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【短編日記】 「Quiet Mode / 음악 라디오 (音楽ラジオ)」

 初めはKpopが聴きたかったので始めたネットラジオだった。ネットで韓国のラジオを流しては聴いたこともないメロディを楽しんでいた。言葉はわからなかったし、それは二の次だと思っていた。

 初めのうちこそ「…スムニダ」だの「…ヨ」で終わる言葉にそれらしさを感じていた。それだけでも楽しかったと思う。やがて気になり始めたことがあった。どうも自分が聴いているのは音楽放送らしいのだがそれにしてもお喋りが多い。

 試しに他のラジオ局の普通の放送を聴いてみるとほとんど喋ってばかりで音楽は滅多に流れない。これは自分が聴きたいものではなかった。

 次第に日本のラジオとよく似ている部分にも気づく。韓国のラジオもCMが多いことだ。独特のCMソングが何とも日本のものに似ている。それがすぐに頭から離れなくなるところまでよく似ていた。

 何にせよお喋りやCMは多いが、手持ちのKpopのCDを流しているよりはずっと刺激的ではあった。いつしか自分の深いお気に入りとなり、朝から晩まで、外にいるときも聴くようになり、何のCMかもわからないメロディを鼻歌で歌うくらいにまでなっていた。

 時々日本の古い歌が韓国語の歌詞で流れていることにも気がついた。韓国の人たちはこの歌が元々は日本のヒット曲だったことを知っているのだろうか気になる事もあった。知らなくてもいいことだけど他の人に言いふらしたくなる事を知ってしまった不思議な照れ臭さを感じてしまうこともあった。そういった日本の歌が原典も曖昧にされ韓国でヒットしているという事実を知るのはずっと後の事だった。

 クリスマスも近くなるとクリスマスソングが増えてきた。日本でもお馴染みの洋楽クリスマスソングを耳にすることも増えたが、雰囲気からしてこれもクリスマスソングだろうと思われるKpopのクリスマスソングを耳にすることもあった。いろんな部分で日本と韓国の音楽が似ていることが嬉しく感じられたものだ。

 ある雪の朝早くに目が覚めてしまった。外はまだ真っ暗。窓の外を見ると街灯に照らされた雪景色が青白く浮かび上がっていた。寝直すのを諦めてお気に入りのラジオをつける。こんな早朝に聴くことは初めてだった。

 スマホのスピーカーから流れてきた音楽は賛美歌らしい合唱。いつもとは全く異なる空気感に縛り付けられていた。似たような合唱や独唱。それは馴染んでいたKpopとはまるで違う種の音楽だった。辛うじていつものラジオ局だとわかったのは歌詞が韓国語っぽい響きを持っていたことに気づいたからだ。

 日頃よく聴いていたKpopのラジオ局が、早朝の限られた時間だけ宗教音楽番組を放送しているらしい。じっとしたまま番組が終わるまで聴いていた。外はようやく白み始めてきたところだった。

 音楽ラジオ局のくせにトークやCMばかりだと思っていたこの局はやっぱり音楽ラジオ局だった。窓の外が明るくなるにつれいつもの雰囲気を取り戻し、鼻歌で歌っているなじみのメロディが届いてきたところで魔法から解放されたような気分になった。

 それからも時々早朝に目が覚めたときはラジオをつけてみようかと思うことがあったが、なぜが思い切りがつかずあの雪の朝を最後に不思議な世界を垣間見ることはできないでいる。

Quiet Mode 「음악 라디오 (音楽ラジオ)」 終■

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