徳を積む
徳を積む。そんな事を出来た日。
バスに乗っていた、一番後ろの歩道側、バス停に止まる、乗って来たおばあちゃん、先払いの料金を払おうともめている?。モゾモゾしてお財布を探している、見つからないみたい?すまなそうに降りていく。
えっ!あの薄い緑の服、パジャマ?見た事有るかも?。走り出したバス、窓の外のおばあちゃんを確認、ズボンも同色のパジャマ!
確信した、徘徊。何故運転手さんは気づかない、近くの乗客は、そして自分は。
短時間だけど色々な事が、頭の中をぐわぁんと一周、勢いで次のバス停で降りた。走る、ゼイゼイ言いながら走って戻る。行先の違う他のバスが、前のバス停に止まっているのが遠目に見えた。運転席の横に料金箱、フロントガラス越しに、薄いみどりの影。またやってる、運転手さん気付いて、周りの人気付いて。おばあちゃんがひとりで降りて来るのが見えた。同じか。 いや。 俺が戻れた。
バス停に戻った、おばあちゃんが切なそうに、走り去ったバスを見ている。どうして良いか、何がしたいのか、虚ろな表情のおばあちゃん。このバス停「〇〇〇病院前」、このパジャマよく病院でレンタルされる、あの薄い緑色のアレ。手元を見て確信と少しの恐怖、手首にIDのバンド、もう片手に留置された点滴ライン。良かった、一瞬に思いが駆ける。
満面の笑みで「はい、こんにちは、大変でしたね、さぁ一緒に行きましょうね」
「はい、あそこに病院見えるね、一緒に行きましょうね」
(あらあら、すいませんね、ありがとう、出かけるとお父さんに、怒られちゃうのよ)
「今日は天気で良かったね、でも風が出てきたね」
(そうですね、お天気で、今日は暖かで)
「奥さんは足腰強いんですね、しっかり歩けてる」
(私、足は強いのよ)
「あと少しだからね」
(ホントにありがとうねぇ)
「一緒に中まで行きますよ、帰ってきましたよ、とお話しするからね」
(すいませんね、ありかとうねぇ)
我ながら上出来、詐欺師のごとく、終始笑顔で調子合わせて、安心するように会話を続けて、病院に到着。
「ここに座って待っててね、〇〇さんが来てますよって、挨拶して来るね」おばあちゃんもなかなかの上機嫌で、ソファーに座ってくれた。
受付へ、カウンターには「本日の受付は終了」の札。中で残務作業中の職員に声をかける。(今日は終わりだょ)そんな表情、面倒くさそうに此方にきます、少し小声で「あちらの女性、あそこのバス停で、何度もバスに乗ろうとしていて、お連れしました」職員さん目を見開いて、血の気が引いていた。(血の気が引く。って初めて見た)職員さん女性に駆け寄ります、その背中に「大丈夫ね、私帰るよ、よろしくね」と言いつつ。
おばあちゃんに「ありがとうね、頑張って歩けましたね、お元気で、バイバイ」
おばあちゃん、ずぅっと笑顔でお話しながら、病院まで歩いてくれました。
戻って良かった。会えて良かった。あのまま帰宅したら、後悔で潰れそう。動けた自分で本当に良かった。これが「徳を積む」ってやつかな。