旧約聖書物語 8
ナジル人として育てられ
民を救った豪傑サムソンの登場
そして12部族の間で語り継がれる物語
谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi
目次
1 士師サムソン (士師記13-16)
2 士師サムソン その2 (士師記13-16)
3 士師サムソン その2 (士師記13-16)
4 サムソンとデリラ (士師記16)
5 サムソンとデリラ その2 (士師記16)
6 ベニアミン族の過ち (士師記19-21)
7 ベニアミン族の過ち その2 (士師記19-21)
8 ベニアミン族の過ち その3 (士師記19-21)
9 ルツの物語 (ルツ記1)
10 ルツの物語 その2 (ルツ記1)
1 士師サムソン
(士師記13-16)
イスラエルの民は
またも主の目に悪と映ることを行い
そのため40年間
ペリシテ人の支配下にあった頃
ツォルア出身のダン族に
マノアという男がいた。
彼の妻は不妊症で
彼らには子供が無かった。
ところがある日、ある人が彼女に
あなたは遠からず身ごもって
男子を生むでしょう。
その児は胎内にいるときから
ナジル人として神に撰別された子です。
ですから葡萄酒や汚いものを
採ってはなりません、また産まれた後も
頭に剃刃を当ててはなりません。
その子はペリシテ人の支配から
イスラエルの民を解き放つ
先駆けとなるでしょう。
と言って消えた。
女は事態を理解しかねて、夫に
自分に起きたことを話した。
夫もまた訳が分からず
その人が再び現れる事を願った。
しばらくして妻が畑に行った時
再びその人が現れたので、改めて
一体どうすれば良いのかと尋ねた。
するとその人は
すでに言い伝えた戒めを守るように
とだけ言った。
マノアが食事をもてなそうとしても
その人は受けようとせず
それなら主に捧げよ、と言った。
ただただ不思議に思いつつ二人が
岩の上に捧げ物をして見守っていると
その人は、祭壇から立ち上がる炎と共に
天に昇って消えた。
二人はそのことによってその人が
まさしく神の使いであった事を知った。
やがて女は男の子を産み
男の子はサムソンと名付けられた。
サムソンは神に祝福され逞しく成長し
壮健な若者となった。
そして時が来て、彼はティムナの
ペリシテの女に恋をした。
サムソンが父母に
ペリシテ人の女を嫁にしたいと言うと
父母は、同族の中には
女がいないとでも言うのか、どうして
よりによってペリシア人の女を
と反対したが、サムソンは
彼女が好きなのですとだけ言い
親の制止をきかなかった。
そうしてサムソンは
女に会いにティムナに下った。
その途中一頭の若獅子が襲ってきたが
サムソンは素手で、子山羊を裂くように
獅子を裂いた。
彼はそのことを父母にも誰にも言わず
女の所に行くと、好きだ、と言った。
しばらくして後
サムソンは女を娶りにティムナに下り
先日の獅子の屍をみると
そこに蜜蜂が巣を作っていた。
彼は手で蜜を採ったが
それが獅子から採った蜜だとは
誰にも言わなかった。
アブラハムの妻の年老いたサラがそうであったように、また新約聖書においてイエスを生む処女マリアがそうであるように、旧約聖書の中の最強の豪傑であるサムソンの不妊に悩んでいた母が、やがて男子を身ごもることを神のつかいが伝えます。天使がわざわざやってきたのは、妊娠するはずのない女性から生まれるのですから、その子は神から特別に選ばれた男子であるということを伝えるためです。
ちなみにナジル人というのは、民をカナンまで率いてきたモーセが領土を獲得するためにヨルダン川を越えて民を進軍させる前に、ヤコブ・イスラエルの12人の子を祖先とする12部族の役割分担を決めた時に、そのどこにも属さない新たな役割を持つ者と定めた特別な人です。ナジル人として育てるにあたっては、主に3つの禁忌事項、すなわち、葡萄酒(酒)を飲まない、髪を切らない、死体に近寄らない、を守らなければ神力が備わりません。
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