【CA様のかわいらしいギャップ】
久しぶりにCA時代のお話を。
私には、
いい意味でも悪い意味でも忘れられないCAの先輩が沢山います。
今日はその中でも、
とあるマネージャーのお話。
マネージャーというのは、
チーフパーサー(CAのボス)のボスなんですね。
彼女達はCAとして出世コースに乗った一握りの方々。
今回の主人公であるマネージャーは、
当時CA達の間で非常に恐れられていました。
彼女について一言で言うと…
オードリー・ヘップバーンを熟成させた顔に絶対バレーやってた的な大林素子体型、そこに竹内力の威圧感と勝新太郎の豪快さを身に付けたような人でした。
そんなマネージャーのオードリーは、
なぜかいつも私を気にかけてくれました。
品の良い美女CA達が集う空港オフィスの中で
フライト後、大あくびをしながらスカーフをバサーッと外す私に向かって
「あんたってほんとオッサンよね」
と、ニヤニヤ微笑みかけてくれました。
ある時、
私はオードリーと一緒にフィンランドのヘルシンキまでフライトすることになりました。
マネージャーが同乗するフライトは…
現場に社長が来る感覚とでもいいましょうか。
色々と細かいチェックが入るためみんなソワソワ。
しかし私はオードリーに可愛がられていたので緊張感なし。いつも通りのフライト気分でした。
冬のヘルシンキ。
気温はー30度ほどになります。
フライト前、CA様達は色々な準備を怠らず
ダウンジャケット、マフラーに手袋。
キャリーケースは夜逃げ並み。
超ミニマリストの私は
真冬のニューヨークだろうがヨーロッパだろうが1週間ステイだろうが、国内一泊旅行より小さいキャリーケースでフライトです。
夜逃げ屋達を心の中であざ笑っておりました。
ただし、今回は初めてのヘルシンキ。
想像を絶する寒さでございます。
もちろん!制服用のコートも持って行かなければなりませんでした。
でもこの制服用コート…
銀河鉄道スリーナインに出てくる車掌のようなデザインで、私は絶対に着たくありませんでした。吹雪が吹こうが雪崩が来ようが着るつもりありませんでした。
フライトが無事に終わり
ヘルシンキのホテルに着いた頃。
雪がこんもりと重なったホテルの通りは
吐く息も凍る寒さ。
オードリーが私に聞きました。
「あれ?あんたコートは?」
私は調子良く答えました。
「てへ、日本に置いてきやした」
…その瞬間でした。
厚く降り積もった雪の下から地響きが鳴りはじめたのです。
「……は?
置いてきた…?」
オードリーの美しく白い顔に血管が浮き立ち始めました。
その顔を見た途端、血の気が引いて私まで白い顔になり始めました。
オードリーの形相は
もはや竹内の力さん…。
「はぁ?!?!このクソ寒い国でコートも着ないでどうするつもりだ?!あ?!もし緊急着陸とかして氷山の上でお客様誘導することになったらどうすんだ?!あ?!コートも着ないでこの仕事できると思ってんのかコルラァァァアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私はグヮシッとスカーフごと首根っこを掴まれて体を持ち上げられグリングリン振り回された挙句5キロ先の湖に向かって砲丸投げのごとく投げ飛ばされたかと錯覚するほどの恐怖に縮み上がりました。
正直、
その後のことは覚えていません。
窓の外は白夜。
ギンギンに目を充血させながら、
ご飯も食べずにベッドの中でカタカタ震え上がっていたのだと思います。
夜9時を回っても白い光の差し込む部屋で
私はやっと眠りにつきました。
🌥
翌日。
オードリーは何事もなかったかのように私の肩に手を回してくれました。
叱る時は、叱る。
その後は引きずらない。
上司としてオードリーは最高の方でした。
そんなmade of プロ意識のオードリー。
可愛らしい言葉をくれたことがありました。
「あのね…あんたに大事なこと教える。
私は結婚しなかったんだけど…
1000円の弁当を一人で食べるより、
500円の弁当を二人で食べる方がいい。
そんな人生送りなさいね。」
私は一人だろうが二人だろうが
500円だろうが千円だろうが
弁当が目の前にあれば喜んでむさぼるわいと
心の中でツッコミました。
それよりも…驚きました。
どう見てもパワフル最高人生にしか見えないオードリー。
私は彼女の寂しさを垣間見たのです。
🍱
強くて仕事ができて美しい。
けれど時折見せる哀愁、人間らしさ。
私はCAの先輩方から
「人間のかわいさ」というものを教えてもらいました。
✈️
ちなみにオードリーマネージャーは
別のフライトの際も、海外のホテルで
私の部屋に鬼の電話をかけてきました。
「おい、何やってんだ!
ご飯だけは一人で食うな!外出てこい!
みんなで焼肉行くぞ!!」
何時だと思ってんだ…。
オードリー先輩はどうしても
一人ご飯が苦手な可愛い方だったのです。
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