マダミス歴1年の女が半年で4作品をソロ制作した話
初めまして。マダミス作家のえるです。
と名乗り始めてから数ヶ月が経ちました。マダミスの世界を知ってからはちょうど1年になります[1]。今日はそんな私、えるがマーダーミステリーを半年の間で3つのパッケージマダミスと1つのUZUマダミスをひとりで制作するまでのお話をします。
12月:マダミスとの出会い
2023年12月2日都内某所。
人狼やレジスタンスが好きだった私を「える、マダミス好きそう!」と誘ってくれた元同僚に連れられてマダミスをやってみることなりました。
やったシナリオはロストプロダクトさんの『モンスター・パニック』『リング×リング』『殺人者たちの夜会』。初プレイながら3作品連続というスパルタの環境でしたが、嘘をついて騙したり推理で犯人を暴くだけでなく、キャラクターの考えや背景に裏付けられているのが物語考察厨の私に激ハマリ。マダミスにパーフェクトフィットしました。
ですがなかなか遊ぶ相手がいない。それなら遊ぶ相手を作ればいいじゃん!人体錬成の素養がなかった私は生きた人間を使うことにし、マダミス未経験の同僚や大学同期を集めてマダミスを布教し始めました。今では同僚のマダミスグループも30人くらいになり、仕事終わりのマダミス会は人生の楽しみのひとつです。
そして「これ、私も作ってみたいな?」と思うようになるまでにはそう時間はかかりませんでした。
4月:初めてのマダミス制作
処女作となる『海の上で昼食を』の制作を開始したのは今年の4月のことです。こちらは裏社会を生きるマフィアの男たちになって推理と駆け引きを楽しむ物語です。
ところで私は人狼をアドリブ劇でやる劇団『人狼TLPT』のファンで、公演をよく見に行っています。4月にやっていた公演は「トランスミッション」。そう、裏社会の悪党どもが仕事で集まったら人狼が発生したという設定の舞台でした。
「これってマダミスにできるんじゃね?」
そう思った私は公演終了後、家に帰りながらスマホで思いついたキャラクターを適当に書き出してみました。
キャラ名の付け方はTLPTリスペクトで役職の語呂合わせ(例:船長のセント、弟のオットー)にし、私がTLPTに出演するならこんな設定使いたいなあと夢想していたものを並べてみると、なんとびっくり、これはなかなかマダミスっぽいぞ!
キャラクターのたたき台ができたら、次に証拠と時系列を雰囲気で作り始めました。自分は当時も今もすべてGoogle Docにどかどか書き、デザイン作成以外は他のツールを一切使わないマンです。俺達は雰囲気でマダミスを作っている。
ゲームの流れもかなりオーソドックスなマダミスに習いました。最初は王道から。その中でも少しこだわりをいれたのは推理発表フェイズのあとに会議時間をいれたことですね。推理で言いたい放題言われた後に反駁の機会がないのは競技ディベートでは禁止されている「レート」にあたる概念で、「言い返したい〜〜」って思ったので、自分のすべてのシナリオで推理発表フェイズのあとになんらかの方法で話す機会を追加しています。
5月1日:テストプレイデビュー戦
右も左もわからぬままなんとかプレイ可能な状態に漕ぎ着けたものの、カードってどうやって作るんだ?と困ってしまった私。普通の紙に印刷したらペラペラだし透けるしなあ…。じゃあ写真みたいに光沢紙にプリントすれば透けないか!…でも両面印刷できないぞ…。じゃあ表と裏バラバラに片面印刷して貼り付けるか!
というわけで初回テストプレイでは、光沢紙に印刷してチョキチョキ切りボンドで貼っつけるという、小学生の図画工作みたいなことをしました。
5月1日。ペタペタ貼っつけた光沢紙の束を握りしめて向かったテストプレイ会場。最悪地獄の空気が120分流れることになると思うと緊張で震えてました。
しかしいざ始まるとなかなかうまく進んで大歓喜。今振り返ると推理導線がかなり一直線だったなと思いますが、当時としては自分が作ったゲームが目の前で進んでいくだけで感動でした。思ったより議論が白熱し、その場の雰囲気に合わせて制限時間を調整していたら議論時間が3倍くらい伸びてしまいました。やはり誰かに楽しんでもらえるというのがクリエイターにとって一番の喜びですね。
5月23日:そうだ、マダミスを売ろう
当初マダミスを作っていたとき、公開するとかはあまり考えていなくて、まさか売るなんて自分からはとても遠い存在のように思えていました。友達の中で遊んでもらって、一段落したらまた別のシナリオを作って遊んでもらおう。それが私に見えていた世界の関の山でした。
私の認識が変わったのが、とあるテストプレイ卓でした。オンラインで開催ということで慌ててCCFOLIAで実装することになったのですが私のCCFOLIA使用歴は昔『カタシロ』をやったときに一度使ったきりで、作るどころか使用する方もままならない中、CCFOLIAの開発に携わっていたという大学同期にいろいろ教えてもらいながらなんとか実装まで漕ぎ着けました。
なんとか作り上げたルームデータをマダミスのプロみたいな人たちのテストプレイ卓へおそるおそる持っていくと、恐縮なことにめちゃくちゃシナリオを褒めていただけました。
それまでは、褒めてもらっても「まあゆーて友達やもんな〜」と思っていたのですが、『すごく出来のいいマダミス』『衝撃!』などと評価していただけて初めて自信がつき、よし、マダミスを公開してみよう!と思い立ちました。
思い立ったが吉日、その勢いでゲームマーケット2024秋に応募し、幸運なことに当選しました。ここから納期に追われる生活が始まります。
※このご縁で『海の上で昼食を』がCCFOLIA GAMESから本日リリースされました!CCFOLIA所属の本職デザイナーさんに作っていただきましたが、やはり私のような素人とは全然違いますね。対応も素晴らしく、めちゃくちゃリスポンスが早くて作者を大事にしてくれて度重なる修正お願いに丁寧にお付き合いいただいて、マジで神でした。
6月:デザイナーへの道
さて、パッケージで売ろうとなると、次なる課題はデザインです。当方棒人間しか描けないし、ノートはぐちゃぐちゃだし、模試の答案は「汚すぎて読めない、0点」という漫画でしか見たことないような珍事件を実際に体験したほどに、見た目をよくすることには頓珍漢でした。
そんな私が体裁を取り繕うために当初使用していたのはGoogleスライドでした。カードも設定書も全部スライドで作ってました。絶対に間違ってますね。今から考えるとよーやるなと思います。
それじゃあ洒落たパッケージデザインはできねえってことで、友人が使っていたCanvaなるものを私も使い始めました。いや〜、Canvaってすごいですね!
それっぽくなった!こんな感じで私の作品のデザインは進んでいきます。さすがにイラストは描けないので、キャラクターはフリー素材のシルエットや帽子・武器などのアイコンで表現することにしました。
閑話休題:ところで他の作品はどこで生まれたの?
ここまで『海の上で昼食を』の話しかしていませんが、このとき『合コンマダミス』と『ドラゴンリバース』もテストプレイを同時並行で回していました。
プロトタイプを作り上げるのは一瞬、そこから完成させるまでに何倍も時間がかかるものです。なのである程度完成したタイミングでテストプレイに流し、今度は別の作品を執筆しながらテストプレイ回していくという開発体制を整えていました。さすがに3作品のテストプレイが同時に回り始めてからは私の手が足りなくなったので、それからはテストプレイに集中してフィードバックをもらい更新していく、のループをガンガン回していきました。各シナリオはだいたい10回以上テストプレイを重ねて丁寧に修正させていただきました。
このとんでもスケジュールでテストプレイを回せたのも、豊富なプレイ経験とあまりにも協力的なテストプレイ精神を持った友人のお力添え故でした。これだけたくさんのシナリオを同時に改善させていけたのはあなたがたのおかげです。本当にありがとうございました🙇
7月:ピアノのコンクールでマダミスとかどう?
という父の一声に「それだ〜〜〜〜!」と思った私は急遽マダミスを作り始めました。
ピアノのコンクールに出ていた背景がある自分としては、書きやすいしイメージしやすいと思い、実際かなり筆が乗ってすいすい進んでいきました。
こうしてできたのが『最後のソナタ』です。
初めてキャラクターイラストをイラストレイターさんに依頼し、ウキウキしました。やはり、キャラ画像があるといいですね。
8月:パッケージマダミス3作の入稿完了
萬印堂さんで印刷してもらうことを目標に8月中旬の締め切りに追われながら入稿作業を進めていきました。Illustratorの使い方が本当にわからなくて途方にくれていたところ、同人で技術書などを書いていた同僚に手助けしてもらいながらなんとか進めていった思い出があります。
当初は『海の上で昼食を』と『合コンマダミス』だけ販売する予定だったのですが、7月に作り始めた『最後のソナタ』も売っちゃえと思い、気合で入稿まで持っていきました。急ピッチスケジュールの中予定を合わせてくれたテストプレイヤーたちに重ねて感謝を申し上げます🙇
そんなこんなで、マダミス制作を始めてから約4ヶ月、初出展のゲームマーケットに3つの新作パッケージマダミスを引っさげて乗り込むことになりました。
elkurin Gamesとしてゲームマーケットにて販売します!よかったら遊びに来てください!11/16(土)、幕張メッセにてお待ちしております。
駆け出し作家ですがクオリティには自信があります。
お取り置き予約も受付中です👇
9-10月:宣伝するぞい! ← 今ココ
マダミスは作っておしまいではありません。そう、みなさんに遊んでいただけなければ意味がないんです。
ですが自分でモノを売るといった経験がなく、一体どうすればいいのかわかりませんでした。というか、今もわかりません。とりあえずマダミスイベントに顔を出したり、SNSを運用してみたり、プレイ会を企画してみたり、こうしてノートを書いてみたりしているわけですが、果たしてこれで合っているのか、不安になりながら試行錯誤しています。
その中で、マダミスコネクトという店舗と作家をつなぐことを目的としたイベントは、私のような新米作家の救世主でした。The Light Houseさんに公演していただけることになったのもマダミスコネクトで得たご縁故ですし、また店舗とコネクトするだけでなくマダミス関連の先人たちとお話できたのもあまりに貴重な機会でした。プレイ会の文化を教えていただいて早速企画に協力していただいていますし、そしてこの記事もイベントでお話した方に勧められて筆を取りました。
ゲムマまであと1ヶ月、自分に出来ることを全部やって頑張りますので、応援よろしくお願いします🙇♂️
Q.そのスピードで作った作品は本当に面白いの?
ここまで開発の過程ばかり話してきましたが、肝心の作品のクオリティはどうなんだいという話。経験の浅い私が言うのおこがましいですが、既成品に劣らない出来だと自負しています。
私の人狼での強みは「各プレイヤーの視点から見えているもの・いないものが瞬時に把握出来ること」と「記憶力」。これはマダミス制作においてかなり強い能力で、仕事で培ったマルチタスク力も合わさってうまく進んだのだと思っています。
自分のシナリオでは、設定書の面白さや物語の納得感、そして全員が楽しんで帰っていただけるようなゲームバランスを重視しています。また、目標や勝利点を純粋に追いかけるだけで「そのキャラクターらしさ」が表現できるような設計を心がけておりますので、ゲームとしても楽しんでいただけると思います。
感想戦では、それぞれの視点を言い合うと盛り上がるような仕掛けを用意しておりますので、是非一度遊んでみてください!
作ったもの
最後にこのノートを投稿するまでの半年間で完成まで漕ぎ着けたシナリオを紹介させてください!
・海の上で昼食を(GMレス5人・180分)
裏社会に住むマフィアたちがスタイリッシュに暗躍する、推理と駆け引き重視の王道シナリオです。マダミスらしい作品に仕上がったと思いますので、是非一度遊んでみてください。
オンライン版もあります → CCFOLIA GAMES版
・合コンマダミス(GMレス6人・90分)
マダミスを初めてプレイする方にも是非遊んでいただきたいおふざけシナリオです。もちろんマダミス玄人の方もおふざけが好きなら是非!全員同性でキャッキャしたり、男女逆転してみたり、あるいは性別配分を揃えてリアル(?)な合コンをお楽しみください。
・最後のソナタ(GMレス5人・150分)
ピアノのコンクールを舞台にしたシナリオです。音楽背景も楽しめる作品で、エンディングブックには曲目解説と収録しています。2時間のドラマのような体験をお楽しみください。
・ドラゴンリバース(GMレス4人・120分)
ファンタジー世界で旅をする冒険隊一行が竜と対峙した夜の物語です。RPG風の探索をお楽しみください。
UZUアプリの本格マダミスウィークの作品としてリリースしていただきました。
・おまけ:現在進行形の作品
現在は5作目『魂を運ぶ飛行船(仮題)』のテストプレイと、6作目『宇宙を掛ける反逆者(仮題)』の制作を進めています。5作目はThe Light Houseさんのデザイナーさんと共同で進めております。マダミスコネクト様様ですね。
おわりに
全部ひとりでやっているつもりでしたが、こうして振り返ってみると本当にいろんな人に助けられ導かれていますね、僕。
マーダーミステリーはコミュニケーションのゲーム。これからは私がみなさんに楽しいひと時を提供できるよう精進してまいります。
再戦の日まで壮健なれ。
マダミス作家:える(elkurin)
注釈:
[1] 正確には、コロナ前あたりにオンラインの短いシナリオを一度だけやったことがあります。が、シナリオの名前すら思い出せません。