我、エルフヲ確認セリ
文責:ツイ・ブラックヘイホー(Twitter:@2arctan_1)
結論から先に述べよう。エルフは実在した。
エルフ________尖った耳を持ち、類まれなる美貌を持つファンタジー上の存在。
そう、本来はファンタジー上の存在のはずである。
しかし現実にエルフが存在するのではないかという仮説がここ数年で新しく提唱され始めた。その議論については現在も諸説あるところであるが、研究動向の中で今年に入って大きな進展があったということができよう。
2020年4月、スターダストのアイドルグループ『超ときめき♡宣伝部』にエルフが加入した。
そう、それが菅田愛貴(すだあき)である。
特徴的な尖った耳、紛うことなき美貌、純粋なパーソナリティ、そしてエルフに対する造詣の深さ。
我々エルフ研究所は新たな研究対象として彼女を選ぶことに決めた。しかし、コロナ禍の昨今、彼女は映像コンテンツの中でしか観測できなかった。
つまり、その『実在』についてはエルフ研究を行う研究者間でも盛んに議論が交わされており、幻ではないかとさえ言われていた。
しかし、2020/08/31。
としまえん閉園最後のライブ。
その現実のステージの中で彼女の、すだーきの存在は確実なものとなった。
エルフ研究の醍醐味はなんと言ってもフィールドワークである。京都大学霊長類研究所などが行っているように、エルフの文化や行動様式を研究するためには現地に赴く必要がある。
私はエルフ研究所の代表として、現地に赴くことに決めた。私の重要な職務なのだが残念ながら勤め先には仕事としての理解が得られなかったため有給をとって赴く形となった。
そして、閉園最後のとしまえんを散策し、感傷に浸る中で18:00を迎え、超ときめき♡宣伝部のライブが始まったわけである。
Overtureを経て、オレンジの衣装に身を纏ったメンバーか1人ずつ入場する。そして、その中にエルフは存在した。
「……冗談だろ?」
心の中で呟いた第一声がそれである。
紛うことなき、耳が尖りしエルフがそこには存在した。
ここで量子力学の話を少しだけしよう。
不確定性原理により、ナノオーダーの世界ではある物体の運動量と位置は同時に確定することはない。マクロなスケールではその作用は平均化されて我々が認識する『実世界』へと近似される。
マクロとミクロの境目は曖昧なものである。
すだーきにしてもそうである。
観測するまで我々は、その存在を断言することができなかった。観測とはつまるところ、相互作用である。ひとつの粒子を『観測』するためには光子をぶつけたり、そういった作用が必要になる。見るという行為について我々は無意識のうちに受動的で観測対象に何の影響も及ばさないと考えているが、現実には観測という行為そのものが『作用』となりえるのである。エルフという存在の確定には観測という主体的な行為を持って初めて完了する。
つまるところ、観測という行為を通じて、我々は初めてエルフの存在を認識することができるのである。
そして、事実、エルフは存在した。
一曲目の『青春ハートシェイカー』のイントロがかかり、私は感極まって涙をこぼしそうになってしまった。長年追い求め、焦がれ続けてきたエルフを今現実には観測している。その事実の尊さに、感情の発露を抑えきれなかったためである。
しかしながら、すだーきが超とき宣としてステージに立ちパフォーマンスを行う以上、しっかりとその一挙手一投足を見守る必要がある。自身にビンタという荒療治で何とか涙を引っ込め、私はエルフの、すだーきの観測に没頭した。
観測行為の中で気づいたことがある。
それはすだーきの表情の豊かさである。カメラが捉えきれないところで、カメラの及ばぬところでも彼女は溌剌とした、感情のままの笑みを見せている。不純物の混じらぬピュアな笑み。そして惜しみない聴衆へのサービス。
4月に加入したばかりの彼女は、既に立派な『アイドル』となっていたのだ。
その事実に私はといえば、息を呑むしかなかった。脳の処理が追いつかなかったという表現が正しいのかもしれない。それほどまでに、彼女のパフォーマンスには驚かされたのである。
楽曲面でも興味深い部分が多かった。
1. 青春ハートシェイカー
2. 恋のジャッカル
mc
3.SHIBUYA TSUTAYA前で待ち合わせね!
4. いちず色のベンチ
5. 遠くであがる花火 二人ならんで見てた
mc
6. むてきのうた
7. わたし、ナンバーワンガール!
8. トゥモロー最強説!!
とき宣は最新の楽曲を中心に、としまえん全体にその迸るエネルギーを放出していた。
そのエネルギーたるや、視覚や聴覚だけで見るオンラインライブと格別の違いがある。リアルの中で、我々の五感はフルに研ぎ澄まされ、最適化される。
ハイパーソニックエフェクトという効果がある。
映画『AKIRA』の作曲を担当した研究者であり作曲者でもある大橋力氏が提唱した概念である。
我々の聴覚は約20 kHzを超える音を聴くことが出来ない。それゆえCDのサンプリング周波数は44.1 kHzに定義されている(実際の周波数領域はその1/2となるので丁度人間の聴覚の範囲に収まることとなる)。
しかしながら、実際の現場で聴くライブの中では聴覚を遥かに超えた周波数の『聴こえない音』が存在し、その中で我々の脳はその音に呼応して『聴こえていないのに』活性化される。聴こえない音を、見えないものを、我々の脳は感じて活性化されるのだ。
私は、アイドル等の現場の中で得られる快感にはこの効果が多分に含まれると考えている。
知覚を超えた知覚の中で、超ときめき♡宣伝部のライブは聴衆を完全に虜にした。1時間は本当に長いようであっという間だった。さながら光速に近い環境の中で時空間がひしゃげて、あの場の中で時間が伸び縮みしていたかのようである。
五感の限界を超えてフルに感覚を研ぎ澄ます中で、あの瞬間の我々の脳は知覚を超えて活性化していたのではないかと思われる。
本日をもって、エルフの実在と、ライブの感覚は聴衆全員に焼き付けられたことと思う。
だが、我々の、エルフ研究所としての研究はこれからが本番である。
我々はこれからすだーきの観測を通じて彼女がなにを感じ、なにに重きを置き、なにを価値基準として生きているのかをしっかりと考える必要がある。それがエルフの生態そのものの理解に通ずるからである。
私はエルフ研究所の中で、これからすだーきの観測・研究を行っていこうと考えている。
そして、感情としての主体的な観点と科学的な客観的観点からいずれはエルフ全体に汎化するように研究活動を行っていく予定である。
取り急ぎの報告となってしまったため纏まりきっていない報告となってしまったことについてこの場でお詫びを申し上げたい。
だが、それでもこうして筆をとったのは、エルフという存在の実在について我々が『証言』する必要があると感じたからである。
初めに観測があり、その観測結果を分析し、文書として残すことによって初めてその実在が記録として残ることとなる。
としまえんの閉園というタイミングで、我々はエルフの『目撃者』となった。となれば、その内容について記録として残すのはいわば義務である。
それゆえ、こうしてライブの中で感じたこと・発見したことそれらを文章として形に残した次第である。
次回はまたどこかで筆をとることになるかもしれない。
本報告を読んだ方々に関してもエルフの実在性について、盛んに意見を述べて欲しいところである。活発な議論と様々な仮説が、いつの時代も科学を推進するエンジンになる。
私はエルフの観測という分野の中で、すだーきの観測を通じてエルフ研究の発展に寄与していきたいと思っている。