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コラム:ガンダム入門講座(アナザー編その1)

 ガンダム入門講座、今回からは宇宙世紀以外の世界観である「アナザーガンダム」についてご紹介していきます。
 初代『機動戦士ガンダム』から続く宇宙世紀シリーズについては前回までの記事に纏めているので参考にしてみてください。

 『機動戦士ガンダム(初代)』~『閃光のハサウェイ』までの時系列順。

 こちらは『機動戦士ガンダムF91』~宇宙世紀のOVA三作品をまとめた内容です。

アナザーガンダムとは

 『機動戦士ガンダム』(以下『初代』)から連綿と続くサーガである「宇宙世紀」とは前提がまったく異なる独自の世界観で描かれる作品を便宜上、「アナザーガンダム」と呼びます。
 たとえば『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は宇宙世紀ではなく「A.S.(アド・ステラ)」と呼ばれる時代を舞台としているため、このアナザーに区分されます。よって『初代ガンダム』とは設定上、全く関係がありません。

 宇宙世紀に次いでガンダムシリーズ全体を二分するカテゴリーの一つですが、基本的にはアナザー作品同士にも縦軸の繋がりはなく、個別の作品群となっています。要するに非宇宙世紀が舞台のガンダムを大枠で纏めた概念がアナザーたる所以です。そのため定まった順番はなく、どの作品からでも気軽に見られるという利点があります。
 一応いずれの作品も「モビルスーツ」や「ガンダム」といった最低限の用語は共通していますが、その成り立ちや定義も各作品ごとでまったく異なるため、以前の記事で紹介した前提については完全に別の物として認識するか、最悪忘れてもらっても問題ありません。

千差万別

機動武闘伝Gガンダム

 入門オススメ度:★★★★★

 ・記念すべきアナザー第一作。富野御大の「ガンダムをぶっ壊せ!」という期待に最大限応えた作品。個人的には入門イチ押しです。

  時は未来世紀。人類の多くが荒廃した地球を見捨てて宇宙のコロニー国家に移住するようになった時代です。
 この時代では旧来のような全面戦争を避けるべく、その代替として地球をリングに見立てた「ガンダムファイト」という大会が催されるようになりました。各国が技術の粋を尽くして造ったガンダムとそれに乗り込むガンダムファイター同士がルールに則った決闘を行い、優勝した国家が問答無用で国際社会の主導権を握るというものです。「あんたが決めたルールで戦ってやるって言ってるのよ!」

ガンダム・ザ・ガンダム

 未来世紀60年、第13回目を迎えるガンダムファイトに臨むべく、ネオジャパンコロニー代表のガンダムファイター、ドモン・カッシュはパートナーのレイン・ミカムラと共に戦いのリングである地球に降り立ちます。しかし彼の目的はファイトの優勝ではなく、祖国を裏切り、史上最悪のデビルガンダムを奪って失踪した兄のキョウジ・カッシュを探し出すことにありました。

ガンダムファイト

 第一条 - 「頭部を破壊された者は失格となる」
 第二条 - 「相手のコクピットを攻撃してはならない」
 第三条 - 「破壊されたのが頭部以外であれば、何度でも修復し決勝リーグを目指すことができる」
 第四条 - 「ガンダムファイターは己のガンダムを守りぬかなくてはならない」
 第五条 - 「一対一の闘いが原則である」
 第六条 - 「国家の代表であるガンダムファイターはその威信と名誉を汚してはならない」
 第七条 - 「地球がリングだ!」

ガンダムファイト国際条約 7か条

 ここまでの内容から「これ本当にガンダム?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、れっきとしたナンバリングタイトルです。
 前作の『機動戦士Vガンダム』がコアターゲットとして想定された若年層に受けなかった事(当たり前だ)から新基軸のガンダムを打ち立てるべく、新たな監督を置くことに。そこで白羽の矢が立ったのは、当時アニメ『ミスター味っ子』でメガホンを取り、頭のおかしい斬新な演出を連発しては「現場に訳の分からない若手がいる」とサンライズ社内を震撼させた今川泰宏氏でした。

これ(十傑集走り)を生み出した監督

 早い話が路線変更というわけですが、今川氏にバトンを渡す際の富野御大の要求はただひとつ「ガンダムでプロレス物をやるように」というもの。サンライズ側も「どうせやるならパワフルに」とゴーサインを出してしまった事から、ステレオタイプのガンダム像を破壊する衝撃の『機動武闘伝Gガンダム』が生み出されたのでした。
 ちなみに今川監督は本作での経験を糧に後年、『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』、『真マジンガー 衝撃! Z編』といった世にも凄まじいロボットアニメの数々を輩出していきます。

 当然こんなものを「リアルロボットアニメの金字塔」として知られる『ガンダム』として世に送り出す事には旧来のファンから非難轟々。しかしいざ蓋を開けてみると、既成のシリーズに囚われない自由な作風でありながら、これまでのガンダムが一貫して投げかけてきた、戦争の愚かしさや環境破壊といった社会的な問題提起にも真っ向から取り組んだ事で着実に評価を得る事に成功。
 結果としてこの『Gガンダム』という作品は売り上げこそ前作のツケが祟って伸び悩んだものの、狙いであった若年層の支持を取り付けてかつ、以降のシリーズにおける多様性を切り開くきっかけとなりました。

最終的にはこの意味不明な絵面で号泣する事になる

モビルファイター(MF)

 まず、本作において「ガンダム」はガンダムファイト用に調整・開発された機体全般を指すため、従来のモビルスーツ(MS)とは異なり厳密には「モビルファイター(MF)」に区分されます。
 そのためごく一部を除いて本作に出てくる機体の大部分がガンダムという(今でこそさほど珍しくはないものの)前代未聞の事態に。

ぴちぴちのファイティングスーツに身を包んで戦う

 その定義は、操縦者の体の動きをそのまま機体の動作に反映させる「モビルトレースシステム」を搭載していること。すなわち上記の画像はいかがわしい何かでは断じてなく、現代で言うところのモーションキャプチャーの役割を果たしています。(男女の隔てなくこういう絵面になります)

 極めてシンプルな設計思想ですが、仮に他のシリーズで同じような挙動を目指した場合、例えば『水星の魔女』におけるGUNDフォーマットや『鉄血のオルフェンズ』の阿頼耶識システムなどパイロットの身体に激甚な負荷を強いる非人道兵器と化すため、後にも先にもこの作品でしか実現していません。まさしく未来世紀の技術です。

主役機:シャイニングガンダム→ゴッドガンダム

 前半の主役機、シャイニングガンダムは第13回ガンダムファイトにおけるネオジャパンコロニーの代表であり、レインの父ミカムラ博士によって開発されたMFです。作品の性質上、当然ですが従来の宇宙世紀ガンダムとは異なり、ビームライフルなどの射撃武器を携行していないなど清々しいほど格闘戦に特化した機体。基本的にはモビルトレースシステムを活かして搭乗者であるドモン自身の優れたフィジカルを武器に戦います。
 そんな本機には必殺技が存在します。人呼んで「シャイニングフィンガー」。その名の通りマニピュレーター(手の平)に液体金属を纏って発したエネルギーで敵を掴んで粉砕するというもの。主にはファイトのルールに則って相手ガンダムの頭部を掴みかかって破壊する形で用いられます。

「俺のこの手が光って唸る」
「お前を倒せと輝き叫ぶ!」
「必殺! シャイニングフィンガー!!」

 また、ドモンの怒りが頂点に達した時には機体が変形し、どこぞの戦闘民族よろしく「スーパーモード」となって戦闘力をアップさせます。この時にはシャイニングフィンガーを手持ちのビームソードに纏わせた「シャイニングフィンガーソード」が使用可能になります。

 シャイニングガンダムから闘志を引継ぎ、後半に乗り換えるのはゴッドガンダム。この時期にはドモンが「明鏡止水の境地」というガンダムファイターの極致に達した事で、これまたどこぞの戦闘民族よろしく搭乗者ごと全身が黄金色に輝きます。

お前も光るのか……(困惑)

「キング・オブ・ハート」 ドモン・カッシュ

 この作品の主人公。「流派東方不敗」に学び、格闘技を極めた者の証である「キング・オブ・ハート」の称号を持つネオジャパン代表のガンダムファイターです。ミリしらの人には本編の作風や見た目、関智一ボイスなどから熱血漢だと決めつけられがち。実際、根っこには熱いものを持つ正義漢ではあるのですが、素は意外と真面目でぶっきらぼうなクールガイ。とりわけ序盤は精神的にゆとりがないため、かなりの不愛想。
 彼もまた歴代のガンダム・パイロットと同様に痛ましい経歴を持ち、それは恨み募った兄キョウジにぶつけた「いいか!貴様のおかげで母は死に、父は冷凍刑!俺は貴様を追ってきてこのザマだ!貴様に笑われる筋合いは無い!」というセリフの中で端的に表されています。(ついでにこの時期、敬愛する師匠も行方不明という有様)

 特筆すべきはやはりその戦闘力。シャアを軽々と投げ飛ばした『逆襲のシャア』のアムロや、暴力はいけないと言いつつ空手でスポンサーをぶちのめそうとした『Zガンダム』のカミーユなど、歴代のガンダムパイロットは意外とフィジカルもイケてる輩が多かったのですが、ドモンはそれ以上に次元が異なります。
 ガンダムの挙動がパイロットの動きそのものである以上、武術に優れているのは言うまでもありませんが、彼の場合たとえガンダムがなくとも生身でモビルスーツを倒すことが出来るからです。

「東方不敗」マスターアジア

新一派 東方不敗 王者之風 全新招式 石破天驚 看招 血染東方一片紅

流派!東方不敗は!!
王者の風よ!
全新!系列!
天破侠乱!!
見よ、東方は、赤く燃えている!!

流派東方不敗

 長い歴史を持つガンダムシリーズにあって、「師匠」と称されるのは唯一この人。東方不敗マスター・アジア。前回大会の覇者であると共にドモンの武術の師です。ある種、物語の核心であるためあまり深くは触れられませんが、その圧倒的なまでの存在感は、彼の退場回に際して残り話数がまだあるにも関わらず、感極まった監督が絵コンテに筆文字で「機動武闘伝Gガンダム完」と入れてしまった逸話があるほど。
 今川作品らしく荒唐無稽で強烈なキャラクターであり、スパロボに客演した際にはあの『ゲッターロボ』でお馴染みのインチキオカルトパワーであるゲッター線が彼個人に対して詫びを入れたレベル。ドモンの師であるため当然に戦闘力は極めて高く、初登場とともにいきなり生身でモビルスーツをなぎ倒してこの作品の方向性を決定づけ、「この人たちガンダム要らないんじゃ……」と視聴者を困惑の渦に叩き落としました。

デビルガンダム

 まさしく悪魔の如き威容を誇る本作のラスボス、デビルガンダム。元はネオジャパンコロニーのミカムラ博士が荒廃した地球環境を正すべく、送り込んだ「アルティメットガンダム」が事故によって暴走した成れの果てです。「自己進化・自己再生・自己増殖」の三大理論を組み込んで造られたため、地球に落着した後は、常に再生、進化しながらひたすら増殖を繰り返して地球を覆い尽くさんばかりの化け物になってしまいました。
 このデビルガンダムを巡る争いが宇宙の代理戦争であるガンダムファイトの功罪と、それがもたらした地球の環境破壊という負の側面を暴き立てるドラマの骨子となっていきます。

☆総じて

 筆者が初見で号泣したガンダムシリーズ中興の祖。『初代ガンダム』に携わったアニメーターらをして「Gガンダムが無ければ後のガンダムも無かっただろう」と言わしめるほどガンダムそのものの意義に対して切り込んだ作品。個人的な思い入れを抜きにしても、あらかじめこれを見る事によって固定観念を払拭し、より柔軟な思考でガンダムと向き合えるのではないかと本気で考えているため、入門にもっともオススメしたい作品ではあります。奇しくも最新作で再びガンダム同士の決闘が描かれているのもそうした啓示のひとつと言えるかもしれません。ガンダムファイト、レディー、ゴー!!

新機動戦記ガンダムW

 入門オススメ度:★★★★☆

 ・言葉にできない名作にして迷作。見ているうちに頭に浮かぶ疑問符の数はおそらくシリーズNo.1。アニメ史上に残る伝説の第一話。

 ブッピガン!(気さくな挨拶)

 本作の舞台は人類が宇宙移民を開始したアフターコロニー(以下A.C.)という時代。紛争と宇宙への人口流出によって疲弊した地球は「地球圏統一連合」を組織、巨大な軍事力を背景にコロニーと対立するようになります。
 A.C.195年、連合の支配に反目するコロニーの抵抗勢力は「オペレーション・メテオ」と称して5機のモビルスーツ「ガンダム」を地球に降下させ、各地で破壊活動を行わせる作戦を決行。しかしその作戦は既に連合の特殊部隊スペシャルズ(秘密結社「OZ(オズ)」)に察知されており……。

 初見向けにあらすじを説明できるのは概ねこの辺まで。一見、複雑そうだけどやはり複雑な物語の背景は「ファーストからGガンダムまで全部やる」と意気込んだ監督が、エキセントリックにあらぬ方向へ舵を取り始めたために生じたもの。結果としてウケは良かったものの気合いを入れ過ぎたのか、ついに制作進行に支障をきたしたらしく監督は中盤で降板。
 後続の『ガンダムX』も含め当時のスタッフをして「最悪の現場」と言わしめた後半からは、本来は必要だったであろうエピソードの数々をカットしながら、奇想天外なダシの利いたアクの強い本作が独自の美学と歴代のオマージュで煮詰まっていく名状し難い展開になっていきます。

主役機:ウイングガンダム→ウイングガンダムゼロ

 主人公ヒイロ・ユイの搭乗機。オペレーション・メテオの為にガンダムを造った「5博士」のうちドクターJによって開発された機体で、「バード形態」への変形と強力無比なバスターライフルが特徴……なのですが。

※オープニングです

 おそらく歴代でもっとも不遇な扱いの主役ガンダム。達成したその偉業とはオープニングでいきなり被弾し顔面と左腕を破損。挙げ句に本編では初回でいきなり撃墜されること。これは作品当初から決まっていたらしく、コンセプトはそのままずばり「撃ち落されるガンダム」だったとか。
 というのも、概要の通りオペレーション・メテオは最初からバレバレだったため、見事なまでの待ち伏せに遭い、なんとか大気圏に突入するもののガンダムは海に落下。乗っていたヒイロは投げ出されて気絶するという展開に。(その後は彼は救急車を強奪して逃走)
 続く第2話では証拠隠滅のため、ヒイロ自ら魚雷をぶち込んで二話連続で海中に沈められるまさかのワンツーフィニッシュ。その後はろくな活躍も無いまま、ついに第10話でヒイロごと自爆して木っ端微塵に全損しました。

ヒイロ「自爆するしかねぇ」
ウイングガンダム「は?」

 一応この機体は修復されるのですが、ヒイロはその間にもガンダムヘビーアームズやメリクリウス、ガンダムエピオンといった別の機体に節操なく乗り換え、ようやく帰ってきたかと思えば、モビルドールの大群に包囲され乗り捨て。トドメには盾にされて大破しクランクアップを迎えました。

 後半の主役機はウイングガンダムゼロ。実は本作における全てのガンダムの原点であり、ウイングガンダムもこのウイングゼロを基にして造られました。そのため前半の主役機よりも先に完成していたという珍しい機体。

名物のローリングバスターライフル(ヒイロはやってない)

 ではなぜ初めからこちらを使わなかったのかと言えば、危険すぎるため。先のウイングガンダムの時点で既に乗っているヤツが危険だったのですが、この機体に積まれた「ゼロシステム」は極めて高い精度の戦術予想を実現する代わりにパイロットを発狂させる激ヤバコンピューターだったため、機体そのものの破壊力とあいまって敢えなく封印という事態に。
 事実、この機体(と同じシステムを積んだガンダムエピオン)にはヒイロ以外のガンダム・パイロットも数度乗り込むのですがその都度に発狂、敵も味方も見境なく全滅させて甚大な被害をもたらしました。

ヒイロ・ユイ

 序盤のエキセントリックさにおいては、あの『Zガンダム』のカミーユを二段飛ばしで越えてしまった本作の主人公、ヒイロ・ユイ。
 初回からヒロイン・リリーナからのお誘いを目の前で破り捨て、彼女の涙を拭ったかと思えば振り向きざまに「お前を殺す」と言い放ち、視聴者とリリーナを大いに困惑させた名シーンは、現在でもネットミームとして通用するほど。なんなのこの人……。
 彼はオペレーション・メテオに従事する少年パイロットなのですが、作戦自体が既にバレていた事もあって、機密保持の為に第10話までに自殺や自爆を図った回数は4回。(うち1回は成功)

失敗例(第2話)

 自他の命に関心がなく、ただ「感情のままに生きる」事を良しとした寡黙な少年。そんなヒイロの荒んだ在り様は専用のテーマである「思春期を殺した少年の翼」が物語っています。

5人のガンダム・パイロット

 前作の『Gガンダム』では主人公ドモンを含む5人のメインキャラクターが「シャッフル同盟」のもとでガンダムに乗っていた事から主役以外に複数機のガンダムが定着していきます。本作においてもオペレーション・メテオで投入されたガンダムはウイングガンダムを含めて全部で5機。パイロットも機体もそれぞれアクが強いのが揃っているので簡単に解説していきます。

デュオ・マックスウェル/ガンダムデスサイズ(デスサイズヘル)

C.V.関俊彦

 オペレーション・メテオに参加した一人。「死神」を自称し、それに見合った風貌のガンダムデスサイズのパイロットです。ただ、そう名乗る割にはかなりの陽キャで、5人の中では唯一の常識人にして良心的存在。

 本作のガンダムタイプは従来のミノフスキー粒子の代わりに、装甲材「ガンダニュウム合金」の特性からもともと索敵に引っかかりにくい性質を持ちます。
 ガンダムデスサイズはその上さらに「ハイパージャマー」と呼ばれるステルス技術の粋を尽くし、レーダーの類には一切認識されなくなる特性を付与されています。肉眼で本機を捉える頃には既にあらかたの破壊活動が終わっているという事から、曰く「俺の姿を見た奴はみんな死んじまう」というまさに死神じみたガンダム。
 デュオにとってこのデスサイズは「相棒」なので大事に扱うし自爆なんて以ての外ですが、最終的には断腸の思いで自爆しようとしました。装置が壊れていたので作動しませんでしたが。

 トロワ・バートン/ガンダムヘビーアームズ(ヘビーアームズ改)

 スネ夫トロワ・バートン。特徴的な前髪とそれに負けず劣らずの奇行が目立つ変人ながら、5人の中ではもっとも献身的で他者を労われるタイプ。

 トロワの愛機は「歩く火薬庫」ことガンダムヘビーアームズ。全身のいたるところに銃火器を仕込んでおり、一斉発射による飽和攻撃が彼の十八番。またヒイロと違って成功例は無いものの、毎度の如く弾切れを起こしては自爆を示唆する危ないヤツ。
 とはいえ実際は撃ち尽くしたら撃ち尽くしたで相当身軽になるらしく、中の人も潜伏先としてサーカスに入団していた事から、モビルトレースシステムもなしに月面宙返りを披露。毎度、口癖か鳴き声のように「自爆しかねえ」と言いながらナイフ一本で大立ち回りします。なんなんだ。

 カトル・ラバーバ・ウィナー/ガンダムサンドロック(サンドロック改)

 人畜無害な見た目なのにキレると一番アブなかったやつ。ガンダムサンドロックのパイロット、カトル。身元もあやふやな他のパイロットとは違って御曹司の身分。
 その感性は従来の作品で言うところのニュータイプに近いらしく、稀に彼以外に理解不能な宇宙語を発する事があり、奇妙奇天烈な本作をより難解にしている存在。(発言の根拠が本編でカットされた裏設定のため)

 彼の愛機は地上、それもどちらかと言えば砂漠などの不整地戦に特化したガンダムサンドロック。両腕のヒートショーテルが特徴的な一方、それ以外の武装はたいへん地味なため、ゲームでも滅多に実装されない不遇の機体。例によってこの機体も自爆しますが、直前にカトルの宇宙語に反応したのか、彼を降ろして自律行動するなど律儀なところも。

 張五飛(チャン・ウーフェイ)/シェンロンガンダム(アルトロンガンダム)

ごひ

 シェンロンガンダムのパイロット。ただでさえアクの強い5人の中でもっとも我が強く直情的で、協調性がなさすぎる人。(他の連中もないけど)
 行く先々で「貴様の行いは正義か?」と問い質し、悪と断じたものは尽く粉砕する正義厨正義漢。その上「弱い者と女は殺さない」という儒教思想の権化みたいな主義を貫きます。
 そんな彼の強固な思想は悲劇的な過去に由来するのですが、制作の都合上それらのエピソードは本編で描かれる事なくお蔵入りしたため、結果として劇中では急に出てきて正義を押し付けては勝手にトーンダウンして帰っていく狂人になってしまいました。もっともこの作品に出てくるような人たちは全員がそんな感じなので、あんまり浮いてもないのですが。

 五飛のガンダム。腕が伸びたり、あまつさえ伸びた腕から火炎を吐いたりするため『Gガンダム』と間違えて出てきたんじゃないかと疑われます。確かに全部やるとは言っていたが……。なお、シェンロンガンダムという名前がありながら、五飛は一貫して(亡き妻がかつて自称していた)「ナタク」と呼び続けたために誰もその名で呼ぶ人間がいないというのが実情。

 後継のアルトロンガンダム然り、ゲームに触れつつ本編を見ていない人からは「ガンダムナタク」だと思われている率100%。自爆はしません。自爆スイッチを押せ!

ゼクス・マーキス(ミリアルド・ピースクラフト)

テラ子安

 本作のライバル。ガンダム初学者がシャアと見間違える率が特に高い本作の仮面キャラ。序盤の立ち位置は地球圏統一連合の特殊部隊「スペシャルズ」(=秘密結社OZ)のパイロット、ゼクス・マーキスとして。今のところ初回でガンダムを撃墜するという前人未到の快挙を成し遂げた唯一の人物です
 OZではライトニング・カウント(後に爵位が上がって「ライトニング・バロン」)の異名で知られるエースであり、常人が乗ると加速の負荷で死ぬ狂気のMS「トールギス」の限界性能を四六時中発揮しながらガンダムと互角に渡り合います。

 そんな彼の正体はミリアルド・ピースクラフト。かつて「完全平和主義」を唱えたことで連合に滅ぼされたサンクキングダムの王子であり、ヒロインであるリリーナの兄です。彼もまた復讐の為にOZに潜入していました。ぶっちゃけ出自からしてそっくりシャアのオマージュであるため、間違えるのは無理からぬこと。実際、終盤では紆余曲折の末、シャアと同様に地球に巨大要塞リーブラを落下させようと試みます。

トレーズ閣下

 本作のメインキャラクターにしてガンダムシリーズの中でもっともエレガントな人物こそトレーズ・クシュリナーダ閣下。地球圏統一連合……の裏で暗躍するロームフェラ財団……の私兵組織であるスペシャルズ……もとい秘密結社OZの若き総帥。
 既に肩書きからややこしい雰囲気が漂いますが、極めて複雑な背景とそれに劣らず奇矯な登場人物を多数抱えるカオスな本作において、作品のテーマを最も明瞭に示したキャラクターです。
 いわゆる騎士道に重きを置く彼は戦争に対しても独自の美学を持ち、それは「戦争は人間同士の手で行うからこそ意味がある」というもの。彼は完全な無人機である「モビルドール」の導入を巡る議論から、人の手に依らない闘争では戦争責任が希薄化し、誰もその悲惨さに目を向けようとしなくなることを憂いていました。その結果……、

ガンダムエピオン

 巷のアイドル現場では絶叫と共にその名を馳せている機体。「人類は闘ってこそ意義がある」というトレーズ閣下の騎士道精神をこの上なく反映して造られたマシーンであり、大型のビームソードとヒートロッドの他は一切の武器を持たないというMFじみた潔いガンダム。先述のウイングゼロと同じシステム(エピオンシステム)を搭載しています。

 このエピオンは徹頭徹尾がトレーズ閣下の嫌悪する効率的な無人兵器に対するアンチテーゼとして組まれたものであり、兵器的な運用を一切考慮に入れていない決闘用モビルスーツ。射撃武器などを装備していないのもそれが主な理由です。曰く「この機体で勝者となってはならない」「敗者のためのガンダム」として一旦はヒイロに引き渡されました。
 しかし乗り込んだヒイロはシステムに呑まれた事で敵味方の区別なく殲滅するという形で「勝者」となってしまいます。心ない兵器の使用でもたらされる無秩序な「勝利」が如何なる意味を持つのかを皮肉げに突きつける……本作の複雑なテーマの一端が垣間見えるガンダムであると言えるでしょう。

☆総じて

 メインキャラクターのほとんど全員が固有の美学、独自の世界観を持ったまま話を進めるため、ぶっ飛んだ描写や理解が困難なセリフが相次ぎます。しかもそんな彼らの内面は本編での描写がカットされて小説などメディアミックスで補完する形となったため、難易度はやや高め。ただしある程度、理解を妥協して細かい事に目をつぶれば脳内麻薬とライブ感で楽しくなってきます。漠然と見ても90年代のイデアを感じられるのが、本作初見の醍醐味ではあると思うので。余談ですが北米辺りで『ガンダム』と言えば初代ではなく、本作が代名詞になるそうです。

新機動戦記ガンダムW Endless Waltz

 入門オススメ度:★★☆☆☆

 ・『ガンダムW』の続編OVA。立ち位置的にもあまり入門向けとは言えませんが、初心者の頃にGジェネでお世話になったので私的な恩返し。

 前作から一年後のA.C.196年。人類は全ての武力を放棄し、完全平和の道を模索し始めていました。ヒイロたちもまた自分たちのガンダムは平和にとって不要だと考え、太陽に向けて投棄する計画を実行しました。
 しかしコロニー反連合やホワイトファングを支援していたバートン財団の総帥デキム・バートンは地球圏掌握を諦めておらず、トレーズの遺児であるマリーメイアを担ぎ上げて「マリーメイア軍」を結成。彼らは平和の象徴となったリリーナを拉致し、地球圏へ宣戦布告。真のオペレーション・メテオとして地球へのコロニー落としを試みます。

主役機:ウイングガンダムゼロ(EW版)

 主役ガンダムは引き続きウイングガンダムゼロ。太陽に向けて投棄されたのですが、間一髪で回収に成功しました。
 なんだか見た目が前と全然違いますが設定上は完全に前作と同一機体という事になっています。TV版を「ウイングゼロ」としてこちらの通称は「ウイングゼロカスタム」。ゲームなどでは目下「羽ゼロ」と呼ばれて区別されています。カスタムと言いつつあくまでも同じ機体なので性能差はありません。……バード形態への変形? すみません、よく分かりません。

 ちなみにウイングゼロに限らず今作のガンダムは全てデザインが元と違いますが、TVシリーズのそれとまったく同一の機体という事になっています。このヘビーアームズ改(EW版)に至っては、ガトリング砲が3倍に増設された事で重量が0.5トンも増え、唯一の近接武器だったナイフは密かにオミットされていますが、前と同じ機体です。そもそも弾が切れたらきちんと自爆すればいいだけなので無問題ラ!

アルトロンガンダム

 こちらも前作と同様、ガンダムナタク。太陽に向けての投棄を拒否した唯一の機体。というのも、前作で積年のライバルであるトレーズ閣下に勝ち逃げ(※当人の主観に基づく)された事を悔いて拗らせるあまり、自らが巨悪となって正義を確かめようとマリーメイア軍に加担してしまう五飛であった……。
 要するに、前作から山ほど積み残した宿題の一環が彼の救済ルートだったためにこうなった訳なのですが、かつてのオペレーション・メテオ仲間だったヒイロからは「(俺たちの役目は終わった以上、平和な時代にガンダムは不要だから)自爆スイッチを押せ!」と頻りに咎められる始末。

☆総じて

 『ガンダムW』に残された課題を片付ける、まさしく後日談として出来の良い一作。続編とはいえ、テレビシリーズほど複雑な事はない上にOVA全3話(もしくは再編集版の劇場一作品)で完結しているため、見やすいと言えば見やすい部類か。『ポケットの中の戦争』と並んでクリスマスの夜におすすめ。

 個人的に思い入れのあるOVA版の主題歌「WHITE REFLECTION」。これとウイングゼロカスタムがなければここまでガンダムを好きになっていなかったかもしれません。ちなみにまったくの余談ですが、劇場版の方の主題歌である「LAST IMPRESSION」はB'zの「LOVE PHANTOM」くらいイントロが長いのでカラオケで入れると高確率で嫌われます。

機動新世紀ガンダムX

 入門オススメ度:★★★☆☆

 ・いわゆる隠れた名作。隠れすぎて誰も話題にしない。ティファ可愛いよティファ。

 スペースコロニーの独立に端を発する、地球と宇宙の絶滅戦争が終結したアフターウォー(A.W.)15年。地球は無数のコロニー落下で荒廃し、戦争以前には100億を誇った総人口がおよそ1億人になるほどの世紀末状態でした。
 先の大戦で戦災孤児となった少年のガロード・ランはジャンク屋や強奪したモビルスーツを売り捌く稼業で逞しく生きていました。ある日、そんな彼の元に兵器の残骸を漁って売り捌く集団「バルチャー」に誘拐されたティファ・アディールという少女を助け出してほしいという依頼が舞い込みます。

 首尾よくティファを連れ出したガロードでしたが、依頼主に怯えるティファを見て彼女と共に逃走を図ります。ティファに導かれるまま、旧地球連邦軍の決戦兵器「ガンダムX」を発見し、これを起動することに成功。追っ手を振り払い、もともとティファを匿っていたバルチャーの一味「フリーデン」と合流するのでした。

主役機:ガンダムX→ガンダムダブルエックス

 第7次宇宙戦争における地球連邦軍の決戦兵器。当時最強のニュータイプ専用機であり、汎用性や機体性能はガンダムの名前にふさわしいもの。起動には専用のコントローラーが必要でしたが、たまたまティファと一緒にガメていた事で成功。
 このモビルスーツが真に決戦兵器たる所以はバックパックに装備している「サテライトキャノン」の存在です。

リフレクターユニットの形が「X」の由来

 月面の太陽光発電基地からスーパーマイクロウェーブを受信する事で凄まじい威力のビームを発射するというもの。その威力はたったの一撃で巨大質量の塊であるコロニーを複数基、粉砕できるほど。『初代ガンダム』においては連邦艦隊の総攻撃をもってしてもコロニーの軌道を逸らすのが関の山であった事を踏まえると、途方もない威力と言わざるを得ません。
 幸か不幸か、大気圏では月が見えていないと使用不能。第1話の締めでジャミルが発し、そのまま同話のサブタイトルにもなった「月は出ているか?」のセリフはこのサテライトキャノンの威力を知るからこその確認であったという事がわかります。

 後半からは新地球連邦が威信に懸けて製造したガンダムダブルエックス……なのですが、例によって主人公(ガロード)に強奪されます。ガンダムXの2号機に搭載されていたシステムを移植した以外は新規に建造された機体だったのですが、肝心のコントロール部分を流用してしまった事で、ガロードの持つGコンに見事適合してしまったのでした。危機管理ー!

 最大の特徴はツインサテライトキャノン。途方もない威力のビーム砲が単純に2倍となっただけでも恐ろしく、数十万㎞(地球2周半以上の距離)は離れたコロニーレーザーを破壊するなど尋常ならざる威力に。あまつさえ連射が可能となっており、劇中では最大で3連射していました。
 ただし、かつての戦争の過ちを繰り返さないとガロードが誓った事もあってこんな戦略級の兵器がむやみやたらに使われる訳もなく、劇中での使用回数は合計で6発程度でした。

「ガンダム、売るよ!」ガロード・ラン

慣れると高木渉ボイスが癖になる

 ヒロインであるティファに一目惚れし、彼女に導かれるままガンダムのパイロットとなった15歳の少年ガロード。同じくジャンク屋(という名のMS泥棒)を営んでいた『ガンダムZZ』のジュドー以来、二人目となるガンダムを売り払おうとした主人公です。
 ガンダムパイロットであるにもかかわらずニュータイプの概念が復活した本作において、オールドタイプである事が明言されている珍しいタイプ。とはいえ操縦技術は極めて天才的であり、オールレンジ武器であるビットを先読みして撃墜するなど地味に驚くべき成果を上げています。

「あなたに力を……」ティファ・アディール

 戦後の地球で唯一自然に発生したとされる「ニュータイプ」の少女、ティファ。イルカと会話ができるほどに共感能力が高いせいで無口な性格に。その能力の希少さゆえにあらゆる勢力から狙われます。
 儚げな見た目と声でガンダム最萌ヒロインの座を欲しいままにしているシリーズ単独首位のロリコンキラー。そのため各勢力が彼女に躍起になるのもわからないではありませんが、ガロードとの間柄はシリーズでも随一の相思相愛っぷりで付け入る隙は皆無です。

「月は出ているか」ジャミル・ニート

C.V.けんゆー

 無職のおっさん……ではなく、バルチャーの一つである「フリーデン」の艦長。各話を象徴するセリフがそのままサブタイトルに起用される本作において、採用率がティファと並んで高い屈指の名セリフメーカー。記念すべき第一話のタイトルにして本作の代名詞でもある「月は出ているか?」もこの人のセリフから。
 元は先の戦争でガンダムエックスを駆り、サテライトキャノンをぶっ飛ばしたきっかけのニュータイプでしたが、結果として絶滅戦争のトリガーを引いてしまった事がトラウマとなって能力を失い、戦後は同胞であるニュータイプの保護に勤しむようになります。

「私の愛馬は凶暴です」フロスト兄弟

オルバ・フロスト(左)/シャギア・フロスト(右)

 兄・シャギアの方しかゲームに出てこないことでお馴染み、本作のライバルポジションであるフロスト兄弟。テレパシーや感覚共有など兄弟間においては非常に強い結びつきを持つ特殊能力がある一方、ニュータイプの基準となるフラッシュシステムに適応しなかったという理由で「カテゴリーF」の烙印を押されて冷遇された過去を持ちます。その事で憎悪を募らせ、自分たちを認めなかった世界とニュータイプを滅ぼそうと暗躍します。

☆総じて

 まさしく隠れた名作ポジション。個人的にも悪い出来ではないと思いますが、放送当時の経営判断から「打ち切り」扱いされてしまい、省みられる機会がいまひとつ少ない。作品のテーマも戦争というよりは世紀末のロードムービー的な側面が強く、画的に派手な魅せ場が少ない事もあって前評判を覆すだけの起爆剤とはなりづらいのも泣き所。(良くも悪くも地味)
 しかしその一方で、富野監督ですら持て余して扱いあぐねたニュータイプ論に対して、現実と折り合いながらも一定の結論を提示した事は特筆すべき点として挙げられるでしょう。全39話なのでそれなりに完走しやすいです。

 またオープニングは前期、後期ともに名曲。僕が初めて聴いたのはGジェネ音源ですが、先述の「WHITE REFLECTION」と同様、この曲と出会わなければここまでガンダムを好きになっていたかは怪しい程度に思い入れがあります。

∀ガンダム

 入門オススメ度:★★★☆☆

 ・全てのガンダムが行き着く先。終着点ゆえにシリーズの入門オススメ度としては低めに設定。
 その最終回は個人的に、アニメ史上でもっとも美しいと感じます。

 正歴2343年。月の入植者ことムーンレィスの少年ロラン・セアックは女王ディアナ・ソレルの地球帰還作戦の先遣隊として地球に降下しました。彼はアメリア大陸イングレッサ領の片田舎でうっかり川に入って溺れていたところをハイム姉妹(キエル、ソシエ)に助けられ、その縁からそのままハイム家の使用人として暮らし始めます。

 そうして2年が経ち、地球の暮らしに愛着が湧いてきた頃、ロランは成人式の祭りに参加する事になります。しかし儀式の最中、地球との交渉に痺れを切らして降下したムーンレィスの市民兵部隊ディアナ・カウンターとイングレッサ領との間で武力衝突が発生。その戦闘の流れ弾で破壊された神像「ホワイトドール」から白いヒゲの機械人形が発掘され……。

正暦の世界観

 詳しくは後述しますが、宇宙開発が著しく進展していたかつてのシリーズとは相反して、正歴の技術力は第一次世界大戦前後のそれと同程度にまで衰えています。そのため地球側のモビルスーツは主に過去の文明の遺跡から出土した「機械人形」をそのまま運用しているといった様子。中には往年のザクやカプールなど懐かしい機体が出土するファンサービスも。

主役機:∀ガンダム

 当然ながらまずその独特なデザインで大変に物議を醸した∀ガンダム。劇中においても従来の用語が極力排されていることもあって「ガンダム」と呼ばれる事はほとんどなく、目下「ターンエー」や「ホワイトドール」、「ヒゲのやつ」などと呼ばれることが多いです。
 発掘された機械人形(モビルスーツ)の中でもとりわけ高い性能を持ち、ナノマシンによる自己修復機能を持つなど極めて強力な機体です。しかし見た目が見た目なのか、兵器として重んじられる様子よりも牧歌的な背景で佇んでいるのが目下の似合い。運搬に土木作業、洗濯までなんでもござれ。

ミサイルポッドに牛を入れて運ぶ髭の機械人形(を見て号泣する僕)

 而してその正体は、正歴以前の人類の機械文明を一度完全に滅ぼした「黒歴史」の象徴。「あらゆる人工物を砂に変える」というガンダム世界、ひいてはロボットアニメ界でも最強最悪のナノマシン兵器「月光蝶」を搭載しています。ちなみに牛を運ぶのに使っていたミサイルポッドには普段、核兵器が積まれています。(劇中使用1回)

「月の御大将」 ギム・ギンガナム

 本作のラスボス。極めて好戦的な性格をしたムーンレィスの強硬派で、地球侵攻とそれによる黒歴史の再来を目論んだ事から女王ディアナと対立した月の御大将。本格的な登場は物語の後半ながら、独特過ぎる富野節の台詞回しと子安氏の怪演もあいまって強烈すぎる個性を発揮し、本作における話題の全てを持って行った男。ギンガナム目当てで本作を視聴する人が後を絶ちません。オ・ノーレェェェェェェェ!!!!!!!

ターンX

 ギンガナムが発掘したターンタイプの片割れ。曰く「∀のお兄さん」。兄弟と共に月光蝶を用い、宇宙にまで進出した人類の文明を産業革命以前の水準まで後退させて滅ぼしました。元々は∀ガンダムと同様、太陽系外惑星からの侵略に備えて造られたとされる規格外の機体。
 全身のパーツが分離して各部からビームを発射したり、相手を拘束しながら生体反応のデータを取りつつ神の国への引導を渡したり、挙げ句の果てにシャイニングフィンガーを実装していたりと凄まじいまでのチートマシン。

黒歴史

 現在では、若気の至りなどといったタブー視された過去を指す言葉として定着した「黒歴史」の大元。終盤で明かされたその内容とは、すなわち新旧や宇宙世紀/アナザーの区別なく全てのガンダムシリーズを内包した、戦争の末に月光蝶で滅び去った機械文明の歴史のことでした。

☆総じて

 いわゆる「白富野」の代表作。設定……というか、富野監督の当時の考えでは全てのガンダムが結実する記念碑的な意味合いも込めていた作品。とはいえ現在は『Gのレコンギスタ』の年表が正歴より後に来るなどと囁かれたりもするので、それをどの程度真に受けるかは人それぞれ。
 当然この作品から見始めても一向に問題はありませんが、『Zガンダム』や『Vガンダム』の鬱屈とした富野作品の空気に触れてから見ると、監督の人生観の変遷が伺えて個人的にはより楽しめるのではないかなと感じます。(ガンダムに限ってはこれをノイズと捉える人は正直もったいないと思う)

続きます

 厳密には以上のG・W・X+∀の90年代のシリーズ作品が「アナザーガンダム」と呼ばれています。
 21世紀を迎えたSEED以降のテレビシリーズでは、再びタイトルに『機動戦士』が冠されるなど第三世代的な展開を見せ始めるのですが、いずれも宇宙世紀シリーズとは関連を持たない独自の世界観で描かれる作品群である事には変わりないため、当記事では以降の作品も引き続き「アナザー」として区分していきます。
 次回はアナザー第二弾として『機動戦士ガンダムSEED』~を予定しています。

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