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いつか「物語」の続きを

プロ野球には、様々な楽しみ方がある。

プレーに関わる様々なデータを分析し、最適な打順、采配を模索するファン。
スタジアムグルメに舌鼓を打つファン。
努力に裏打ちされた選手たちの技術に喝さいを送るファン。

どのようなファンの在り方も自由だ。様々なファンの在り方を受け入れることができる度量の広さこそプロ野球の魅力と言えるだろう。そして、僕はライオンズという愛するチームに付随する「物語」を楽しむファンである。

ケガや不調に苦しんだ選手が、復活を遂げるという物語。
頼りなかった若手が主力へと成長するという物語。
ミスを犯した選手が自らの失態を帳消しにするような活躍を見せるという物語。

こうした様々な物語が、僕がライオンズファンで居続ける理由となっている。

なかでも僕が愛しているのは、「ライオンズ一筋」という物語だ。

転職が当たり前になった現代で「待遇がよい方を選ぶのが当たり前」なんて正論は聞き飽きている。
そして、そんな誰もが知っているわかり切った論理をしたり顔で、プロ野球という非日常に持ち込む方がどうかしていると思う。それは正しいかもしれないが「つまらない」。少なくとも僕にとっては。

だが、そうした正論が大勢を占めるからこそ、「論理よりもチームへの愛を優先してくれた」という物語が僕の胸に熱く響くのだ。

ライオンズというチームにおいて、FA権を取得しながら残留を選んだ選手が、ライオンズで現役を終える。

これほど素晴らしい物語はない。

チームに入団し、頭角を現していく姿
主力としてチームを鼓舞する姿
不調に苦しむ姿
年齢的な衰えにあらがおうとする姿
大きなケガから立ち上がろうとする姿
ユニフォームを脱ぎ、引退する姿

必ずしも、すべてが楽しい思い出ばかりではないかもしれない。ただ、そのすべてを「ライオンズの選手」として見届けることができた。これほど幸せなことはない。

金子侑司と岡田雅利。

2人のプレーへの思い入れを挙げていけばキリがないが、金子については、2019年7月19日の対オリックス戦、3点ビハインドの9回に放った同点スリーランが思い浮かぶ。

あの時、僕は三塁側のバックネット裏近くの座席にいた。その位置からでは、ライト側の打球の距離が判別しにくい。金子の打球が上がった瞬間、「あー、打ち上げた。せめて転がして進塁打にしてほしかったな」という思考が頭をよぎったことを明確に覚えている。

実際は、そんな心配をする必要はまったくなく、打球はライトスタンドに飛び込んだ。失望がわずか数秒間で圧倒的な高揚感に変化したあのシーンを僕はいつまでも忘れないだろう。

岡田については、動画を探すのも難しいような何気ない場面が強烈に印象に残っている。

2019年5月12日の対ファイターズ戦。6回裏に打者・中田翔を十亀剣がカーブで三振に取ったシーン。投球前に捕手・岡田が大きなジェスチャーで十亀に「腕を振って来い!」と伝えている。投手を盛り立てようとするその姿が、何とも岡田らしいと感じたものだ。

今週、2人は引退試合を迎える。

ライオンズファンの僕にプレーを通じて、たくさんの素晴らしい物語を残してくれた2人に心から感謝したい。そして、最後に「現役生活のすべてをライオンズに捧げた金子侑司と岡田雅利という素晴らしい選手がいた」という物語を残してくれることを本当にうれしく思っている。

そして、できれば何らかの形で2人とライオンズの物語の続きを見たいと願う。

現時点では、それがどんな形になるか今はわからないけれど、何年か後に、「2024年9月14、15日の試合と今この時のライオンズの勝利がつながっているんだな」と思えるような日が来ることを楽しみにしている。

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