【特別公開】『エリーツ3』>伝説の初ライブを振り返る座談会
「エリーツ3」に収録の座談会を公開します。
エリーツ結成間もないころの初ライブの様子です。今となっては貴重な映像と証言の数々をお楽しみください。
語り手:海猫沢めろん・佐藤友哉・滝本竜彦・pha・ロベス
構成・書き起こし 佐藤友哉
滝本 みなさん、去年の初ライブはどうでしたか?
佐藤 夢が叶ってうれしかった! ミュージシャンになってライブやりたいって、ずっと妄想してましたから。
滝本 瞑想していれば、夢はかならず叶います。
佐藤 でもまさか、このメンツでライブやるとは思わなかったです。ロベスさんとphaさんが合流する前の、最初期のエリーツなんて、『リンダリンダ』も弾けないポンコツ集団だったから(笑)。
ロベス ブルーハーツって音楽的には簡単なんですか?
海猫沢 めっちゃ簡単です。
pha 今の僕たちで『リンダリンダ』やってみたらどうだろう。
佐藤 全然できなかったりして。
滝本 実際、あのころの僕は、コードも何も弾けませんでした。
pha じゃあ滝本さん何をやってたんですか?
滝本 ただ立ってた(笑)。
海猫沢 滝本さんはあのとき、エレキウクレレを持ってたんですよ。
滝本 あのエレキウクレレは、帰りの電車に置き忘れて、どこかに消えてしまいました。
佐藤 それだけ興味がなかったってことですね(笑)。最初のエリーツの構成は、エレキウクレレと大正琴とドラム。あと僕とめろんさんがギターでした。僕たちの同人誌、『ELITES vol.1』を買うと、最初期のエリーツの音源がダウンロードできるので、奇特な人はぜひ聴いてほしいですよ。
滝本 あのときと比べたら大成長しました。お客さんの前でライブをやったわけですからね。しかも内容的にもよかった。起承転結があってコンセプトもきちんと打ち出せてた。
ロベス ライブのオープニングが、瞑想からはじまるのはよかったですよね。
pha われわれがだれよりも緊張してましたから、あの瞑想はありがたかったです。
佐藤 エリーツには、ライブの型がありますからね。まずは瞑想から入って、お客さんの度肝を抜くと同時にリラックスさせる。そして僕たちも心の準備ができる。これは斬新でおもしろい。有名なバンドのライブ映像を見ても、わりとつまらないのが多いんですよ。ただ演奏してるだけとか、だらだらしたMCとか……。いっぽうの僕たちは、コンセプトのはっきりしたライブができたと思います。
pha ライブのほぼ半分がMCだったけど(笑)。
佐藤 あえてなの! あえて!
滝本 バンドでなによりも大切なのは、いかに世界観を見せるかということなんですよ。
佐藤 僕たちは小説家として、これまでたくさんセルフプロデュースをしてきたから、「世界観を作らなきゃいかん!」というのが、たぶん本能レベルでわかってたんじゃないでしょうか。
滝本 ライブのオープニングに瞑想をするという発明は、画期的かつ合理的なものでした。
pha せっかくですから、映像を見ながら座談会しましょうか。オーディオコメンタリーみたいに(テレビにライブ映像を映す)。
オープニング瞑想のシーン
ロベス はじまった。
佐藤 わあ、みんなちゃんと瞑想してる……。
pha このときは緊張してたな。
滝本 僕は指先が震えていました。
佐藤 お二人はドラムとキーボードだから、間違えたら大変ですもんね。ギターはミスしてもあまり問題ないからなあ。
海猫沢 そうだね。
pha こうして映像で見てみると、僕たちのシルエット、かっこいいですね。
ロベス BOOWYみたい。
佐藤 そうかなあ(笑)。
ロベス シルエットといえばBOOWYですから!
海猫沢 そういや俺、ライブの反省点を見つけたんだよ。ギターのポジションマークって、ネックの縁についてるでしょ? なのに俺、フレットばかり見てたんだよね。今までずっとそうやって弾いてた。なんか癖になってたみたいで。
佐藤 あ、本当だ! 僕もそうだ!
海猫沢 こうやってギターを覗き込んじゃう状態になるから、すごい姿勢が悪くて。
ロベス わかります。あるあるですよね。
海猫沢 こんどから気をつけようかなと。それが反省点。
pha 瞑想……長いですね。まだやってる。
滝本 素面で聞くとそりゃ長いよ(笑)。いっしょに瞑想すれば一瞬なんだけど、ただ見てるだけじゃ長く感じるものです。
佐藤 ウチの子供は配信でこのライブを見てたんだけど、「瞑想が長かった」って言ってました。現場にいたお客さんはともかく、配信のお客さんはうまく入り込めなかったかもしれないから、ここは改善の余地ありかも。
pha あ、やっとはじまりますね。
『おやすみマイエンジェル』がスタート
佐藤 変な歌。
一同 爆笑
佐藤 冷静に見たら、なにこの歌。「アスファルト駆け抜ける 車はやい」って、ずっとくり返してるけど。
ロベス これでいいのか……。かっこよくないんじゃないのか。
海猫沢 やってること、フットボールアワーの後藤が歌ってる『ジェッタシー』と同じだよ(笑)。
滝本 でも、ちゃんと仕上がってますよ。歌も音もしっかりしてる。
pha ライブに向けて、さんざん練習しましたからね。あのときのわれわれは、かなりレベル高かったんじゃないかな。
佐藤 今はすっかり、もとに戻ってしまったけども。
滝本 単調な歌詞も相まって、めちゃめちゃ聴きやすいですよ。構成が美しい。インディーズバンドでこんなに聴きやすい曲って、なかなかありません。
佐藤 エリーツが今の体制になってから一番最初に作った曲ですからね。慣れてるし、簡単だし、しかもすごくキャッチー。
海猫沢 あっというまに終わるなあ。もう二曲目だ。
『サマー・ポニーテール』がスタートして、いきなりキーボードを間違える滝本さん
佐藤 すごい、思いきり間違ってる! うしろでphaさんが失笑してるじゃないですか。
滝本 初見だと気づかないから大丈夫。あとこれは大事なことですが、もしミスしても堂々としていれば絶対にバレません。
海猫沢 やっぱり俺、ギターを覗き込んでるわ。っていうかみんな覗き込んでる。みんなめっちゃ下見てる。
佐藤 全員シューゲイザー! シュー見すぎだろ。
滝本 今、べつの反省点を見つけました。演奏中、みんな体が揺れていない。硬直していますね。
海猫沢 俺たち身体性がないんだよ。
佐藤 演奏に必死で、体を揺らすひまなんてなかったしなあ。
海猫沢 本来は体でリズムをとるべきなんだけどね。わかりやすいコピー曲やって、それで練習したほうがいいかも。
佐藤 ここはやっぱり、『リンダリンダ』で練習しましょう。ドーブネーズミ……いや、だめだ。恥ずかしくて歌えない!
pha エリーツの歌詞も大概ですよ。
滝本 まあこれも、「夏 ポニーテール」ってくり返してますけど、いい曲だ。名曲です。そしてやっぱり仕上がっている。
pha めろんさんのギターもいい音ですね。泣きのギターって感じがして。
海猫沢 レスポールは音がいいからね。でもさ、重たくてやってられないんだよ! 一応、軽いギターを買ってみたんだけど、音だけ考えたらレスポールだよね。
佐藤 僕のテレキャスもどきとくらべて、この音圧よ……。
海猫沢 たしかに佐藤さんのギター、すごいクリーンだけど、このときエフェクター使わなかった?
佐藤 エフェクターを踏むと、音が大きくなるだけで歪まないんですよ。目盛りの調節に失敗したんです。
滝本 目盛りってなんだ(笑)。
佐藤 なんかほら、音を整えるやつ……ツマミっていうのかな? あれのセッティングがうまくいかなかったんです。あとアンプもジャズコーラスだから歪まないんです。マルチエフェクターにしたんで、次のライブは大丈夫なはずです。
『HAKUCHI』がスタート
佐藤 あれ? なんかかっこいい?
海猫沢 いつも『HAKUCHI』だけは、ぴったり合うんだよね。リズムがそろってて聴きやすいわ。
佐藤 この曲は初期エリーツのころに作ったから、そういう意味じゃ、何年も練習してるようなものですしね。
滝本 今までの静かな曲調から一点して、軽快なロックナンバーで陰鬱な世界を歌い上げています。エリーツには静と動がある。
ロベス うん、本当にかっこいい。
滝本 年季が入ってるように見える。小説家が片手間でやってるバンドって感じじゃない(笑)。
佐藤 おふざけがないもんね。
pha 甘えがない。
滝本 澄み渡ってる。
海猫沢 なんで俺たち『HAKUCHI』だけは、こんなに安定感があるんだろう。
ロベス 曲が速いからだと思います。スピードがあるとリズムって合わせやすいですからね。前の二曲は隙間があってむずかしいんですよ。裏拍も意識しなくちゃならないし、いろいろごまかせないんです。
海猫沢 なんか、こうやって改めて見てると、あのときは必死だったなって思うわ。
ロベス ライブ前に喫茶店で待機しているときが一番緊張しました。
佐藤 あ、そのとき僕、牛丼食べてた。
ロベス めっちゃリラックスしてる(笑)。
『なにかください』がスタート
pha かなりゆったりした曲ですね。これは演奏しているほうも、休憩タイムみたいな感じでした。
佐藤 ドラムもギターもスカスカなメロディに乗せて、滝本さんがおかしなことを延々と歌っている。ほとんど瞑想だよこれ。『なにかください』は、歌う瞑想だ。っていうかこの曲、遅っ(笑)。
pha このテンポのまま、五分くらい演奏してたんじゃないかな。
滝本 隙間しかない。画期的ですよこの曲は。でも結構、気持ちのいい感じがします。緩急が出せるのは大切です。
佐藤 緩急というか……。
滝本 今にもとまりそうなスピード感、ふつうのバンドでは出せませんよ(笑)。
pha 歌詞が宗教っぽいですよね。演出のスモークで後光が差しているみたい。
佐藤 全国の宗教団体が研究しそう。
pha 次からステージの前に賽銭箱を置きましょうか。
佐藤 変な歌だなあ。ビール券とか図書カードとか、ほしいものを連呼してるだけ(笑)。さっきまでロックやってたのに。
滝本 エリーツの楽曲はバリエーションが豊かでいいですね。BPMも曲調もテーマもいろいろあるから、世界観が広い。
佐藤 メンバーそれぞれが曲を作ってるっていうのが、世界観を広げる要因になってるのかも。ワンマンバンドだと、一人の才能に依存しちゃうかたちになるけど、みんなで曲を出し合ったり作曲会議したりするおかげで、いろんな曲ができる。
ロベス 対バン相手のてろてろは、一つの世界観で勝負するタイプのバンドだったから、そういう意味では対照的でしたね。
佐藤 てろてろは演奏がうまかった……。
滝本 僕たちだってうまいですよ。
pha 今、僕らが聴いてる音はPAを通してるから、実際のライブハウスで聴こえてた音とはちがうんですよね。
佐藤 実際の音がどんなものだったかは、知りたいような知りたくないような。
『Beats for Elites』がスタート
海猫沢 ついに最後の曲だ。ベースいいね。やっぱりヒップホップはベースとドラムが重要だわ。
pha うわ、僕のラップだ。自分が歌ってるのを見るのは恥ずかしいな……。
佐藤 すぐ慣れますよ。次はめろんさんのラップです。
海猫沢 この曲も音が揃ってる。ライブのときはこれくらい単調でいいのかもしれない。やることが多いと演奏にしか注意が向かなくて、まわりの音が聞けないから……あ、俺ここで歌詞が飛んじゃうんだよ。
滝本 佐藤さんがすかさずフォローして、めろんさんのパートを歌うんですよね。
佐藤 ナイスアシスト!
pha 滝本さんのラップもいい。自分の住んでるところを紹介してるだけなんだけど(笑)。あと、こうやって見てると、みんなリズムに乗って体を揺らしているのがわかりますね。最後になってようやく慣れてきたのかもしれない。
海猫沢 本当だ。グルーヴ感が出てきてる。ヒップホップは自然と体が揺れるよね。
ロベス あー、僕のラップだ。自分の歌ってる声聴くの憂鬱だ……。
佐藤 すぐ慣れますよ(笑)。
pha そして最後が佐藤さん。
佐藤 明るいなあこの人。リリックが暗くないし、やたらと動いてる。
海猫沢 大槻ケンヂっぽい(笑)。
佐藤 動きで表現しようとすると、なぜかコミックバンドっぽくなっちゃうんです。
pha あ、ライブ終わった。
滝本 すばらしい。なんの問題もなかった。完璧だった。
佐藤 えっと、それで結論としては……。
滝本 またライブやろう! エリーツというバンドに、僕は伸びしろを感じましたよ。
佐藤 というか伸びしろしかなかった(笑)。
ロベス まだまだ底ですからね……。