【プロ意識の正体】
むかしむかし、
金太郎という男の子が
母親とどうぶつたちと一緒に
山でたのしく暮らしていました。
金太郎は力がつよくてやさしい子どもでした。
金太郎はその怪力で
いつもまわりの人たちを助けました。
自分の力を、人を助けるためにつかう。
それを見失わなかったことが
金太郎のプロ意識でした。
✂️
プロ意識の正体。
それは
「何のためにやっているかをいつも忘れないこと」だと思っています。
20代の頃の話。
わたしは男運もさることながら床屋運もなかったんです。
ストレートパーマをかけに行ったはずがスパイラルパーマになる。
女性の美容師さんから怪しい占い師を紹介される。
男性の美容師さんがカルテに書いた私の携帯番号に勝手に連絡してくる。
運がなかったのか。
それともプロ意識がなかったのか。
✈️
東京でCAをしていた頃。
そりゃもう、いわゆるCA様たちは
やれ表参道 やれ青山
やれ銀座 やれ代官山
何万もはたいて散髪に行かれるわけです。
私も一度だけ表参道の床屋に行ったことがあります。
ヘアカットを散髪、ヘアサロンを床屋と言う
私のような輩が行くところではありませんでした。
お店の紹介には "居心地の良い空間" と。
"居ても立っても居られない空間" の間違いだろと。
美しく磨かれたまぶしい全面ガラス窓。
ようわからんつぎはぎみたいなの着たスタイリスト集団。
自信に満ちた東京弁の会話。
クロス付けたままカット途中の金太郎頭で逃げ出したくなりました。
でもね。
プロなんですね。
さすがの仕上がりです。
ビビり金太郎丸はどこへやら。
私はいっぱしの東京女になった気がして
表参道の通りを自信たっぷりに歩いたものです。
そう。
これこそが彼らの仕事の目的なんじゃないでしょうか。
その頃の私といえば、蒲田に住んでいました。
羽田に近いのもそうですが、
あの下町の感じが大好きで…。
ひなびた餃子屋に、
たて書きのメニューが雑に貼られた小汚い居酒屋。
昔ながらの八百屋や、
ワゴン山積みの中古ビデオ店がならぶ商店街。
ここ蒲田でも
一度だけ美容室へ行ったことがあります。
そう、
それがのちに髪人生最大の悲劇を生むとも知らず…。
あるとき私は腰まであった長い髪を
バッサリショートヘアにしたいと思い立ちました。
そんな時行きつけの美容室に行くのが普通だと思うのですが…
私には行きつけなんてありません。
道を歩いていると何やら良い雰囲気のお店が。
私は雰囲気だけで飛び込みました。
出てきたのはノリの軽い男性の美容師さん。
嫌な予感がしました。
それから…
長い長い散髪が始まりました。
四方八方切りまくってみたり、
ストレートかけてみたり、
カラーしてみたり、
どうでもいい武勇伝披露したり、
LINE聞き出そうとしたり…
私の髪と心をこねくり回すこと8時間。
どうにかこうにか短髪にはなりました。
疲れ果てて荒ぶる私を鎮めるために、
最後は近所の居酒屋から生ビールまで買ってきてくれました。
もう何が何だかわかりません。
ともあれ髪を短くできたことに安堵し、
その日は帰宅後すぐ眠りにつきました。
そして、さらなる悲劇が待ち受けていたのは次の日のことでした。
フライトのため羽田のオフィスへ行き、スカーフを巻き巻きしていた私。
偶然、一人の同期に会いました。
彼女は世界一可愛くて世界一性格悪い同期です。
私の髪を見るなり走ってきて
「えー!!ショート?!かわいいーーー!!!」
そして私の周りを360度回り、
バカにするネタを探しはじめた彼女。
「え!!やば!!笑」
私は冷や汗をかいていました。
「後頭部、やばいよ?!笑」
後頭部?やばい?
たしかに昨日は疲れ果てて後ろを確認していませんでした。
「後ろなのに、前髪!!
金太郎の前髪ー!!」
は?
私は記憶を巻き戻しました。
へ?
私は結局表参道でカット途中に逃げ出したんだっけか?
急いでトイレに駆け込み確認しました。
そこには…
たしかに金太郎がいました。
ハサミを横に真っ直ぐ入れただけのような襟足。
美容師は慌てて、襟足を整えるのを忘れたのでしょうか。
というより、あの8時間は何だったのでしょうか。
私はもう、金太郎なのでしょうか。
そしてこう思いました。
フライト行ってる場合じゃない。
まさかり買いに行こう、と。