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10月27日に京都で展覧会を鑑賞したら、今年の2月に東京駅で観た展覧会のことを思い出して、「ひとの”強さ”について」まで、思いを巡らせることになった、というお話。
宇治の旅行の帰りに、せっかくだから京都駅で降りて少しだけ寄り道をしました。行き先は龍谷ミュージアム。特別展「眷属」を観てきました。
2024年10月27日(日曜日)特別展「眷属」
10月も下旬なのに、京都は蒸し暑い。
正午近くの京都駅前は、大勢の観光客でごった返していました。
フルレングスのデニムのパンツに長袖のブラウス、ジレを着用。
10月の旅装としては思い切った薄着ですが、なんと汗ばんでいます。
2泊に使った小ぶりのスーツケースを駅のコインロッカーに預けて出発します。
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まずは、腹ごしらえ。
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ご覧の通りの盛大なポーションで、腹ごしらえはじゅうぶん。
どこもかしこもとんでもなく著しく混雑していた駅前に比べると、
嘘みたいに静かなランチタイムでした。
神社仏閣で出会う像たちのことを、ちょっぴり勉強したくなったのです。
展示物から改めて気づくことやら腑に落ちることやら。
宇治で過ごした時の流れの中で体感した波動とも、連動していました。
宇治では、平等院の雲中供養菩薩の群像に涙しました。
藤原の殿様たちが地上に現したものは、極楽浄土へ旅立つ瞬間に見える(はずの)お迎えの姿でした。
彼らは、どんなにか切実に、極楽往生を願ったことでしょう。
そう思ったら、そのひたすらな思いに、目が熱くなったのでした。
藤原頼通とか、道長とか、みたいに具体的に名前がわからない誰もが
きっと、同じような、不安と希望のイメージを抱いていたのでしょう。
昔々のひとびとが、
何を思い、何を畏れ、何を敬い、何に心を動かされたのか。
安らぎとは、慰めとは、よろこびとは、癒しとは…。
神社仏閣を訪れるたびに、私の心が微かに感知する、
かつてそこでつぶやかれた、切実な願いや祈りの、消え残る響き…。
かつて、というけれど、ほんの、千年前とか、数百年前、の、こと。
人類が日本にやってきた、石器の時代にまでも遡っていける道筋が
密かに隠されているような、そんな気がするのです。
人々の暮らしが、風土に深く根差して、
自然の気候の中で営まれていたことを思います。
太陽が昇れば明るくなり、日没後は暗くなる。
灯の優しいあかりの下では、めざましく捗らないでしょうけど、
繕い物をしたり、道具を手直ししたり、
語らったり、うたったり、笑ったり、恋をしたり、していたでしょう。
そんな様子を、感じることはできます。
植物が育つさまを見つめ、幼いものが育つさまを見守り、いとしい人を思い、
種を蒔いたり収穫したり、水を引いたり、橋をかけたり櫓を組んだり、
旗を織ったり籠や縄や網を編んだりして、
具合が悪くなれば薬湯をいただいたりお札をかけたりおまじないをしたりして、
寒さも暑さも嵐もこの世の避け難い流れとして受けとめながらも、
ぬくもりを分かち合い、火を焚いて衣料を工夫して寒さをしのぎ、
食料を蓄える方法を工夫して、はじける祭りのエネルギーに開放され、
そして、いつもお天道様に感謝しながら、暮らしていたに違いない、
そんなひとびとのことを思いながら、
仏教の世界を彩った像や曼荼羅を見ていきます。
仏教について自分の近くに引き当てて考えることは、
仏教徒としてホトケを信仰するとか念仏三昧で修行の暮らしをするとか、
そういうこととは、だいぶ違います。
世界をどうイメージして観るか、
世界の中の自分を、どんな座標を使って、どんなシステムで認識するか、
思考実験を重ねることなんじゃないかな、と、思っています。
そうすると、仏像とか曼荼羅図とかに視覚化されたものとは、
この世に生きていくための地図とか見取り図のようなものなのかもしれないな、
とも、思われてきます。
大陸から伝わってきた仏教によって、元々の日本人のココロにあったアニミズム的な神々への想いが上書きされて、仏教を根拠にした地図が描かれるようになっていった、そういう経緯があり、そこに熾烈な戦いや権謀術数があり、多くの血が流された歴史があるということについても、勉強して知っているし、心情としても理解できるような気もします。
だけど、神仏習合でも本地垂迹でも神本地垂迹でも、どう理屈をつけたとしても、
ひとが、何に神性を感じ、何を尊いものだとして畏れたのか、について、
本質のところは、たいして変わらないことのようにさえ、思われるのです。
スタート地点は「世界」という大自然の前に素直に立つこと。
自分が生物として脆弱な存在であり、小さいモノであるという事実を、シンプルに受け入れること。
同時に自分もまたその大自然に生かされている存在で、大自然、すなわち「世界」と一体なのだと感じられる瞬間の、清々しいまでの全能感をも、受け入れること。
そして、だからこそ、自分には、世界に対する責任があるのだと、覚悟すること。
そういうものが内包された表現が、「人」の心に響くのだと思います。
個体としては弱いからこそ「社会」を編成して助け合って生きていくことが、
生存戦略として絶対に必要だった、「人」の本性に響くのだ、と考えています。
その響くものをなんとか「かたち」にとどめようとして、
ひとが造ったものが、
神仏をかたどった像なのだ、と、思っています。
特別展「眷属」は、とても面白かったです。
特に彫刻が好きでした。
彫刻という、空間を占めるモノがまとっている存在感は、
そのモノに向けられた、ひとびとのリアルな祈りの余韻を、
いまだ濃厚にとどめているかのようでした。
平安時代に描かれた絵も素晴らしい筆づかいで、魅せられました。
2024年2月9日(金曜日)「みちのく いとしい仏たち」の展覧会
美しいミュージアムに展示されている、みやこの雅をまとった像を見ていたら、2024年2月9日(金曜日)に東京ステーションギャラリーで観た
「みちのく いとしい仏たち」の展覧会のことを思い出しました。
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プレスリリースはこちら↓
素朴な、稚拙という言葉すら浮かび上がってくるような造形の「民間仏」が、
みちのくの暮らしに寄り添って、祀られてきた、その様子を伝える展覧会でした。
東京ステーションギャラリーでは、「みちのく いとしい仏たち」展を、2023年12月2日(土)から2024年2月12日(月)まで開催します。厳しい風土を生きるみちのくの人々のささやかな祈りの対象として、江戸時代から民家やお堂に祀られてきた仏像や神像。仏師ではなく大工や木地師らの手によるこうした民間仏の特徴は、素朴でユニークな造形と表情です。本展では青森・岩手・秋田の北東北に伝わる約130点の木像を紹介し、日本の信仰のかたちについて考えます。
今、図録を持ち出してこの展覧会の巡回情報を確認したらびっくりしました。
岩手展 2023年4月8日〜5月21日
岩手県立美術館
京都展 2023年9月16日〜11月19日
龍谷大学 龍谷ミュージアム
東京展 2023年12月2日〜2024年2月12日
東京ステーションギャラリー
ちょうど一年前に、同じ龍谷ミュージアムで展覧会が開催されていたのですね。
時空が、ぐるっと繋がった感じです。
2月9日に、展覧会を観た直後に書いたメモを探し出しました。
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まだ会期に余裕があるような気がしていましたが、
今朝確認したら会期は12日までだったので、慌てて行ってきました。
さすがに会場は混雑していて、人の気配の圧がめんどくさかったけど、
行ってよかったです。
行けてよかったです。
素朴な、飾らない木彫りの像たちは、
ミュージアムにやってくる前の、長い長い時間、
人々の日々の暮らしをそっと支えていた。
手足がもげたり鼻が欠けたりしているけど、
それは、時間に負けたんじゃない。脆さでもない。
祈りと暮らしは地続きで、
祈らなきゃいられないことがあって、
祈るしかないことがあって、
自然の苛烈さや、人の行為のままならなさに向き合ったとき、
抗う、よりも、受け容れて、寄り添って、
謙虚に、そして懸命に生きていた。
これは、強さだ。ひとの、いのちの強靭さ、だ。
この展覧会をひと月ほど前に薦めてくれた友達が、
「何故か、泣いてしまったのよ」
と、言っていました。
まさか、と、思っていたのですが…。
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本当に、いい展覧会でした。
9ヶ月前のことなのでした。
図録をめくって写真を見ていると、改めて、心の中が暖かくなるのを感じます。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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新幹線の出発までに時間の余裕があるとき限定のボーナスです。
(というか、これを食べたくて、時間を作ります)