#004 産官学の橋渡しをしつつ、コミュニティを広げたい|ElevationSpaceの『宇宙、配信中。』
ElevationSpaceの『宇宙、配信中」は、プレスリリースやイベントでは伝えきれないディープな情報を、宇宙ビジネスを取り巻くホットな話題とともに、社内の様々なメンバーと楽しくお届けするポッドキャスト番組です!
第4回目のゲストは共同創業者/取締役の桒原さん、インタビュアーは広報PRの武藤です。
-早速ですが、まずは簡単に自己紹介をお願いします。
桒原
株式会社ElevationSpaceの共同創業者/取締役を務めております桒原聡文(くわはら としのり)と申します。
東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻 宇宙探査工学分野というところの、宇宙ロボット研究室の准教授を務めています。
3年前からは、NPO法人「大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)」の理事長も務めており、そのほか、株式会社中島田鉄工所および株式会社ALEの技術顧問、各種政府委員なども務めています。よろしくお願いします。
小型衛星を15機以上開発してきた桒原研究室
-ElevationSpaceの技術的な母体である桒原研究室について深掘りしたいと思います。
現在桒原さんは東北大学工学部の准教授ですが、専門というのはどういう分野になるんでしょうか。
桒原
専門を一言で言うと「人工衛星工学」です。総合工学に属する分野で、人工衛星に関係する技術全般の研究開発を行っています。
私は大学生の時から人工衛星の研究開発にすごく興味を持っていまして、博士号はドイツのシュトゥットガルト大学というところで取り、100 ㎏級の人工衛星の研究開発をしていました。そういった経験を基に東北大学に着任しまして、小型~超小型と呼ばれる大きさの人工衛星の研究開発を行ってきています。
人工衛星工学とは、まず人工衛星のシステムインテグレーション、機械を組み合わせて1つのシステムに完成させる部分であるとか、制御工学、電気・電子工学、通信工学、こういった分野の研究開発を行っています。そして、それぞれのテーマごとに特定の技術を実証するような小型衛星の開発をして、軌道上に打ち上げて実証するというようなことを繰り返しているんですね。
今まで15機以上打ち上げていて、研究グループとしては世界的にも稀な実績を有していると言っても過言ではないと思っています。
東北大学での具体例としてはまず、2012年に世界で初めて国際宇宙ステーション(ISS)から放出されたキューブサットです。同様に、2016年にISSから世界で最初に放出された50 ㎏級の超小型人工衛星も、東北大学が研究開発したものになります。
2019年に打ち上げられたJAXAの革新的衛星技術実証プログラム1号機では、私が関与した50 kg級の超小型人工衛星が3機打ち上げられ、非常に思い出に残っています。
その中の1つは、株式会社ALEと東北大学の共同研究として取り組んだ人工流れ星衛星でした。
別の打ち上げになりますが、株式会社中島田鉄工所との共同研究である、宇宙ごみ問題を解決するための「膜展開式軌道離脱装置」の実証衛星「FREEDOM」の打ち上げと軌道上実証など…そういった実証を世界に先駆けて実施してきました。
この「FREEDOM」は、実は太陽電池セルも通信装置も搭載されていないという非常に変わった、斬新な衛星なんですが、そういうふうに固定観念にとらわれず、新しいことを実証するためには何が必要なのかを掘り下げて、特徴的な人工衛星を開発してきているのが、桒原研究室の特色です。
-その他、海外の政府機関と連携した開発実績もあるのですよね。
桒原
そうですね。例えばベトナムやフィリピン政府からの委託事業として、小型衛星の研究開発を他の大学や研究機関と協力して実施してきた実績があります。
特にフィリピンの例については、小型衛星の実証の後に、フィリピン国内で宇宙庁「PhilSA」が設立されました。そうした動きにも貢献することができたのではないかと思っています。
小さい衛星を作るのは何が難しい?
-先ほどのお話の中で出てきた「キューブサット」という衛星について、詳しく教えていただけますか?
桒原
キューブサットの「キューブ」というのは、立方体という意味ですね。
10cm×10cm×10cmで、質量で言うと1.33 ㎏がキューブサット規格となり、世界標準になっています。
そのサイコロがいくつ繋がってるのかで、1ユニットキューブサット(1U CubeSat)だとか、2ユニットキューブサット(2U CubeSat)とか言われています。
小型衛星というのは、500 kgぐらいまでの大きさのものを指します。人工衛星は、大きいものでは10 tくらいのものもありますので、そういうものに比べると500 kgでも”小型”衛星なんです。
英語では、スモールの下にマイクロ、その下にナノ、ピコ、フェムトと下がっていき、100 kg以下の衛星のことをマイクロサテライト、10 kgくらいのものをナノサテライト、1 kgぐらいのものをピコサテライトと言います。
そしてキューブサットというのは、1 kgから10 kgぐらいまでのカテゴリーのことが多いので、ピコとかナノとか超小型というのがその部類になりますね。
-ElevationSpaceが開発している初号機「あおば」は200 kg級ですが、小さい衛星を作る難しさはどこにありますか?
桒原
小さい衛星は、質量や容積、電力などに制約があります。そういった限られたリソースで、所定の機能を満たすようなものを作るためには、それぞれの機能を小型・軽量・高性能化していかないと実現できない、というところが小型衛星の難しさです。
近代の小型衛星という考え方は、20年前ぐらいから始まりました。
大学などの研究機関が国のプロジェクトに依存しない形で、独自に研究開発を行おうとすると、コスト的に大型の物が作れず、必然的に小さくなっていったという背景があったと思います。
しかし、今、民間の宇宙開発が高度化してくるにつれて、今まで小型であった衛星も、少しずつまた大型化の道をたどっている傾向があります。
-大型から、ただ小型化していくだけの潮流ではなくて、そこから少し大型化に揺り戻すような動きもあるっていうことですね。
なぜ宇宙環境利用・回収に取り組むことになったのか
-ElevationSpaceは「宇宙で実験をして地球に持ち帰ってくる」という宇宙環境利用・回収というのをやろうとしていますが、この事業内容は、初めから定まっていたんでしょうか?
桒原
ElevationSpaceを起業するとなった時に、小型の宇宙利用・回収ビジネスに取り組むというのはひとつのコンセプトでした。
ですがその前に、どういった事業がビジネスになりうるのか、世界や日本でどういった技術が求められているのかという観点から1~2年をかけて準備をしまして、この事業にたどり着きました。
-大気圏再突入・回収は、宇宙で実験して物を持ち帰れるという便利さもありますが、まだJAXAでも成しえていない有人の宇宙開発というところに繋がってくるのが大きいと思います。そのあたりはいかがお考えですか。
桒原
有人宇宙開発については、日本としては国際協力のもとでこれまで実施してきてはいますが、日本独自の有人宇宙システム、人を乗せた状態で打ち上げられるようなロケットなどは、国内ではまだ実現できていません。
ElevationSpaceを創業するにあたり、代表の小林稜平さんと、どういう宇宙開発をしていくかという話を始めた時から、取り組むのであれば人類の活動圏を拡大していくような活動であるべきだと、有人宇宙開発の可能性を広げていくような事業に取り組みたいという点でビジョンが一致していました。
宇宙に人が行くとなると、色々な実験・研究開発が必要だったり、滞在するスペースが必要になったりしますが、そういう世界を築いていく時に、いちばん最初に何が必要かというのを考えたんです。
そうすると、今以上に高頻度に宇宙空間に飛び出していって、そして色々な実験、製造をして、そしてまたそれを持って帰ってくる… 地球と宇宙の往還の頻度を上げて、より気軽に宇宙環境にアクセスできるようにする。
そうすることで、宇宙を利用する人々のコミュニティーを拡大していくことに寄与できる、宇宙技術の開発が促進されていくと考えたんです。
-これまで積み上げられてきた小型衛星の知見と、新しい要素としての大気圏再突入・回収というのが、今ElevationSpaceの事業として融合しようとしているところだと思います。
桒原
再突入技術は、まったく未知の技術ということではなく、桒原研究室で取り組んできた技術の延長線上にあると考えています。
しかし、これまでの実績と、”宇宙で実験して物を持ち帰る”という国内民間企業として成し得ていない新しい技術を融合し確立するのが、ElevationSpaceにおける研究開発の難しさでもあり、面白さでもあると思っています。
SNSには抵抗があった…
-展示会などでは「桒原先生のX見てます!」と声をかけていただくことがとても多いです(笑) 今後ElevationSpaceにおいて、どのようなところに注力していきたいとお考えですか?
桒原
いくつもわらじを履かせていただいてるわけですけれども、1つの観点として、大学だけで頑張っていてもどうしてもできないことってあるんですね。産官学とかよく言われるのもその例です。そういった意味で、大学だけでできないことに取り組むためには、新しいことを始める必要があったという背景があります。ですので、産業界の側面で取締役という形で、株式会社ElevationSpaceに尽力していきたいと思っています。
また、「民」という側面もあって、大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)など非営利団体としても取り組む、そういったバランスを私の中で常に模索しながら活動しています。
株式会社ElevationSpaceの事業に特化してお話しすると、小型の高頻度回収サービスというのはまだ実現できていません。このサービスの実現のためには、法規制の面でも考えていくべきところがあったり、国内でもコミュニティを作っていかなければいけなかったり、新しい宇宙開発のあり方を模索していくフェーズにあると思うんですね。
「コミュニティを広げる」というのは、論文を書いてるだけだとどうしても難しいことですので、ちょっと抵抗があったのですが、思い切ってSNSで情報発信をして、みんなで宇宙を盛り上げていこうという活動に、かれこれ1年以上、ある程度の時間を割いています。
なるべく、私の思いを伝えたりとか、最新の情報を共有したりというのを頑張っていますが、皆さんに「見ています」と言っていただけるのは有難いですし、「ElevationSpaceの活動がきらりと光ってますね」と言っていただくこともあるので、とても嬉しいなと思ってます。
私自身はそういった形で、対外的な窓口として、国や周りの企業さんやユーザーの皆さんや若手人材と、ElevationSpaceを繋ぐような動き方をしていけたらいいなと思っています。
-とてもSNSに抵抗があるとは思えない、というのが桒原さんのXをフォローしている方の全員の感想かなと(笑) フォローがまだの方はぜひどうぞ!
この番組では、みなさんからの感想やこんな話が聞きたいというリクエストをお待ちしております。Xで #宇宙配信中 というハッシュタグで投稿してください。
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それではまた次回の「ElevationSpaceの、『宇宙、配信中。』」でお会いしましょう!
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