活躍を加味されるなどして、機体評価そのものは改善されつつありますが……。
だが、ヤツは弾けた
主役機3:フリーダムガンダム
ややこしくなるのは承知の上で、取り上げざるを得ない機体。前作の主役機であった「フリーダム」もまたキラと共に中盤から参戦します。
実は前作の大戦後、密かに修復されており、政治的な要因からラクスの存在が目障りだったデュランダル議長に刺客を差し向けられた事を機に戦線へと復帰。以降は戦争を止めるため「討ちたくない、討たせないで」と言いながら喧嘩両成敗で陣営に関係なく武力介入を行い、地球軍とザフトの両方から疎まれる存在に。その戦場を無秩序にかき乱す第三勢力としての在り方には、諸事情でザフトに復帰していたアスラン(と視聴者)からも「討ちたくないと言いながら、なんだお前は!?」と困惑の声。
その無節操とも言うべき武力介入はあまりにも後述のソレスタルビーイングを先駆けていたためにザフトから討伐指令を下され、家族と恋人の仇討ちとしてブチギレていたシンのインパルスによってついに討たれ、そのままキラもろとも物語から退場……と思われたのですが、
主役機4:ストライクフリーダムガンダム
な ん で よ 。
案の定、生きていたキラに託されたまさかの新しいガンダム。ある種の禁じ手というか、本作を見ると何故『Zガンダム』でアムロがガンダムに乗らなかったのかがよくわかります。乗るとこうなるからです。
前作でザフトから逃亡の折、軍事機密をまるっと持ち逃げしていたラクスのもとで新たに開発された機体であり、フリーダムとは名称とぱっと見のシルエット以外、中身はまったくの別物と言って差し支えのない超高性能MS。別作品で例えるならエルガイムとエルガイムМk-2くらい違います。
見た目にも最大の特徴は背中の羽根ことスーパードラグーン。いわゆるファンネル系のオールレンジ武装で、展開した状態からの一斉発射「ハイマット・フルバースト」は圧巻のひと言……ですが、制作上の都合からバンクシーンとして使い回しが多用されたため有難みに欠ける事この上ありません。
この機体が登場する頃には、皮肉にもシンがフリーダムの撃墜を境に主人公としての位置エネルギーを使い果たしていたため、表面的には味方陣営であったはずのデュランダル議長が露骨なラスボスムーブを取り始め、物語の軸がキラ、アスラン寄りに傾き始めていました。
主人公:シン・アスカ
本作の主人公(諸説あります)。戦争で家族を喪った無力感を怒りに変えてザフトに入隊、エリートである赤服へと昇り詰めます。何気にガンダムでは珍しい、物語開始時点で既に軍人というタイプ。
キラが21世紀のアムロだとすれば、彼は21世紀のカミーユに当たる存在として意識されている節があり、作中での動向は概ね生意気でキレやすい利かん坊。直属の上官であるアスランが散々に手を焼かされる様はクワトロとカミーユの関係を彷彿とさせます。そしてカミーユがそうであったように彼もまた、敵である地球連合のエクステンデッド(本作における強化人間)の少女、ステラ・ルーシェと心を通わせますが……。
復讐に燃えてフリーダムを討ち果たした後は、またしてもザフトから脱走したアスランの粛清を担当。彼自身は命令された立場とはいえ、前作の主人公ふたりを手にかけた事で視聴者の反感を招き、徐々に主人公としての立場すら危ぶまれるまでに……。
主人公2:キラ・ヤマト
前作『SEED』の主人公にして本作の主人公。大戦後はラクスと共にオーブで静養していましたが、彼女がザフトの刺客に襲われた事を皮切りに戦場に舞い戻ります。
手始めに意に沿わない政略結婚をさせられそうになったカガリ(※国家元首です)をガンダムで拉致した後は、オーブの中立を維持するために地球軍とザフトの両面に武力介入。特に恋人をほったらかしにしてザフトに戻ったアスランを機体ごとボコボコにするなどして、双方から恐れられる独自の第三勢力となります。
ただしそんな事ばかりしていると当然の帰結として、特にザフトから熱心に追われる身となり、また劇中のとある行いがシンの逆鱗に触れたため、中盤でついにフリーダムごと撃破されるも生存。新たな機体「ストライクフリーダム」を駆り、デュランダル議長と対立する立場となります。
主人公3:アスラン・ザラ
前作『SEED』における二人目の主人公にして本作の主人公。大戦後は亡命して「アレックス・ディノ」という偽名でオーブの代表となった恋人カガリの護衛役を務めていました。しかしアーモリー・ワンでの事件を機にシャアデュランダル議長から熱烈なアプローチを受けてザフトに復帰。ミネルバのエースパイロットとしてシンたちの上官となります。
しかし職場復帰するや否や言う事を聞かない部下(シン)はもとより自身への憧れから性的なアプローチを仕掛けてくる部下(ルナマリア、メイリン)やラクスの影武者であるミーアの存在など胃痛の種ばかり増えていきます。挙げ句これら全てが今カノであるカガリを置き去りにしたムーブであった事をキラに咎められ、機体をバラバラにされてしまいます。
予てよりストレスに耐えかねていた彼はキラの撃墜を機にデュランダル議長への疑念を深め、自身を慕うメイリンと共にザフトを脱走(二年ぶり二度目)。その弾みでシンに撃墜されてしまうものの、やはり生き延びて、結局元の鞘に収まるかのごとくオーブに再度合流します。
このように前作の造反劇をまるで反省せずコロコロと所属を変える不安定な態度やその癖、毎度のように他人に指導する立場に置かれるせいで毎度のように説得力が微妙な激励をシンに向けるなどして終始キャラクターとしての迷走が伺えます。露骨に当時の制作事情が反映されているような気がする。
ギルバート・デュランダル議長
またの名をシャア・アズナブル。コーディネイターの実質的な指導者であるプラント最高評議会議長。アスランの父上こと前作のパトリック・ザラ議長に比べれば極めて理知的な人物であり、ナチュラルとの融和を図りながら裏切りの過去を水に流してアスランに復帰を求めるなどする器の大きさから周囲の信用も集めていました。……中盤くらいまではね!
実際のところは、ラクスの身代わりを立ててプロパガンダに利用したり、政敵を人類共通の敵として喧伝し、民衆の支持を得るなど人心掌握に長けた野心家。序盤から策動の気配は見せていたものの、キラの復帰以降、徐々に悪役としての側面が強くなっていきます。終盤までシンを言葉巧みに飼い慣らしていた事が、実質的な主人公の交代劇に拍車をかけていた要因とも。
☆総じて
一般的な評価は賛否が分かれた前作以上に辛辣。特に当時の叩かれ様といえば毎週が「祭り」、今で言うところの炎上と言っても過言ではありませんでした。実際に本編を四周した筆者でさえ、少なくとも当時のTVシリーズ本編に関してはガンダム以前にいちアニメ作品として到底見られた出来ではなかったと思います。
ただし尺不足でろくに描けていなかった結末は後に「スペシャル・エディション」で補完され、2014年には「HDリマスター」と称して限界まで新規作画に差し替えた実質的なリメイクが行われたため、バンクの使い回しが目立った当時よりは幾分マシなクォリティに。それでも新規に録り直したわけではないので肝心のあらすじは相変わらず混迷の大地ですが。しかし一方、初回放送当時からガンプラの売上や新規層の開拓などで商業的には大成功していたという度し難さがあり、今なお個人的には複雑な評価。少なくとも僕のフォロワーである某編集はスペシャル・エディションを喜んで見ていたし、曲がりなりにも続編が控えているので幾分か上方修正すべきか……? と記事を書きながらもずっと考えています。いずれにせよ、基本的には前作にあたる『機動戦士ガンダムSEED』を先に見ておくことをおすすめします。
追記:
上記の評価は『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』公開以前のものであることをご留意ください。
機動戦士ガンダム00
入門オススメ度:★★★★★
25話+25話に加えて続編となる劇場版。
・独自の路線を行きながら間違いなく「これはガンダムである」と断言できる力強いシリーズ。更なる続編の制作が見込まれている事からも期待が高まります。(本記事で紹介する内容は1st seasonのもの)
西暦2307年。従来のシリーズのような全面戦争こそないものの、世界は枯渇した石油燃料に代わって太陽光発電システムと宇宙に続く軌道エレベーターを巡り、超大国が主導する3つの経済圏によるゼロサムゲームによって支配され、国家間の格差や地域紛争が絶えない時代となっていました。
そんな中、中国やロシアを中心とした経済圏「人類革新連盟」(人革連)の軌道エレベーターの式典に対抗する形で同日、新ヨーロッパ共同体「AEU」が新型モビルスーツ「イナクト」の発表を行います。そこへ突如、所属不明のMSが飛来。圧倒的な性能でイナクトを蹴散らし、あまつさえ条約に反するAEUの過剰戦力を炙り出してこれを殲滅します。他方、人革連の式典を襲撃しようと画策したテロリストもまた、所属不明機によって事前に鎮圧されます。
後日、マスコミを通じて報じられたのは、イオリア・シュヘンベルグを名乗る人物の声明。曰く、彼らの名は「ソレスタルビーイング」。どの経済圏にも属さず、機動兵器「ガンダム」によって世界から紛争を根絶させるために武力を行使する私設武装組織を名乗り、全世界に宣戦布告するのでした。
私設武装組織「ソレスタルビーイング」
本作の主人公側勢力の名称。21世紀末の天才科学者イオリア・シュヘンベルグが提唱した組織。どの国家にも属さず、事実上の永久機関である「太陽炉」や量子コンピュータ「ヴェーダ」など数世紀を先駆けた発明を秘密裏に行い、武力による戦争根絶を目的として活動を本格化させます。
主役機:ガンダムエクシア
ソレスタルビーイングが保有するガンダムの1機。主人公である刹那・F・セイエイがガンダムマイスターを務めます。シールドと一体化した大型の実体剣「GNソード」を筆頭に7本もの剣を持つ事から「セブンソード」とも。
本作のガンダムに共通する要素として「太陽炉」と呼ばれるオリジナルのGNドライヴ(背中のコーンみたいなやつ)を動力源としており、事実上の永久機関で稼働しています。
緑色に輝く「GN粒子」によって、太陽光発電で稼働する従来のモビルスーツを圧倒的に凌駕する性能と電波かく乱を同時に実現した優れもの。さらにこの粒子は後に視聴者の予想の遥か斜め上を行く本質が明かされます。
主人公:刹那・F・セイエイ
本作の主人公。かつて中東に存在したとされるクルジス共和国出身の少年兵で、戦場で武力介入を行ったガンダムの姿に魅せられた事をきっかけに、ガンダムマイスターとなります。マイスターたちの中でもひと際、戦争根絶とガンダムに対する想いが強く、「俺がガンダムだ」という屈指の迷台詞で相方のロックオン・ストラトスと視聴者を大いに困惑させました。
ガンダムマイスター
主人公の刹那を含めた、ソレスタルビーイングにおけるガンダムパイロットの名称。全員が適性を見出され、訓練を受けた熟練者である事からマイスターを冠しており実力は折り紙付きです。原則メンバーの個人情報は組織における最高機密なので、本名を秘匿してコードネームを名乗っています。(そのため発表当時は独特なキャラクター名にネットがざわつきました)
ロックオン・ストラトス/ガンダムデュナメス
狙撃を得意とするガンダムデュナメスのマイスター。チームの年長者で、特に暴走しがちな刹那の保護者役です。自爆テロで家族を亡くした事が組織に参加するきっかけで、テロを憎む気持ちはマイスターの中でもかなり強い。その名の通り「狙い撃つぜ」が口癖。
第23話における故・藤原啓治氏演じるアリー・アル・サーシェスとの壮絶な掛け合いはアニメ史上に残る名演技につき必見です。またその結果、前作のとあるキャラクターが後付けでやらかした行いのためにスペシャル・エディションの追加描写で……。
アレルヤ・ハプティズム/ガンダムキュリオス
変形機構を持つガンダムキュリオスのマイスター。かつては人革連の超兵機関によって脳量子波の調整を受けていた、いわゆる強化人間枠。アレルヤ本人はいたって温厚ながら、一方では残虐な性質を秘めた「ハレルヤ」という別人格を抱えている二重人格者。そんななのに一番影が薄い。
ティエリア・アーデ/ガンダムヴァーチェ
堅牢な装甲と砲撃を誇るガンダムヴァーチェのマイスター。性別不詳。メンバーの中では真面目な優等生であり、なにかと計画から逸脱しがちな刹那とはそりが合わずに衝突することも。組織の頭脳である量子コンピュータ「ヴェーダ」への高いアクセス権を持つ一方、アイデンティティがそれに依存しているため人間的に脆い部分があります。
「ガンダム」の定義
本作におけるガンダムの定義は大別して二種に分けられます。まず設定上は「太陽炉(GNドライヴ)を搭載したモビルスーツ」の総称がこれ。基本的にはソレスタルビーイングのMSを指しますが、物語後半から登場するGN-X(ジンクス)も厳密にはガンダムタイプの扱いになります。
もう一方は主人公の刹那視点から「争いを根絶する存在の象徴」を意味します。つまり「俺がガンダムだ」というあの意味不明の台詞も実際は「自分は紛争の根絶を体現する者だ」のニュアンスであり、本人はいたって大真面目に発言しています。
この事は00シリーズにおいては一貫して重要な意味合いを持ち、後年の刹那の愛機からは「ガンダム」の名が意図的に外されています。
ここでいくつか例文を見てみましょう。特別に意訳を添えておきます。
☆総じて
今までのシリーズではありそうでなかった「西暦」という現代と地続きの近未来を扱った意欲作。(制作時点から300年後の設定)
従来のシリーズでお馴染みだった「地球と宇宙の対立構造」は廃されている一方、各国家勢力のパワーバランスも概ね現代の国際社会の延長上にあるものとして踏襲されており、世界観への入り込みやすさは随一です。
そしてなんといっても、主人公の刹那を筆頭にキャラクターがとにかく強烈で、一度聞けば忘れられないキラーフレーズがセリフに多いのが魅力的。『2nd season』以降に至っては「ガンダム」という枠組みの常識では考えられないような超展開さえ見られますが、それすらも作品の個性として昇華されるため、入門おすすめ度としては最高評価です。
本作品はアニメ第2期となる『2nd season』に加えて、公開当時『機動戦士ガンダムF91』以来19年ぶりのシリーズ完全新作となった映画作品『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』をもって完結します。(続編の構想も仄めかされていますが)
正直これらも紹介したいのは山々なのですが、いちおう主人公の交代があったSEED系列とは異なり一貫して同じ作品タイトルである事から、入門編という本稿の趣旨に照らすとやや範囲が逸脱するため、断腸の思いで割愛。悔しいので機会があれば別途、ご紹介したいです。(追記するかも)
続きます
今回もありがとうございます。
足掛け一年以上の長きに渡る「ガンダム入門講座」でしたが、作品別の解説は次で最終回となります。範囲は『機動戦士ガンダムAGE』から最新作の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』までを予定しています。
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