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【雑感日記】 「おかしな日本語(1)」
今日から少しの間ですが21世紀になるかどうかのあたりからずっと気になっている言葉遣いを取り上げてどうしてそうなったのか私見を書いてみようと思います。今日は「方」と「から」です。
この用法はかれこれ20年くらい前からコンビニの店員の言葉遣いが最近おかしいとメディアでも何度となく取り沙汰されてもいました。次のようなものです。
お会計の方よろしいですか
千円からいただきます
おかしいと言えばおかしいですし、そう思わない方もいらっしゃるでしょう。しかし自分からみればやっぱりおかしく感じます。「から」は当時はさして違和感を感じていませんでしだが「方」はやっぱり違和感がありました。あと2つ加えます。
お名前の方よろしいですか
アイドリングの方止めていただけますか
と、なんでも目的語に方角という性格を持たせてしまってます。やっぱり、おかしく思えます。
これは思うに敬語のいびつな発展形と見られます。と言うのも敬語では「こちら」「あちら」といった人称代名詞が用いられます。ここで「方角」の言葉が登場します。つまり丁寧な表現を試みる上で方角の観念がつい出てしまい、「方」「から」という言葉が生まれたのではないかという説があります。
丁寧な言葉を使い慣れていないから、いざ丁寧な表現が必要なシチュエーションに置かれた時にこれでとりあえず体裁は繕えると思っているのかも知れません。そう考えると言葉が乱暴だったり、いわゆる「タメ口」を平気で話すよりはずっと気持ちだけは伝わっているのかも知れませんが、やっぱり合点がいかないものです。
もう一つは日本語独特の「間接」的な表現が原因になっています。相手に関する物事を直接取り上げることが無礼という習慣が日本語の中にあります。
さっきの例文も本当なら
お会計よろしいですか
千円いただきます
お名前(うかがって)よろしいですか
アイドリングを止めていただけますか
これで十分なのに、直接相手の「お会計」「千円」「お名前」「アイドリング」を何の言葉もなしに取りざたするのは失礼に当たるという観念がどこかにあるのだと思われます。だからついつい「方」「から」などといった言葉をつけてしまうのでしょう。つけないとなんとも不自然に感じてしまうわけです。これも丁寧な言葉の使い方をしっかりと学んでこなかった結果とも言えるでしょう。
無礼にならない表現ということであれば、先ほどの例文なら「お会計」「お名前」などの「お」をつける事ですでにその表現は成立しているのにもかかわらず、今はそれだけでは物足りない。いわば何とも言えぬ「より丁寧であれ」という強迫観念に迫られた言葉遣いとも思えます。
さらにこれに付随してこんな表現があります。
ご注文の方以上でよろしかったですか
「よろしいですか」をストレートに言えず、過去形にすることでさらに間接的表現を試みているものだと思えます。しかしこれには今書いたように間接的表現の試みの他にも地域によって普通に使われる事もあります。その代表例が北海道で、どういうわけか北海道では過去形の語変化を過去時制でない場合に用います。たとえば電話に出る時も…
はい、○○でした
と言うのが普通です。だから過去形を用いる事は年代的な習慣だけでなく、地域の習慣、いわば方言のひとつでもあると言えます。
言語は生き物で、常にその姿を変えます。だからこのような言葉遣いは容認すべきだと日本語もろくに話せぬ若年層は偉そうに自分たちの言葉を正当化させます。しかし言語の変化は進化と退化の二つがあるとオックスフォード大学のジーン・エイチソン教授はその著書、"Language Change: Progress or Decay"で提唱しています。今日以降取り上げる日本語表現が姿を変えた現代の日本語だというなら、それは間違いなく退化した日本語と言えるでしょう。
知らず知らずのうちに「方」や「から」を付け足していませんか。いま一度ご自分の言葉を客観的に見てみましょう■