向こう側の世界へ
何かの向こうに見える風景を、写真に納めるのが好きだった。向こう側に見える世界は、見慣れた景色とちょっと違って見えて。向こう側を眺めていたくて、向こう側に行ってみたくて。そんな写真を集めはじめた。
額縁の中の絵のように
向こう側の風景を写真に撮るようになったのは、いつからなのかはっきり覚えていない。アルバムに貼った写真を見返すと、スコットランドで撮った写真があるから、その頃からなのかもしれない。
エディンバラ城を見物し、壁に空いた四角い穴から写真を撮ると、まるで額縁の中の絵のように見えて面白かった。
それからチャンスがあれば、似たような写真を撮った。ポルトガルのナザレという海辺の町で撮った写真では、壁の穴の向こうに青い海が覗いている。ギリシャのミコノス島の路地で、クレタ島の街角で。向こう側に覗く景色を撮った。
社会人になって、1年だけ写真の教室に通った。年に一度、美術館の展示スペースを借りて教室の生徒たちの写真展が企画されていた。何かテーマを決めて展示した方がよいと聞き、考えた末に「向こう側の世界」をテーマに選んだ。
旅先などで撮った写真に加え、新たに写真を撮りに行った。友人に付き合ってもらい、「向こう側」ができる場所を探した。地面に落ちていた椿の花を拾って、友人の手のひらに載せてもらって撮った。黒い縁取りの中に、鮮やかに赤い花が写った。指で円を作り、その向こうに見える空も撮った。指の間から、青い空が広がっていた。
イギリスで向こう側へ
書くことを仕事にしたくて、試行錯誤していた頃。海外の街並みを紹介するシリーズ本の仕事に参加できそうになった。このnoteを一緒に作っているMihokoを誘って、写真を撮ってもらうことを考えていた。いろいろ調べていたのに、残念ながら話が流れてしまった。今ならそういう大人の事情も理解できるけれど、当時はそんなことは分からず、ただただがっかりした。
何もしないまま終わるのが残念で、Mihokoと一緒に、彼女の住むイギリスで写真を撮って回ることにした。ただ街並みを撮るのではなく、コンセプトを決めて撮影しようと話し、出てきたのが「向こう側」という切り口。
外から見たら何の店かわからない、入ってみると料理書専門の本屋さん。門をくぐると現れるバラのアーチと、秘密の花園のような美しい庭園。同じ場所で撮った昼と夜の風景。こちら側と向こう側で変化が出るような写真を意識した。
日本に戻ってから、撮りためた写真を出版社に持ち込んで見てもらったりもしたけれど、形になることはなかった。まだ電子書籍を自分で作ることなんてできなかったので、ブログに細々とアップして終わってしまった。
その写真たちが、このnoteを始めて日の目を見るようになった。せっかくだから改めてテーマに沿って写真を出したいと思い、新たに写真を選んで、言葉をつけて、写真記事を始めた。どんな風に作っていくのかまだ手探りだけれど。
向こう側の世界へ
扉を開いて、歩いて行こう。
窓の向こうに見える景色、
通りの向こうに広がる街並み。
まだ見ぬ風景を探して
向こう側の世界へ。
知らない世界に踏み出したいけれど、知らない世界は少し怖くて。行きつ戻りつするような日々だったけれど、ちょっとずつ踏み出して、違う景色を見に行きたくなっている。
(Photos:Mihoko&Shoko Text:Shoko) ©︎elia
▼写真記事「向こう側の世界へ」
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