#005 ElevationSpaceの技術で拓く宇宙開発の未来|ElevationSpaceの『宇宙、配信中。』
ElevationSpaceの『宇宙、配信中」は、プレスリリースやイベントでは伝えきれないディープな情報を、宇宙ビジネスを取り巻くホットな話題とともに、社内の様々なメンバーと楽しくお届けするポッドキャスト番組です!
第5回目のゲストはCTOの藤田さん、インタビュアーは広報PRの武藤です。
-まずは自己紹介をお願いします。
藤田
藤田和央(ふじた かずひさ)です。ElevationSpaceのCTOをやっております。
CTOというのは最高技術責任者という立場で、株式会社ElevationSpaceの技術に関して、ほとんど全ての責任を担っているということになります。
よろしくお願いします。
「大気圏再突入」と「惑星保護」はどうつながる?
-藤田さんは元々JAXAにいらっしゃって、ElevationSpaceに加入された時も大きな反響がありました。
はやぶさシリーズや惑星保護にも関わっていたり、「火星衛星探査計画MMXの人だ!」という声も… これまでの経歴を教えてください。
藤田
皆さんが思われてるほど大した経歴じゃないですよ。笑
私は大学の時は、電気推進という、電気の力によるエンジンの研究をしていました。
普通、化学ロケットっていうのは、燃料と酸化剤を混ぜてそれを燃やしてノズルで加速して推力を得ます。それとは違って電気の力で推力を得るようなエンジンの研究をしてました。
電気推進では、推進剤のガスが非常に高温になり、プラズマ化します。
そういったプラズマを使うという流れから、宇宙科学研究所(ISAS)の高温気体力学の大家でいらっしゃる安部隆士先生にお声がけいただいて、ISASでお世話になることになりました。
また、地球に帰ってくる時はカプセルの周りが非常に高温のガスになります。
ISASでは当時、はやぶさ探査機の開発、そしてはやぶさカプセルの開発をやっていたものですから、”高温大気”の文脈で、はやぶさプロジェクトに加入し、大気圏再突入一筋でずっとやってきました。
カプセル屋さん、大気突入屋さんというと、宇宙探査で次に目指すのは「大気を持つ惑星」ということで、火星探査にたどり着きます。
火星っていうのは生命がいるかもしれないということで、探査するためにはいろいろと決まりがあります。例えば、地球から探査機を送る際に、地球の微生物を持ち込んでしまうと、元々火星にいたかもしれない生命と混ざり合ってしまいます。そうすると将来の火星探査で生命が発見された時に、地球から持ち込んだものなのか、元々火星にいたものなのか分からなくなってしまいますよね。それを避けるために、しっかり滅菌して行く必要があって、そういうのを「惑星保護」と言います。
そんなわけで、カプセルから、大気があるということで火星探査、火星探査から惑星保護、という流れで様々な取り組みに関わってきたというわけです。
なぜJAXAを辞めてElevationSpaceへ?
-皆さんの関心が大きい部分だと思うんですが、JAXAをお辞めになって、スタートアップへ転職された背景を教えていただけますか。
藤田
昔は、探査を検討しようと思うと、いろんなメーカーさんが検討してくださったという時代がありましたが、最近は「探査の概念検討してください」とお願いしても、引き受けて下さるところが少なくなってきた印象があります。スタートアップにもお声がけしたんですが、それもなかなか難しかった。
なぜなのか考えた時に、欧米に比べて日本のスタートアップはまだ育ちきれていないという問題があり、昔から宇宙に参入されてる大手のメーカーさんたちも、特定のミッションを実現するので手いっぱいでリソースが足りない、という現状があると思ったんですね。
要するに、日本の国内でもう少し民間を伸ばしていかないと、この先、日本の宇宙開発が頭打ちしてしまうんじゃないかっていう懸念を強く感じたんです。
もう1つは、特に日本はそうかなと思うんですけれども、エンジニア全般がハッピーじゃない気がします。
海外は技術をもっているエンジニアはかなりの高給で迎えられますが、日本は好奇心の搾取というか…やりがい搾取であまりハッピーじゃない。これはよくないと思うんです。
民間の宇宙活動を伸ばすことによって、エンジニアたちが「民間に行けば高給がもらえる」という状況を、若い人たちのために作り出したい。
そのためには、自分が民間に行って民間企業を伸ばして、良い待遇で若いエンジニアを受け入れられるような”箱”を作らなきゃいけないなと思ったんです。そこで、JAXAという箱にこだわらずに、民間で宇宙を目指していく場所として、ElevationSpaceへの加入を決めました。
特にElevationSpaceは、私が今まで携わってきた大気突入というキーワードで事業を展開しようとしてましたので、すぐに適応できるかなという思いもありました。
-自分がやりたいことのためだけでなく、業界全体のことを見据えての動きだったんですね。
藤田
もちろん自分のやりたいこともありますよ!
軌道まで上げて高頻度で帰ってくるシステムができれば、それだけたくさん、日常的に宇宙に行って帰ってこられるわけじゃないですか。JAXAだと、10年に1回探査機が宇宙に飛ぶか飛ばないかというペースなので、それだとちょっと寂しいですよね。
-「高頻度に行って帰ってこられる」という話は、前回の桒原さんの回でもありました。宇宙をアクセスしやすいものにする、日常的に行って帰ってこられるところにするというのは、弊社エンジニアのみんなも同じところを目指していると思います。
▼桒原さんの回はこちら
大気圏再突入・回収は何が難しいのか?
-素人からすると、「宇宙から地球に帰ってくる」というのは、かつて”はやぶさ”がやったじゃん、そんなに難しいことなの?と思う方もいらっしゃると思います。
大気圏再突入・回収というのは、難しいことなんでしょうか。
藤田
はやぶさとか、はやぶさ2に関わってきた人たちからすると、やることをちゃんとやってればできるという感じかもしれません。笑
大気圏再突入で特に難しいのは、打ち上げの逆、つまり減速しないと帰ってこられないということです。
宇宙に行くときは、ロケットが秒速7.8kmぐらいまで加速すると、周回軌道に入ることができます。逆に、周回軌道から地球に帰ってくるときには、その秒速7.8kmを、0にしないといけない=減速しなければなりません。
どうやって減速するかというと、大気の力を使って減速するというのがいちばん効率がよい方法です。しかしその際、運動エネルギーを熱に変えるため、大気を圧縮しながら、大気が高温になる状態で、大気にエネルギーを伝えながら高温になって落ちてくるんですね。その、1000度を超えるような高温から機体を守らないといけない、というのも難しい点です。
また、ただ落とせばいいというわけではなくて、地球の狙った場所に戻してくる必要があります。そうしないと回収できないですし危ないですからね。狙った場所に戻すためには、ある時間、ある力で減速して、狙ったところに落とすという制御の難しさがあります。
弊社ではハイブリッドスラスタというものを自社で開発して、正確に宇宙機を減速させ、狙ったところにカプセルを落とすということを達成しようとしています。
JAXAとスタートアップの違いは?
-研究開発にあたって、JAXAとスタートアップの違いはどういうところに感じますか?
藤田
JAXAと私たちの大きな違いは、やはり資金力ですよね。
2018年にJAXAが行った小型回収カプセル(HSRC)のプロジェクトは低コストで開発されたと言われていますが、我々が現在開発している「あおば」と比較すると、圧倒的にコストがかかっています。我々は、HSRCの3分の1程度のコストでやらなければいけないので、限られたリソースでどのようにミッションを成功させるかというのは、非常に考えるところです。
エンジンひとつとっても、高性能なエンジンは様々ありますが、そういったものを調達すると非常に高価であったり、オーバースペックなものであったり、という課題があります。そこで、我々はハイブリッドスラスタという解に行きついて、開発を行っているんですね。
あるいは衛星バスにしても、JAXAが使ってるような高価な装置は使わずに、安いものを使ったり。そういう工夫をしています。
-一概に比較することは難しいかもしれませんが、もし今のプロジェクトをJAXAでやっていたら、何人体制でやってたと思われますか?笑
藤田
HSRCはカプセルだけでしたが、それでも私の知る限り10人以上の人が携わっていました。我々は、衛星やスラスタも含めて10数名で、カプセル担当に至っては3名しかおりません。なので単純計算で言えば、JAXAの3分の1以下の人数でやってるということになります。少数精鋭です。
ElevationSpaceが拓く宇宙開発の未来
-ELS-Rというプラットフォームで、宇宙で実証・実験した成果物を地球へ高頻度に持ち帰ることができるようになれば、ポストISS時代の地球低軌道利用に一石を投じると思います。
-このELS-Rというソリューションは、技術的な面で、今後の日本の宇宙開発にどのように貢献すると思われますか?
藤田
現状、我々はELS-Rの初号機「あおば」を実現するための技術開発を行っているわけですが、会社のポートフォリオとしては、その先、ISSからの物資回収手段である「ELS-RS」であったり、軌道間輸送を行う「ELS-T」、我々独自で拠点を作る「ELS-A」などに、順次発展させていくことを考えています。
様々な活動を行う中で、JAXAなどでは採用してもらえないような民間の技術も積極的に宇宙へ持ち込む。そうすると、宇宙で使える技術の幅が広がることにつながると思っています。
もう1つは、いろんな民間企業が宇宙に進出する手助けをする、仲間をどんどん宇宙に連れていくことによって、さらに多様な技術が宇宙に運ばれるようになると思います。結果として、官主導で進めてきた宇宙開発から民に移り、多様な技術やダイバーシティが実現していけば、さらに活動は拡大しますし、コストも下がっていくと期待しています。
特に今我々が力を入れているのは、その共創事業、民間企業の方々と一緒に新しい価値を創造して社会実装していくというところです。これからも宇宙事業の関心のある様々な企業と連携していきたいと思っています。
-宇宙へ行く機会も、宇宙で何か実証した後に物を地球に戻す機会も少ないという現状を、ELS-Rやその先の様々なポートフォリオによって、宇宙利用の機会を増やし、宇宙で使える技術の選択肢を増やしていく。結果として、宇宙開発に多様性が生まれるということですね。
藤田さん、ありがとうございました。
この番組では、みなさんからの感想やこんな話が聞きたいというリクエストをお待ちしております。Xで #宇宙配信中 というハッシュタグで投稿してください。
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それではまた次回の「ElevationSpaceの、『宇宙、配信中。』」でお会いしましょう!
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