#014 ISS R&D Conferenceレポート|ElevationSpaceの『宇宙、配信中。』
ElevationSpaceの『宇宙、配信中」は、プレスリリースやイベントでは伝えきれないディープな情報を、社内外の様々なメンバーと楽しくお届けするポッドキャスト番組です!
今回は、7/30~8/1にかけてアメリカで開催された国際会議・ISS R&D Conferenceに参加してきた宮丸さん・星川さんに現地のレポートをお聞きしました。
インタビュアーは武藤槙子です。
ー 宮丸さんは久しぶりの登場、星川さんは初出演です。簡単に自己紹介をお願いします。
宮丸
ElevationSpace COOの宮丸です。
COOとして、「何でもボールを拾う役」をやっております。また、今日お話する「ELS-RS」という我々のサービスラインナップをメインで担当しています。よろしくお願いします。
星川
はじめまして、星川と申します。
私は、Business Departmentのカスタマーインターフェースというポジションで、主に顧客との技術調整などを担当しています。Engineeringの部署も兼務していて、現在開発中の初号機「あおば」のペイロードインターフェースやロケットインターフェース調整も行なっています。
加えて、「ELS-RS」の技術検討も担当しています。よろしくお願いします。
「インターフェース調整」のプロフェッショナル
ー 星川さんについては、今回のテーマにも大きく関わると思うので、ぜひご経歴を詳しく教えていただけますか?
星川
私は、新卒で有人宇宙システム(JAMMS)に入社しました。
JAMMSというのは、国際宇宙ステーション(ISS)の運用業務をJAXA から受注している企業でして、私はそこで主に3つほど業務を担当していました。
一つ目は、ISSの日本モジュール「きぼう」に搭載するペイロードについて、それがきちんと動作するかとか、他のペイロードと一緒に稼働しても問題ないかとか、そういった観点を技術的に判断して、最終的にペイロードの搭載にOKを出すという仕事です。
二つ目は、その「きぼう」に搭載されている通信・管制装置について、NASAとの技術的なインターフェース調整をする仕事です。
ISSのシステムは、実はかなりの頻度で、ハードもソフトも改良を繰り返してるんですけど、その改良の内容が他の国のモジュールに悪さをしないかとか、ちゃんと正常に稼働するかとか、そういったことをテストしたり、技術的に判断するような仕事をしていました。
三つ目は、ISSに物を運ぶ補給船「こうのとり」の開発・運用や、次世代の無人補給船である「HTV-X」の開発業務の初期に携わっていました。
JAMMSの在職中に、三菱電機の鎌倉製作所に出向する機会をいただきまして、そこで「こうのとり」の電気モジュールの開発をしていたんですが、システム電気担当としてシステム試験や搭載するペイロードとの技術調整をしていました。
出向中には、「こうのとり」の運用管制官の訓練に合格して、実際にフロントに立って運用管制もしていましたし、HTV-XとISSのインターフェース調整もやったり…
経歴の中で「インターフェース調整」ってもう何回言ったか分かりませんが(笑)、まとめると、「きぼう」「こうのとり」「技術調整や開発」「運用」を一通り経験した、外部技術インターフェースの調整屋さんだと思ってください。
ー 星川さん、運用管制もできるんですね!?JAXAの「きぼう」フライトディレクタの、あのイメージでしょうか?
星川
そうですね(笑) あのイメージです。
ISS R&D Conferenceとは?
― 今回、ISS R&D Conferenceに、ElevationSpace(以下、「ISSRDC」)から宮丸さんと星川さんが参加された背景や目的を教えてください。
宮丸
ご承知の通り、ISSは2030年をめどに退役することが決まっており、ISS退役後の様々な問題を、まるっと「ポストISS問題」と言ったりします。
我々ElevationSpaceは、この「ポストISS問題」に対して、小型無人の人工衛星で実験や実証を行って、成果物を持ち帰ってくるというソリューション「ELS-R」をやろうとしています。
これに加えて、もうひとつのサービスとして提供しようとしているのが、「ELS-RS」です。
「ELS-R」の「R」は、Returnとか、Re-entryとか、Recovery(回収)という意味ですが、これに「S(ステーション)」をつけています。
「ELS-R」が、小型衛星の中で実験・実証を行うのに対し、
「ELS-RS」は、有人のステーションで行った実験や実証の成果物を、無人の宇宙機に詰め込んで、貨物を地球に戻す、”帰りの便”を提供するサービスです。
すると、当然「ELS-RS」は、ISSや、次世代の商業宇宙ステーションと関わっていくことになりますので、ISSや商業宇宙ステーション構想に関係する団体や企業と直接会って話をし、情報収集するということがメインの目的でした。
ー ISSRDCは、ISSに関してのみ議論する場ということではなく、その後の商業宇宙ステーションとの接続などもテーマになっているんですね。
宮丸
ISSRDCは、ISS National Labというところが主体となって開催されていて、この団体は、ざっくり言うと微小重力環境の利用を促進することを目的としています。
彼らは、ISSか、ポストISSかに関わらず、「微小重力環境を利用すれば、こんなことができる」「こんな成果が生まれるのでは」という議論を行っているんですね。
なので、ISSRDCでは、商業宇宙ステーション建設に名乗りを上げている企業が登壇して、「自分たちが構想するステーションでは、こんなことを考えている」というような発表をして、それに対して質疑を受けたり、関係者が接触・交渉したりする場になっています。
ニーズを重視する日本、技術的実現性を重視する海外
ー 星川さんから見て、ElevationSpaceがISSRDCに参加した意義はどのようなところにあったと思われますか?
星川
宮丸さんからもあったように、まずは、NASAや、商業宇宙ステーションを建設しようとしているいくつかの民間企業の最新動向について、情報を収集するというのは重要な意義でした。
もうひとつは、そういった人たちに対して、我々の「ELS-RS」とはどういうもので、それを使うとどういう良いことがあるかということを売り込むことですね。これがメインの目的だったと思います。
現在、ISSから物資を回収するには、宇宙飛行士が乗り込んで帰ってくるような大型の宇宙船が使われていますが、我々の「ELS-RS」であれば、小型で、高頻度に、オンデマンドで返してくるというのがコンセプトであり、従来との大きな違いです。そういったサービスに対するニーズに関する情報も収集しました。
情報収集の中で、各社から意見やアドバイスをもらったりしましたが、皆さん共通して好感触というか、「やっぱりそういうの必要だよね」という反応だったのは手ごたえを感じられましたね。
そして、彼らの関心事としては、ニーズの有無というより、技術的に本当にそれができるのか、という点を重視していたのが印象的でした。
ー 何か開発しようとするとき、ニーズが重視されがちな日本と、技術的にできるのか否かが重視される海外…面白い違いですね。
ー 現地には、ElevationSpaceの競合にあたるような企業もいたんでしょうか?
宮丸
いましたね!
しかも、我々の「ELS-R」と似たサービスをやろうとしている会社が結構増えてきたなという感覚もありました。
けれど、「競合が増えた」というのは決してマイナスではなくて、むしろ、みんながそこにマーケットニーズがあるということに気付き始めた、その証左だと思っています。
私たち自身も、ISSがなくなった後、ますます大きくなる宇宙環境利用ニーズに対して、1社で対応できるとは思っていなくて、航空会社のようにアライアンスを組んで、海外も含めた企業と連携するということもできるのではと考えています。
ElevationSpaceの海外出張のお楽しみ
ー まじめな話はこれぐらいにして(笑)、ざっくばらんな現地の感想やエピソードを教えてください。
宮丸
まず、開催地がボストンだったんですけど、ボストンもホテルの費用が非常に高いので、今回、星川さんと一緒に民家の屋根裏部屋みたいな所に泊まったんですよ。キッチン付きの。
ー えっ??
宮丸
ハーバード大学の近くだったんですが、そういう所に泊まれば、なんかこう、苦労してハーバードに留学しに来た学生の気分が味わえるんじゃないかと思って…わざわざそういうところにして…(笑)
ISSRDCの後にはワシントンDCにも行きまして、現地の日本大使館にいる防衛駐在官と、宇宙と安全保障の関わりについて話をしたり、スミソニアン国立航空宇宙博物館に行ったりしました。これは…行ってよかったです。
星川
決して屋根裏に泊まったせいではないんですが(笑)、私は現地で体調を崩してしまいまして…
ー じゃあ、ElevationSpaceの海外出張でおなじみの、宮丸さんお手製ディナーは食べられなかったんですか…?
星川
それはいただきました。(笑) むしろそのおかげで早く良くなった気がします…
宮丸
自分で作るのがいちばん安上がりなんですよね。ちゃんと栄養も考えて作りましたが…(笑)
私は料理を作るのが苦にならないんで、パパッと作って、みんなが美味しいって言ってくれるんだったらこれはいいやというのと、あとは、なんか合宿みたいな感じになって、結束が強まるような効果もあると思うので、海外出張の裏ネタとして重要視しています。
星川
まじめな感想を話すと、今回のカンファレンスでは、NASAがISSを大事にしているということや、残り少ない運用期間でどれだけISSを活用するかにエネルギーを注いでいる感じが伝わってきました。
NASAは、ISSに参画していない途上国の学生向けに教育プログラム的なことをやってるんですが、今回のカンファレンスの中でその表彰式をやったり、食事をしていると宇宙飛行士がパッと出てきて登壇したり。そういうイベントもうまく使って、ISSを盛り上げていくんだというのを感じましたね。
ISSあっての商業ステーションだし、ISSあってのアルテミス計画だ、っていうストーリーが印象的でした。
一民間企業がISSで何かやったというのは、宇宙業界全体の中でも、実績として大きな武器になると思うので、ElevationSpaceとしてはISSときちんと連携していく、「ELS-RS」を実現させたいという思いが強くなりました。
ー ISSって、2030年退役という話題ばかりが前に出て、もう商業宇宙ステーションや月に目が行ってしまっているのかなと思ってたんですが、「残り少ない期間でいかに使いつくすか」という議論が行われているというのは意外でした。
供給が需要を創出する宇宙ビジネスの世界
ー ElevationSpaceが今後力を入れていきたい領域について教えてください。
宮丸
国内マーケットについては、日比谷宇宙会などのコミュニティ活動を通じて、民間企業の事業開発の支援をするという取り組みに力を入れており、継続していきます。
一方、世界中のどこでも同じですが、宇宙開発は民需だけではなく、官需(国からの受注、予算獲得)が非常に重要になります。
我々も、本拠地である日本の官需をきちんと獲得して、会社として事業活動を続けていける状態を作ったうえで、民需を重ねていくということが必要だと思っています。
海外マーケットについてですが、日本の宇宙開発も盛り上がってきてはいるものの、実際にお金を出してということになると、まだまだ及び腰です。そういう意味で、アメリカとかはマーケットの規模がもう全然違うわけですよね。
そうした時に、我々のソリューションは、もしかするとアメリカを含む海外のほうがウケるのかもしれない。だとすれば、どういう形で海外マーケットを開拓していけるかというようなことは、今後具体的なステップを踏む必要があると思っています。
今年は、今回アメリカに行き、ヨーロッパも行きますし、多分アジアも行くと思いますので、我々としてどういう攻め方があるのか見極めていく年になると思います。
星川
ElevationSpaceの魅力は、何といっても国内で唯一、再突入回収技術にチャレンジしているという点です。
再突入技術は有人宇宙船にもつながりますし、月や火星からのリターンでも必要になってきます。ですので、我々としてはこの技術をとことん突き詰めて、追従を許さないくらいの強みにするということが肝心だと思っています。
また、日本ではどうも、宇宙ビジネスが一種の流行りのように、もてはやされる感じが個人的にはするんですけど、途中でもお話ししたように、今はニーズの有無よりも、技術的にできる・できないっていうところをしっかりやっていく時期かなと。
Space Xにしても、エンジニアリングであそこまで成長した企業ですよね。元々、目に見えるニーズがあったから始めたというより、彼らが打ち上げを増やして、コストをあそこまで下げたから、他のロケット会社もどんどん増えたし、打ち上げ機会があるからこそ小型衛星を扱う会社も増えたという順序があると思うんです。
なので、ElevationSpaceとしては、地球への高頻度回収機会を多く、安く提供していくことをまずは目指す。そうすれば、あとは使いたい人が、自分たちで使い方を考えて、ニーズは生まれてくるものだと。
大事なのは、「そういう世界が来る」と自分たち自身が信じ切ってやりぬくことなのかなと思います。
ー 最後に、ビジネス領域で採用強化しているポジションについて教えてください。
宮丸
先ほどもお話ししたように、ビジネス領域では民需と官需の開拓を行っています。
民需については、日比谷宇宙会といったコミュニティ活動で、業界そのものを盛り上げるということをやっていますが、官需については国の予算を獲得していくという作業にあたって、プロセスが確立されていないなかで、官公庁向けの様々なコミュニケーションが必要になってきます。
また、ルールメイキング、仕組みづくりということもやっていく必要があるので、セールスとポリシーメイキングを統括するようなポジションも必要になっています。
以上を受けて、現在は「Government Sales Manager」「Head of Government and Regulatory Affair」という二つのポジションをオープンしています。
ElevationSpaceの事業やミッションに共感いただける方と、新しい世界を共に作っていきたいと思っています。
ー 宮丸さん、星川さん、本日はありがとうございました。
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