連載『大学インタビュー』 CBT円滑運営の秘訣を探る(3) 〜テストを学校運営に活用する〜
ELPAの岡田健志です。
この連載も最終回を迎えました。
前回までの記事を読んでいただいた方には、X大学の皆様が、テスト運営を緻密に運営されていることが伝わったと思います。では、そもそも入試とは別にプレイスメントテスト受験は必要なのでしょうか。クラス分け以外にも何か目的はないのでしょうか。
今回は、テストで得られたデータをどのように活用しているのかを伺いました。
→第1回の連載記事 https://note.com/elpa2003/n/nefabeb986d53
→第2回の連載記事 https://note.com/elpa2003/n/n2ceca685b5fc
インタビューの前に・・・
第1回のインタビューの中でも、Sさまより「学生の経年変化を測ることができる」という発言がありました。
これはどういうことか、事前に説明しておく方が良いと思います。
少し大きな話題から始めます。
大学には3つのポリシーがある
どこの大学でも、公式サイトを見れば、3つのポリシーが掲げられています。
ディプロマポリシー:卒業認定・学位授与の方針
カリキュラムポリシー:教育課程編成・実施の方針
アドミッションポリシー:入学者受入れの方針
これらの策定は大学に義務付けられています。
これらの3つは独立ではなく、連動しています。「どのような人材を卒業させるつもりなのか」「そのためにはどのようなカリキュラムや教育内容・基準が必要なのか」「その教育を受けるために必要な素養や能力・学力は何でどの程度なのか」ということが掲げられています。
掲げる以上、大学側はそれが実効性を持つように運営されなければなりません。
それを客観視するための道具として、テストは活用できます。
「入学者のレベルは一定なのか?」
ちょっと乱暴な表現になってしまいますが、極論すると、定員が決まっている入試選抜のためであれば、どんなテストであっても序列化だけがうまくできていれば役割は果たせます。上から輪切りにすればいいのです。(その点は「クラス分け」も基本的には同じです。)
しかし、「2023年度の入学生と今年の入学生は同じレベルなのだろうか?」という問いに対しては、どうでしょうか?
たとえば、2023年度のテスト問題と今年度のテスト問題が全く異なる場合、平均点も標準偏差も全く異なる可能性があります。このような可能性が濃厚である限り、「2023年度入学者の方が、平均点が高いからレベルが高い」とは言えません。たまたま簡単な問題レベルだった可能性があるからです。
アドミッションポリシーに真摯に向き合うからこそ、「今年も求めていたレベルの学生を入学させられただろうか」という学校運営にも関わる問いが生じ、それの検証が必要となるのです。
英語の入試をしていても、外部試験併用が効果的な理由
入学者選抜・クラス分けというタスクに対してのみであれば、入学試験で達成できます。しかし、一方で入試問題は公開されることが多いです。(X大学の赤本も一般的に販売されております。)志望校であれば、その入試傾向への対策をしてくるでしょう。
一方、本来、能力を測定するテストでは問題の「非公開」が前提です。それでこそ、客観的な測定が可能となります。
入試問題は「選抜」のためのものです。ELPAのプレイスメントテストはクラス分け以外にも「年度別の入学者のレベルの比較をする」という客観的な物差しとしての活用ができます。この併用も非常に効果的です。
X大学の皆様がどのようにテストを活用しようとしているのか、インタビューから垣間見られます。
X大学・S様へのインタビュー(3)
(6)ELPAから提供するデータはどのように活用しているか
【まとめ】
ここでは書ききれないほどのご質問が・・・
この後、しばらくインタビューは続いたのですが、Sさまのお言葉通り、ここからELPAに対していくつものご質問が投げられました。
そのどれもが、私たち自身が刺激を受けることばかりで、宿題をたくさんいただきました。
私たちはデータを扱っているわけですが、テスト実施者である大学に返却するのはあくまでもデータとしては「素材」の部分に過ぎません。
その素材をどのように、自校の課題に引き付けて分析・解釈し、対応策を練るかは確かにテスト実施者である大学のマターになります。(実際に、X大学ではIRの担当部署がそうされています。)
一方、X大学も含めたデータを扱うELPAは、それらを「社会」の中での生きたデータとして活用していくことが求められています。それがNPOとして存在する理由であり価値でもあります。そのことに改めて気づかされたインタビューでした。
いただいたご質問はELPA内部で、まず考え、検証していき、公開できるものは公開していけるように継続して調査します。
主体的な運営から主体的な受験生が育つのではないか
3回に渡り、記事をまとめてみました。
もっとも感銘をうけたことは、この小見出しの通りでした。
抜きん出た受験率の高さと、受験者からの問い合わせの少なさが目を引いて、その「工夫」「テクニック」を伺おう、と思って始めたインタビューでした。
しかし、インタビューを通じて気づかされたことがあります。
何より重要なのは「徹底的に学生の動きをシミュレーションし、関係者が腹落ちするまで具体的にデザインされたスケジュール構築と告知」であり、それを支える「学生のため」「より良い指導のため」を追求する『マインド』だということでした。
そういう運営者のマインドは、学生にも伝播するのではないかな、と改めて教育現場を支えるスタッフの方々の弛まぬ努力に敬意をもちました。
改めまして、ご多忙の中、時間を割いてインタビューにお付き合いいただきましたX大学・Sさま、ありがとうございました。
※ELPAでは、一緒にさまざまな調査・研究をしてくださる「賛助会員」を募集しています。また現在、「我々がまず学ぶ集団になる!」を合言葉に、さまざまな学校・教員・職員の方々にインタビューをしていく機会を持つようにしております。『ELPAスタッフと情報交換をしたい』と思ってくださった教育現場や教育関係の方がおられましたら、ELPA公式サイト(https://english-assessment.org)よりご連絡ください。