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【短編日記】 「Quiet Mode / 電車寝(4・終)

 その年の冬、交通事故に遭い半月ほどの入院を余儀なくされた。年の瀬の忙しい時期、いつものように電車寝を楽しんで駅から家へ帰る途中で濡れた路面で滑った原付バイクに巻き込まれた。ご丁寧に相手は轢き逃げをして姿をくらませてしまった。最も無念だった事は正月を病院で過ごした事だっただろう。

 年老いた両親は地方から見舞いに来ることもできず、比較的近くに住んでいた姉が見舞いに来てくれた。おまけに治療費も立て替えてくれ、そこだけは本当に感謝をしている。もうそろそろひき逃げ犯が捕まってもいいと思うのだが警察からは何の連絡もなく年だけが明けてしまった。姉からは予想はしていたが早く結婚をしろの一点張り。両親はそれほど気にはかけた様子ではないのに姉はこと僕の縁談となるととにかくうるさい。自分だってだいぶ前に離婚をして独り身でいるはずなのに何故か弟のこととなるとうるさくなる。

 退院後はできるだけ姉とは連絡を取らぬよう静かに療養をして職場復旧をしたもののその年度いっぱいで退職をした。電車寝ができるほどの遠距離通勤がしんどく感じてしまったのだ。相変わらずひき逃げ犯は検挙されず。泣き寝入りは必至だと覚悟を決めていた。

 独身で退職し、次の仕事もないのは困るので仕事先は予め探してはいた。相変わらず姉は結婚をしろの一点張りだったが縁談を持ってくるでもなく、治療費を返せとも言っては来なかった。収入は減っても再就職先は家の近くにこだわった結果、電車に乗らなくても通える仕事先を見つけられた。電車に乗らないのだから大好きだった電車寝もできなくなるが、それも近場に転職先を探していた理由でもあった。

 電車寝をする生活をやめてから時間的にもゆとりが感じられ、この生活も満更ではないなと感じている。睡眠のタイミングにはまだ慣れないが、電車を寝過ごしてしまうこともなくなった。これまでの生活にはまだ未練があるが、今はこれでいいのだと思うことにしている。

 それでも時々駅で電車を見かけるとただ寝るためだけに乗ってみたいと思ってしまう。別に鉄道マニアでもなんでもないが「電車断ち」と呼んでまるで禁煙でもするような覚悟で日々意識をしながら生活をしていたのだか、それもいつの間にか普通に受け入れられるようになったいた。自分の中の麻薬のような誘惑でもあった電車寝の日々はこうして徐々に過去のものへとなっていった。

「電車寝」終■

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