いわゆる「セフレ」的ラーメンについて
「●●さん、この前貸していただいた千円お返ししますね」
「永田さん、ありがとうございます。この前、セフレに会う時にお貸ししたやつですね」
「やめてくださいよw、人聞きが悪い」
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僕の前職のオフィスは日比谷にあったのだが、周辺には美味いラーメン屋がたくさんあった。なかでも蝋燭屋の麻婆麺は僕のお気に入りの一つだ。
辛さと美味さがしびれが一体となって口の中を幸せで満たしてくれる。しかも、この店は担々麺も酸辣湯麺も美味い。コロナ禍が明けたら、是非とも訪れたいと思っている。
あるいは、「175°DENO担担麺 GINZa」の汁なし担々麺も魅力的だった。パンチのきいた山椒にゴマとエビの香りが合わさって、とにかく美味いのである。
「今日は、どちらの気分でもないな。。。」
そんな時は、「支那麺 はしご」に行った。IT業界の有名人のソウルフードとして知られる、この店の担々麺も絶品である。
このような有名店が身近にある環境だったが、前職在職中の約1年間で、最も多く通ったのは、オフィスから徒歩1分程度のもはや名前も思い出せない、自分でもたいして美味いと思っていないラーメン屋だった。
なぜなら、近くて、まずいというほどでもなく、手軽にお腹が満たされるのである。このようなラーメン屋のことを僕は勝手に「セフレ」と呼んでいる。
本命の店ほど美味くはないけれど、味も量も値段も程よくて、そこそこ満たされた気分になる。まさに「セフレ」というわけだ。といっても僕にそんなものが実際にいた経験はないのだけれど。
◆◆◆
現在、新型コロナの影響で気軽に飲食店にも行けない状況だ。僕もすべてが落ち着いたら、行こうと思っているお気に入りの飲食店がいくつかある。
それらはどれも魅力的なのだけれど、僕が「日常」を感じるのは、そうした「本命」のお店に行った時ではないと思う。
「あー、本当はちょっと足を延ばして、本命の店に行きたいけど、時間もないし、近場で済ませるかぁ」などと多少不本意な気持ちで「セフレ的ラーメン」をすすっているときに、僕はすべてが元通りになり、日常が返ってきたことを心から実感するのだろう。
◆◆◆
「すいません、●●さん。1,000円貸してもらえませんか。昼飯にラーメン食いたいんですけど、財布忘れちゃって。。。」
「あぁいいすよ、角のあの店ですよね。あの店、美味いんですか」。
「うーん、なんていうか『セフレ』みたいな感じすかね」
「アハハ、なんか言いたいことはわかりますw」
僕の独特の表現を一瞬で理解してくれた同僚には、実際にセフレがいたことがあるのだろうか。
緊急事態宣言明けからの初出社日のランチ。僕は、現職への転職直後に見つけた「セフレ的ラーメン屋」の醤油ラーメンをすすりながら、そんなことを思うのであった。