魚は水にあらずんば命を失う
大和心という通販サイトがある。
DHCの創業者であり、長者番付に名を連ねる𠮷田嘉明氏が、打倒Amazonを掲げて今秋公開されたサイトで、人材集めにフルカラーの折り込み求人広告を出すというあまり例を見ない手法であった事と、その報酬が破格だとして、公開前から業界では話題になっていた。
実は就職活動中に紹介会社からも「大チャンスです」などと案内が来ていたのだが、求人広告にクセがありすぎる事、また過去にヘイト発言をして問題になっていたという事を知っていたので、明らかに地雷案件だろうと見送っていた。
報酬については、およそ業界平均の2~3倍ほどにはなるので、なんだかんだでそれなりに精鋭が集まるのかと思ったが、フタを開けてみれば、なんだか葬式のような印象の極めて味気ないサイト(トップページにポエム付き)が誕生しており、創業者の意向を差し引いたとしてもさほど能力の高い人材が集まっている様子はなかった。
まあ…今回のはさすがに地雷臭が強すぎたのだとは思うのだが、このようなポッと出の企業だと、大変な金額をかけて求人広告を出し、破格と言って差し支えない報酬をもってしても、そこそこ優秀な人材を雇用する事すら難しいのだと改めて再確認した。(※)
昔の友人が、惰性で勤め続けている小企業の建て直しを模索し「素晴らしい案を考えた」と顧問会計士に相談したのだが、あっさり協力を拒否されたと話していた事があった。
絵に描いた餅でしかない事をその人はよくわかっていたのだろう。
プランとしては、老い先短いオーナーに実務を引退してもらい、他所から「優秀な若者」をそれなりの待遇で迎えるというものだったのだが、とりわけ有名でも伝統があるわけでもなんでもない、ほとんど潰れかけている田舎の小企業(オーナー付き)の音頭を積極的に取りたがる「優秀な若者」がどこにいるというのだろうか。
就職活動の心理的負担を避けるために、環境を変えるという発想はある意味ポジティブと言えなくもないが、惰性で10年勤続であるが故の発想の限界を露呈した一件だと感じた。
こちらにも書いた通り、優秀な若者からは報酬の他に「発展の可能性」や「自身の向上が期待出来るハイレベル環境」が求められているため、望みの薄い火中の栗を拾うような事は滅多にしないものなのだ。
※創業者が「前澤友作」だったならば、話はまた違ったと思うが。