【法務】電子(デジタル)署名とのお付き合い
古き良き(?)社内手続に従順な会社では、まだまだ「リーガルテック」という概念に目を背けたくなる法務部門もあるのではないでしょうか。
今回は自分の会社を棚に上げますが、電子契約絡みの話をします。
1.電子(デジタル)署名を巡る対立
特にこうした会社の管理(法務)部門が契約の押捺手続をしている場合、電子(デジタル)署名の採用可否をめぐり、往々にして法務部門 vs.事業部門の対立が生じると予想します。
「海外取引先と早急に契約締結したいが、デジタル署名が要求されている。このまま手続を進めてもらえないか?」
という事業部門からの要求に対し、我々は
「紙ベースで原本を保管しない場合、証拠としてどれだけ有効なのか?」
と疑念を抱くわけですが、法務マンとしては間違っていない思考だとは思います。
一口にデジタル署名とはいっても、色々なパターンがありまして…
より安全サイド(保守的)に考える人の中には…
「今まで基本的には紙ベースでの署名押捺を受け付けてきたが、今回だけなぜ電子ベースでよしとするのか。例外的な取扱いを認める要件を社内ルールで明確にすべきだ」
「電子署名の形式的証拠力が争われた判例が蓄積されていない現状の下では安易に許容するのは控えるべきでないか」
という方もいそうですが、会社同士の紛争で「この契約はニセモノだ!」みたいなショボい争点が頻発するのでしょうか?
とりあえず、担当者としては基本に立ち返り、シコシコと民訴法228条4項(二段の推定含む)、電子署名法等、法律の要件を調査し始めるわけですね。
2.何が問題とされているのか
電子書面の署名について問題となるのは、主に次の3点といわれます。
①本人の同一性(偽造の有無)
②内容の同一性(変造の有無)
③通信の秘匿性(セキュリティ)
クラウドサインのサイトにも以下のとおり分かり易い記事も掲載されております。
さっさと結論を言っちゃえば、デジタル署名を採用すること自体に大きなリスクはないでしょう。
公開鍵暗号方式は、上記3つの問題をクリアするための技術でもあります。
ただし、上記方式が採用されているか疑わしい場合、追って紙ベースでも保管するといった条件付き採用の場合もあるでしょう。
「さすがにこれはアカンやろ」というケースもあります。
理由については長くなるので割愛させて頂きます。
3.保守的な人を説得できるか
電子署名法の要件を満たさなければ民訴228条4項(私文書の成立の真正)の推定を受けられません。
また、全てのシステムが政府の推奨する認証の仕組みを採用しているかは明らかではありません。
ただ、電子署名法の要件を満たしていないとしても、いざ形式的証拠力が争われたときに、プロバイダー側の技術者が上記①〜③を担保できる仕組みを証明できればよいと考えます。
また、企業間では一つの取引をめぐって多くのメールや文書が取り交わされるはずです。
そのため、仮に契約書がニセモノだとしても、商談開始〜契約に至る過程に関する情況証拠などから、両者に一定の合意があったことは明らかになるのではないしょうか。
弁護士の方々に照会すれば、大体以下のとおり草原先生の様な回答になると思います。
顧問の先生の中には若干異なる見解を有する方もおられましたが、敢えて触れません。
4.導入しても立ちはだかるハードル
相手方から電子署名を求められた場合については、以上となります。
次に、自社がプロバイダーのサービスを導入する場合の問題です。
そもそも電子契約の採用が進んでいない業界ですと、一歩踏み出すのにためらいはあると思います。
僕もIT企業に属しておりますが、マインドセットはそう変わりません。
例えば、B to Cビジネスにおいて、定型的かつ大量発行される書面から導入を目指すのもよいかもしれません。
特に金融業界や不動産業界ではこうした取り組みが進められるケースが多いと聞きます。また建設業界における受発注書は、電子署名でやりとりされることが比較的多いとも聞きました。
ただし、業界や取引によっては、自社のみがシステムを導入しても、相手方が受け入れないという寂しい事態もあり得ます。
もう一つの問題として、契約書原本の管理の問題があると思います。
旧来のやり方を踏襲する会社のうち、特に管理部門に原本が集まる場合は、ExcelやAccess等を利用して帳簿をつけ、指定された「どこか」(物理的な棚や電子的なフォルダ)に原本があるのだと思います。
多くのプロバイダーは、契約書管理システムをセットで提供していると思いますが、管理方法をいきなり変える(or 併存させる)のには一定の「ペイン」が伴うわけですね。
この点について、何を妥協するかは会社によって異なります。
まずは費用対効果という壁が立ちはだかるかもしれませんね。
さあ、今日も痛みに耐えて、時代の波に乗っていきましょう!